表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/231

第045話 ギムと再び

前回のあらすじ


通魔石の魅力を、皆に伝える。

「ほほう」

「こりゃ凄い!」

「こんなに沢山あるんだ」


 通魔石(コミュ・ストーン)の洞窟に入った村人達から、感歎の声が上がった。道中で年寄りの合流もあり、やってきた村人は男ばかり10人ほどだ。人間に加え、ライオンや鹿の獣人もいる。案内は最初の洞窟だけにとどめた。昼間なので青くは光らず、共振の度合いは弱い。だが、それでも澄んだ石音がする。


 村人達は恐る恐る石を割って手に取り、互いに念じ始めた。


「お、できた!」

「わしゃ聞こえんぞ」

「3人でも聞こえるな」


 やはり、個人がもつ魔素の量で変わるようだ。詳細な分析はこれからだろう。村人達は子供に戻ったかのように楽しみながら、通魔石(コミュ・ストーン)を体験していた。


「面白いのお」

「キャフさんの言う通り、何かに使えるかもしれませんぞ」

「まあこんなもんだ。どうだ? オレの話にのってみないか?」


 キャフは、村人達に提案した。


「そうだな。我々も相談したのだが、あなた達をサローヌに帰す時、同行する彼らをギム様と接見させては貰えないだろうか?」

「分かった。やってみよう。オレもギムに詳しくは言ってないから、そこから話を進めるのが良いだろう。あいつが駄目だと言ったら、悪いがそれでお終いだ。無かった事にしてくれて構わない」


「すまんな。我々も何かとあるので」

「ああ、大丈夫だ」


 村人達とも話がついて、キャフはまたミリナの家へと戻った。

 暇なので、キャフは部屋で魔法道具のメンテナンスをして時間を潰す。

 やがて見知った声が、遠くから聞こえてくる。

 あいつらが帰って来たようだ。


「ただいま〜」

「師匠、いるかニャ?」


 そのまま応接間で集まっているらしく、楽しいお喋りや笑い声が聞こえる。下手にキャフが付いて行くより、この方が良かっただろう。キャフも部屋を出て階段を下り、会話に混ざる。ミリナのお母さんが、冷たいジュースを持って来た。


 温泉はご満悦だったらしく、皆肌もツルツルになってご機嫌だ。


「あ、師匠、どうニャ? 綺麗になったかニャ?」

「ああ、なったなった」

「ぶー、師匠、心がこもってないニャ!」


 ほっぺがふくれるラドルを、皆が笑った。


 キャフは頃合いをみて、ミリナに話しかけた。


「村人達に、通魔石(コミュ・ストーン)の洞窟を案内して来た」

「そうですか。反応はどうでしたか?」


 ミリナは心配そうだ。


「ギムと会いたいそうだ。オレも未だ説明し切れてないから、そこからだな」

「ありがとうございます」


 ホッとした表情になる。


「お前ら、明日には帰っても良いか? ミリナも学校に戻って手続き踏まなきゃいけないし、フミ村やサローヌにずっと厄介になる訳にもいかないからな」


 キャフは、皆に聞いた。


「分かったニャ」

「承知した」

「では、私がお願いしに行ってきます」


 ミリナは、狼を操る村人達に相談をするため出掛けて行った。しばらくして戻ると、大丈夫との返事であった。翌日、再び大きな狼に乗って4人はサローヌへ戻る。


「ミリナ、元気でな」

「ありがとう、お父さん、お母さん。グータも元気でね!」

「お姉ちゃん、またね!」


 勢い良く、狼は走り出す。覚悟はしていたものの、やはり急な崖を上ったり道無き道を走り抜けたりと、体にはしんどい。ラドルが温泉で得た肌の艶も、サローヌの街郊外に着いたときはすっかり消え去っていた。


「フニャ〜 やっと戻って来たニャ〜」

「このまま、城まで行こう」

「分かりました」


 狼の姿に、はじめ街の人は驚き怯え、逃げ惑ったり腰を抜かす人もいた。だが狼達は暴れもせず、礼儀正しく道を進む。その様子を見て、街の人の恐怖は徐々に消えて騒ぎは収まった。


 やがて城の門まで来た。キャフ達を見知った衛兵が門を開けてくれる。城内の兵士達も巨大な狼に驚いたが、キャフ達を見て警戒態勢は取らなかった。ギムのいる居館の前に到着すると、8人全員が狼から下りた。狼は四匹とも大人しく座り微動だにしない。


「すまんが、この狼は躾が行き届いているから安心だ。見ていてくれ」

「承知しました」

「ギムに会いたいのだが」

「今はお部屋にいるかと」


 階段を上がり、領主の間の扉を開ける。

 相変わらず書類仕事の最中であった。


「おお、久しぶりだな。フミ村はどうだった?」

「収穫はあったよ。これを見つけたんだ」

「何だ?」


 キャフはギムに石を渡す。キャフが軽く念じると、ギムは反応した。


「ほおー! 面白いな。これは魔法じゃ無いのか?」

「術式を介さないでもできる。個々の魔素を使った対話なのだろう。シドム達も、冒険で使っていたぞ。このミリナって子が見つけたんだ」


「そうなのか。だから、その子を連れて行ったんだな。冒険の出発時にあいつから紹介されたけど、この子だけ初めて見る子だったから、不思議だったんだ」


「それで相談なんだが、この石の採掘と製品開発を、サローヌでやって貰えないか? 村には話をしてある。この4人が証人だ」

「分かった、やってみよう。キャフ、お前も金に困ってんだろ? うまく出来たら儲けの一部を回してやる」

「まあ無理しない程度で良いよ。それよりこの子を弟子にするから、その費用を工面してもらえたら助かるかな」


「サローヌの高校生でシドムの友人なんだから、無下にはせんよ。フミ村の人達、それでは一度こちらから使者を使わしても良いかな? 契約書も早急に作成させよう」

「御意」

「では、今宵は歓迎会とするか。客人達も気楽に楽しんでくれたまえ」


 という事で夜は前回と同じ会場を使い、フミ村との交流を記念した歓迎会が催された。人数も限られているので、テーブル席だ。中央の席にギムと家族が座り、直ぐ側にキャフの席もある。豪華なディナーのフルコースでサローヌの特産品がふんだんに使われ、銀製の食器はどれもきめ細やかな作品だった。


「あ、おっさん未だいたの?」


 前菜を頬張りながら、シドムが気楽に話しかけて来た。


「お前,我が仲間に何て口の利き方なんだ。彼はワシと一緒にアースドラゴンを討伐した冒険メンバーの一人、魔導師キャフだぞ」

「え、マジ? そんなおっさん……いや魔導師様だったんですか?」


 シドムは驚いて、目がぱちくりしている。


「まあ、気にすんな。また冒険を始めるかも知らんし、その時は同格だ。おっさんで良いさ」

「お前、魔法使えないのにまた行くのか?」


 ギムが心配そうに聞く。


「まずモドナに行ってからだけどな。どっちにせよ、こいつらを成長させる場が必要だ。今の状況だと、モンスター生息域(ハビタブル・ゾーン)が一番だろう。フィカも良いか?」

「ああ、付いて行こう」

「フィカ姉、ありがとニャ!」


 宴は夜まで続いた。



 翌朝、狼に乗った村人達を郊外まで見送る。

 ギムは彼らに、印付きの契約書を渡した。


「じゃあ、お元気で」


 ミリナが4人に挨拶する。他の人達も礼を言う。


「ミリナも、絶対フミ村に戻ってこいよ!」

「うん!」

「じゃあ、またな!!」


 4人は狼を引き連れ、去って行った。


「じゃあオレ達も、仕度をするか」

 城へ帰る道中、キャフが3人に呼びかける。


「やっと海に行けるニャンな?」

「ああ」

「楽しみニャ〜」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ