第045話 ギムと再び
前回のあらすじ
通魔石の魅力を、皆に伝える。
「ほほう」
「こりゃ凄い!」
「こんなに沢山あるんだ」
通魔石の洞窟に入った村人達から、感歎の声が上がった。道中で年寄りの合流もあり、やってきた村人は男ばかり10人ほどだ。人間に加え、ライオンや鹿の獣人もいる。案内は最初の洞窟だけにとどめた。昼間なので青くは光らず、共振の度合いは弱い。だが、それでも澄んだ石音がする。
村人達は恐る恐る石を割って手に取り、互いに念じ始めた。
「お、できた!」
「わしゃ聞こえんぞ」
「3人でも聞こえるな」
やはり、個人がもつ魔素の量で変わるようだ。詳細な分析はこれからだろう。村人達は子供に戻ったかのように楽しみながら、通魔石を体験していた。
「面白いのお」
「キャフさんの言う通り、何かに使えるかもしれませんぞ」
「まあこんなもんだ。どうだ? オレの話にのってみないか?」
キャフは、村人達に提案した。
「そうだな。我々も相談したのだが、あなた達をサローヌに帰す時、同行する彼らをギム様と接見させては貰えないだろうか?」
「分かった。やってみよう。オレもギムに詳しくは言ってないから、そこから話を進めるのが良いだろう。あいつが駄目だと言ったら、悪いがそれでお終いだ。無かった事にしてくれて構わない」
「すまんな。我々も何かとあるので」
「ああ、大丈夫だ」
村人達とも話がついて、キャフはまたミリナの家へと戻った。
暇なので、キャフは部屋で魔法道具のメンテナンスをして時間を潰す。
やがて見知った声が、遠くから聞こえてくる。
あいつらが帰って来たようだ。
「ただいま〜」
「師匠、いるかニャ?」
そのまま応接間で集まっているらしく、楽しいお喋りや笑い声が聞こえる。下手にキャフが付いて行くより、この方が良かっただろう。キャフも部屋を出て階段を下り、会話に混ざる。ミリナのお母さんが、冷たいジュースを持って来た。
温泉はご満悦だったらしく、皆肌もツルツルになってご機嫌だ。
「あ、師匠、どうニャ? 綺麗になったかニャ?」
「ああ、なったなった」
「ぶー、師匠、心がこもってないニャ!」
ほっぺがふくれるラドルを、皆が笑った。
キャフは頃合いをみて、ミリナに話しかけた。
「村人達に、通魔石の洞窟を案内して来た」
「そうですか。反応はどうでしたか?」
ミリナは心配そうだ。
「ギムと会いたいそうだ。オレも未だ説明し切れてないから、そこからだな」
「ありがとうございます」
ホッとした表情になる。
「お前ら、明日には帰っても良いか? ミリナも学校に戻って手続き踏まなきゃいけないし、フミ村やサローヌにずっと厄介になる訳にもいかないからな」
キャフは、皆に聞いた。
「分かったニャ」
「承知した」
「では、私がお願いしに行ってきます」
ミリナは、狼を操る村人達に相談をするため出掛けて行った。しばらくして戻ると、大丈夫との返事であった。翌日、再び大きな狼に乗って4人はサローヌへ戻る。
「ミリナ、元気でな」
「ありがとう、お父さん、お母さん。グータも元気でね!」
「お姉ちゃん、またね!」
勢い良く、狼は走り出す。覚悟はしていたものの、やはり急な崖を上ったり道無き道を走り抜けたりと、体にはしんどい。ラドルが温泉で得た肌の艶も、サローヌの街郊外に着いたときはすっかり消え去っていた。
「フニャ〜 やっと戻って来たニャ〜」
「このまま、城まで行こう」
「分かりました」
狼の姿に、はじめ街の人は驚き怯え、逃げ惑ったり腰を抜かす人もいた。だが狼達は暴れもせず、礼儀正しく道を進む。その様子を見て、街の人の恐怖は徐々に消えて騒ぎは収まった。
やがて城の門まで来た。キャフ達を見知った衛兵が門を開けてくれる。城内の兵士達も巨大な狼に驚いたが、キャフ達を見て警戒態勢は取らなかった。ギムのいる居館の前に到着すると、8人全員が狼から下りた。狼は四匹とも大人しく座り微動だにしない。
「すまんが、この狼は躾が行き届いているから安心だ。見ていてくれ」
「承知しました」
「ギムに会いたいのだが」
「今はお部屋にいるかと」
階段を上がり、領主の間の扉を開ける。
相変わらず書類仕事の最中であった。
「おお、久しぶりだな。フミ村はどうだった?」
「収穫はあったよ。これを見つけたんだ」
「何だ?」
キャフはギムに石を渡す。キャフが軽く念じると、ギムは反応した。
「ほおー! 面白いな。これは魔法じゃ無いのか?」
「術式を介さないでもできる。個々の魔素を使った対話なのだろう。シドム達も、冒険で使っていたぞ。このミリナって子が見つけたんだ」
「そうなのか。だから、その子を連れて行ったんだな。冒険の出発時にあいつから紹介されたけど、この子だけ初めて見る子だったから、不思議だったんだ」
「それで相談なんだが、この石の採掘と製品開発を、サローヌでやって貰えないか? 村には話をしてある。この4人が証人だ」
「分かった、やってみよう。キャフ、お前も金に困ってんだろ? うまく出来たら儲けの一部を回してやる」
「まあ無理しない程度で良いよ。それよりこの子を弟子にするから、その費用を工面してもらえたら助かるかな」
「サローヌの高校生でシドムの友人なんだから、無下にはせんよ。フミ村の人達、それでは一度こちらから使者を使わしても良いかな? 契約書も早急に作成させよう」
「御意」
「では、今宵は歓迎会とするか。客人達も気楽に楽しんでくれたまえ」
という事で夜は前回と同じ会場を使い、フミ村との交流を記念した歓迎会が催された。人数も限られているので、テーブル席だ。中央の席にギムと家族が座り、直ぐ側にキャフの席もある。豪華なディナーのフルコースでサローヌの特産品がふんだんに使われ、銀製の食器はどれもきめ細やかな作品だった。
「あ、おっさん未だいたの?」
前菜を頬張りながら、シドムが気楽に話しかけて来た。
「お前,我が仲間に何て口の利き方なんだ。彼はワシと一緒にアースドラゴンを討伐した冒険メンバーの一人、魔導師キャフだぞ」
「え、マジ? そんなおっさん……いや魔導師様だったんですか?」
シドムは驚いて、目がぱちくりしている。
「まあ、気にすんな。また冒険を始めるかも知らんし、その時は同格だ。おっさんで良いさ」
「お前、魔法使えないのにまた行くのか?」
ギムが心配そうに聞く。
「まずモドナに行ってからだけどな。どっちにせよ、こいつらを成長させる場が必要だ。今の状況だと、モンスター生息域が一番だろう。フィカも良いか?」
「ああ、付いて行こう」
「フィカ姉、ありがとニャ!」
宴は夜まで続いた。
翌朝、狼に乗った村人達を郊外まで見送る。
ギムは彼らに、印付きの契約書を渡した。
「じゃあ、お元気で」
ミリナが4人に挨拶する。他の人達も礼を言う。
「ミリナも、絶対フミ村に戻ってこいよ!」
「うん!」
「じゃあ、またな!!」
4人は狼を引き連れ、去って行った。
「じゃあオレ達も、仕度をするか」
城へ帰る道中、キャフが3人に呼びかける。
「やっと海に行けるニャンな?」
「ああ」
「楽しみニャ〜」




