第047話 浜辺にて
前回のあらすじ
やっと海に着きました。
砂浜は、すでに大勢の海水浴客で賑わっていた。
ホテルのプライベートビーチみたいに見えたが、地元の人も来るようだ。
(やっぱり……)
キャフが3人を捜すと、既に二十歳前後の男数人が3人を囲んでいる。ナンパだ。気の弱くて体つきの良いミリナは、腕をつかまれて嫌がっている。ラドルも尻尾を上げて威嚇体勢だ。1人が犬系獣人なので、余計に嫌なのかも知れない。この3人だから予測できた筈だが、キャフの登場が遅かったようだ。
「あ、ちょっと、オレの連れに何か用?」
「師匠!」
キャフが彼らに話しかけると、「チッ」と舌打ちして男共は離れて行った。容貌はおっさんで体格はやや貧相だけれど、役割は果たせたようだ。
「助かった。2人に迷惑かけるとまずいから、手を出せなくてな」
フィカが言う。彼女1人なら瞬殺だろうが、他の仲間がいる可能性も考慮したのだろう。ミリナが連れて行かれでもしたら、何をされるか分からない。賢明な判断だ。
「ああ。こっちこそ、遅くなってすまんな」
「怖かったです〜 魔法杖持ってたら一発なのに」
「お前、一般人にそんな事したら、こいつみたいに魔法使えなくなるぞ」
「ミリナちゃん、世間とはこういうものニャ。良い人ばかりじゃないんだニャ。んじゃ師匠、荷物見ててニャ〜」
そう言うと「海ニャァア〜!!」と叫ぶラドルを先頭に、3人達は海へと走って行った。どうせそんな役割だと思っていたから、キャフは残された3人の荷物をまとめて持ち、レンタルのビーチパラソルとデッキチェアを借りて寝そべる。
3人の姿は遠目からでも判別できる。サングラスでバレないし目の保養でもさせてもらおうと、他の水着の女性達もあわせチラチラと見ていた。3人、キャフの目線に気付かず楽しく海辺で遊んでいる。
ラドルは引いてゆく波で、足元にある砂が崩れるのが新鮮らしい。立ったまま、波が押し寄せるのを待っては騒いでいる。ミリナはカニと遊んだり、貝殻を拾っているが、眼が悪くて何をするにも近い。フィカはそんな2人の様子を見守っていた。捜索隊では溺れる人の救出訓練もするから、泳ぎは達者なはずだ。本音は泳ぎたいのだろうが、そこは大人の余裕か。
これからどうするか、キャフはのんびりと考える。
モドナには冒険者ギルドがある筈だから、モンスター生息域でお金を稼いだり、経験値を積ませることは可能だろう。しばらく滞在する予定だから、お金はあった方が良い。それにミリナもラドルも、実戦経験は未だ足りない。ここを拠点にして、二,三ランクぐらいアップしてもらおう。
(しかし問題はそこじゃないな……)
彼女達3人はある意味で大丈夫だろう。問題は魔法を使えないキャフ自身だ。どんな役割でいくべきか、決めかねていた。今の状況では、職業替えをするしかない。不可能ではないが、この齢で転職して最低レベルから始めるのは厳しい。慣れなくて、足手まといになりそうだ。
(どうすっかなあ……)
考えても妙案は浮かばない。冒険者ギルドで適業検査を受けて、まだマシな職業に決めるしか無いだろう。ずっと魔法使いしかやって来なかったから、他の職に就く自分は想像がつかなかった。
(剣は無理だな)
そもそもフィカがいるから、剣士をする必要がない。
(力仕事も駄目だろう……)
女性3人なので多少役には立つだろうが、モンスターと肉弾戦で勝てる自信は全くなかった。格闘技術も持ち合わせていない。それに体力がないからすぐ消費しそうだ。
……
「……キャフ師、寝てますか?」
遠くから声が聞こえる。ただ夢見心地でもあり、返事はしなかった。
「寝てるな、これ。置いて行くか?」
「可哀想ですよ〜」
「じゃあ、起こしてみるかニャ?」
「どうやるんですか?」
「なあに、あそこを蹴っ飛ばせば一発だ。行くぞ。せーの」
「や、止めて下さい!! イタ!」
ドスン!
キャフは不穏な会話に慌てて飛び起き、デッキチェアから転がり落ちた。
「冗談だ。そろそろ昼食にしないか?」
「わ、分かった」
フィカの笑顔に、顔が引きつるキャフであった。
昼食をとり終えると、3人とも疲れたのか昼寝をしに部屋に戻った。
キャフは眠気もとれたので、ホテルを出て散歩に出掛ける。
以前集会で訪れた時の記憶を頼りに、街をあちこちと歩き回った。
歴史の古い中心街は迷路のようで、意外な場所を通って楽しめる。
行き止まりかと思う狭い路地を進むと急に広場に出たり、坂の上の公園に簡単に行けると思いきや全くの遠回りになったり。途中にある道祖神の石像も、長年の歳月であちこち削られ字も消えかかっていて、味わい深かった。
地図を頼りに冒険者ギルドの場所も確認した。登録は全員でが必須だから、パンフレットだけもらって帰る。市場や店の位置も道すがら確認する。異国情緒の品が沢山置いてあるのは、王都と少し違う所だ。
ホテルに戻り暫くすると扉がノックされ、「師匠〜」とラドルの声がした。
出てみると、「夕食にゃ、レストランに行こうニャ!」との誘いであった。
「分かった」とキャフは言い、一緒に屋上にあるレストランへと向かった。
風も程よく、海上に浮かぶ月が綺麗だ。レストランは程よく賑わっている。直ぐに席に通されてメニューを見ると、海産物のバーベキューがお勧めらしい。早速、人数分頼む。お酒もほどよくたしなんだ。
「おいしいニャ!!」
「うん」
初めて食べる物もあるが、どれも美味で堪能した。中央にあるステージではダンサーによる踊りも披露される。すっかり満喫して部屋に戻る4人であった。
「あ、飲み物ねえな」
部屋に戻り、持ち物を確認したキャフは、廊下に出て売り場を探す。この世界に自動販売機はない。一階フロントまで行くが、売り場はなかった。聞くと、少し先に深夜営業している店があるらしい。
(行ってみるか……)
キャフは何の気無しに、夜のモドナへ繰り出した。




