第050話 ホテルに戻って ※
前回のあらすじ
何だか変な奴にからまれて、美少年をかくまうことに。
「すまなかったな、フィカ」
「なあに、あれくらいお手のものさ」
ホテルに戻ってフィカと別れ、キャフは少年を連れて自分の部屋に入った。どうも目が覚めたようだ。背中からおろすと、少年は立ったままぼーっとしている。
改めて見ると本当にまだ子供で、手足は長いが背丈はキャフの肩ほども無い。少しくせっ毛の金髪は男にしてはやや長髪だけれど、上品にカットされている。そして逃げた時に軽く汚れた白シャツに眩い金刺繍のジレ、キュロットとタイツの組み合わせ。明らかに貴族の身分だ。
「おい、シャワー浴びるか?」
「う……ん。た……のむ……」
と、無防備に体を差し出して来た。
「は?」
「服……脱ぎたい」
(おいおい、1人で着替えもしない身分かよ)
「しょうがねえな」
ボタンや紐が沢山ある服の扱いに手こずり、何とか脱がせる。
下着も絹製と高級品だが、さすがにそこは自分でやれるようだ。
「ほら、シャワー浴びてこい」
そう言うと、素直に少年はシャワーを浴びに行った。
(しかし、あいつは、誰なんだ?)
ベッドに寝転び、記憶の糸をたぐり寄せる。だが彼に見覚えはない。自分の子供じゃないのは確かだ。そもそも覚えが無い。だが知り合いを思い出しても、似た顔はいなかった。貴族との食事会で居たのかも知れないが、キャフは美少年に興味ないので記憶に残ってないのかも知れない。それなら仕方ない。
暫くすると少年はシャワーを浴び終え、バスローブを羽織って出て来た。結び方を知らないのか前がはだけている。どうせ男同士だから気にしないので、キャフは起き上がると「ほれ、このベッド使え」とそのままベッドに寝させた。
「キャフ君、ありがとう」
少年はそう言い残して、直ぐに眠りにつく。やはり、彼はキャフを知っている。魔法関係者か。貴族の魔法使いも存在する。でも魔法杖を使わずに発動できる人間なんて、聞いた事がない。
だがこの容姿はモンスターでもなさそうだ。モンスター達も、モンスター生息域から出ると長くは生きられないと聞く。普通に人間界で暮らせる訳は無いだろう。
謎は深まるが眠くなったので、キャフも部屋にあるソファで寝た。
翌朝、用心のためルームサービスにする。フィカが事情を2人に伝え、3人の部屋で一緒に朝食だ。少年の服は着せ方が分からなかったので、キャフが持っているTシャツと短パンにさせる。同じ服でも別の人間が着ると価値が変わって見えるのは、永遠の謎だ。
少年が部屋に入ると、ラドルとミリナは色めき立った。
「ふニャ〜 可愛いニャ〜♡」
本能なのか、ラドルは少年の頬にすりすりして愛おしむ。彼は無反応だ。
「金髪碧眼、やっぱり素敵ですね〜♡」
ミリナも彼の目に吸い込まれ、じゅるるっと涎が出かけている。
「おい、お前ら。見せ物じゃねえんだから、迷惑だろ」
キャフが2人に注意する。だが2人とも美少年にゾッコンで、少年が無言で無反応なのを良いことに、髪や腕をスリスリさわさわしていた。2人とも恍惚とした表情をして悶えているのが、癪に障る。
これはヤバい。ただでさえ良い思いをしてないのに、ここで主人公の座まで奪われたら、立つ瀬が無い。こいつ、もしキャラ投票やったら絶対主人公より上にいくタイプだ。
キャフは、アイデンティティの危機を強く持った。幸い、フィカだけは興味が無さそうである。自身と同類の外観だから見慣れているのだろう。
「ほら、早く飯食え!」
キャフはイライラ気味に言った。良い齢をしてみっともないが、そんな余裕も無くなるほど美少年のパワーは絶大だ。上品な食べ方がキャフを余計に苛立たせる。キャフに促され、2人ともようやく食べ始めた。
やや険悪な空気の中、食事も無事に終わった。
「それでお前、名前は? 家はどこ?」
「それを聞いて、どうするの?」
「親元に帰らないといけねえだろ?」
「そうだね…… でも、君達と一緒にいるのは駄目なの?」
「わたしは良いニャ!」
「わたしも大歓迎です!!」
「お前らは黙ってろ!」
「いや、それより『闇の住民』がまた来るかも知れない。彼らは依頼を受けたら完遂する。ここも直に見つかるだろう」
「それもそうだな。どうする?」
「仕方ないな…… じゃあ、服着させて」
「何だって?」
今度はフィカが目を丸くした。
「いやこいつ、自分で服も着れねえんだ。フィカ、できるか?」
「無理だな」
「わ、わたしがやるニャ!」「わたしも!!」
「着せ替え人形じゃねんだぞ!」
とは言うものの、あてに出来るのは2人しかいない。キャフの部屋に連れて行き、ワーキャー言いながら、あーでもないこーでもないと苦闘して、ようやく元のそれらしき格好になった。
「わー、ほんとの王子様みたいだニャ! わ、わたしはラドルって言いますニャ♡ お料理が得意ですニャ♡ 齢は17ですニャ♡」
「わたしはミリナです! スタイル良いですよ♡」
何だか自分達をアピールしているが少年は無表情で、何とも思ってない風だ。
(とっとと親元に帰らせよう)
固く決心した、キャフであった。




