第044話 フミ村の人達と
前回のあらすじ
着々と、ハーレム計画進行中。いや、あくまで彼女の為を思ってです。
翌朝はフィカに起こされ、階下で朝食をとる。
昨日の抜け駆けは、気付かれなかったらしい。
昨日と変わらず、ミリナの家族と一緒の食事は和やかに進む。
「今日はどうするのですか?」
ミリナの父が、3人に聞く。
「特に予定は考えてないニャ。面白い所、あるニャんか?」
「観光名所はないですが、温泉は他にもありますよ。美人になる温泉とか、美脚になる温泉とか、美肌になる温泉とか、子宝に恵まれる温泉とか」
「美人になれるニャんか!! フィカ姉、どうニャ?」
「良いな。後で行くか」
「オレは行かねえぞ」
「それがお互いのためだな」
そんなたわいもない会話の最中、覚悟を決めてキャフが切り出した。
「ミリナのご両親、折り入ってお願いがあるのだが」
「何ですか?」
キャフの真剣な眼差しに、両親とも居住まいを正す。
「昨日ミリナと話をして、彼女をオレの弟子にしたいんだ」
予期せぬ話だったようで、両親は顔を見合わせた。
ミリナは少し緊張気味に、下を向いている。
「そうですか…… でも先生は魔法を使えないとか? 指導できるんですか?」
ミリナの父が聞く。手塩にかけた可愛い娘を見ず知らずのおっさんにあずけるのだ。どの親も、心配になるのは当然だ。
「確かにオレ自身の実技は、今は制限されている。だが指導できない訳じゃない。術式の改良や、魔法の知識は一通り教えられる。それに弟子のラドルもいるから、練習相手には不足しない」
「でも私達には、お金が無いんです……」
ミリナの母も、乗り気では無い。
「ラドルには悪いが、特待生ということで後払いで良いよ。ラドルも良いか?」
「師匠が決めたなら、良いですニャ」
ラドルは、そういった事には頓着しない性格だった。
「すみません、ラドルさん。ありがとうございます」
「ただ村には医者が必要で……」
「それも考えたが、まず半年か一年をオレの下で修業して、そこから医学部へ進むのはどうだ? 話を聞いていると、魔法が好きだし素養もある。今のうちに学べば、一生使える。逆にここで止めるのは勿体ない。もちろん学業も大事だから、何れにせよ医学部に入れる世話はしよう。それに弟子になったからと言って、ここに戻れない訳じゃない」
「……そうまでして頂けるなら、親としては言う事はありません」
「よし、決まりだな」
「ありがとうございます!!」
ミリナが、深々と頭を下げる。
「実はもう一つ、大事なことがあるんだ。村長に会いたいんだが」
「ここに村長はいません。決めごとは、広場でみな集まって話し合うのが通例です」
「そうなのか。じゃあ急で悪いが、昼過ぎに話をさせてもらえないか?」
「良いですよ、じゃあ皆に伝えます」
そう言うとミリナの父は、外へと出て行った。
「子供をあわせても300人程度しかいないから、大丈夫ですよ」
食事後は、のんびりと時間を過ごした。近くの家にお邪魔して、からくり人形を見せてもらったりもした。お茶汲み人形は巧みな動きで、王都でもめったに見られない代物だ。
「一通り連絡しました。大体集まれるそうです」
「ありがとうございます」
昼食をとり、広場へ向かう。老若男女、既に大勢の人が集まっている。日時計らしき立派な彫刻もあった。見慣れぬ3人とミリナが来たので、自然と道があき中央にある壇上へ上る。
「急な知らせにも関わらず、集まってくれてありがとう。礼を言う」
誰もがキャフに注目している。
「オレは、ミリナと彼女の高校の仲間、この2人と一緒に、モンスター生息域を旅冒険して来た。ちなみに自慢じゃないが、若い時は魔法使いとしてアースドラゴンを倒したパーティーに属していた。お前らの領主ギムも仲間だったから、旧知の仲だ」
軽いどよめきが起こる。ミリナの両親も素性は知らなかったから驚いていた。
「その冒険のとき、ミリナが非常に面白い石を持っていた。聞くと、この村にあると言う。だからその場所を見せてもらいに、今回オレ達は来たんだ」
「石?」
「なにそれ?」
ざわめきが更に大きくなる。
「説明足らずで申し訳ない。実物はこれだ」
そう言ってキャフは通魔石を取り出し、ミリナに一つ渡した。
「じゃあ、もう一つはそこのお爺さんに」
一番近くにいた齢八十は越えているだろう老人に、通魔石を渡す。
彼はそれが何だか分からず、陽に透かしたりした。
すると突然、
「あんたの声がするぞ、ミリナ!」
と素っ頓狂な声を上げた。
当然、ニコニコ顔のミリナは一言も声を発していない。
「ほー、石で会話が出来るのか! そりゃ凄い! ワシの心の声も聞こえとるんじゃな?」
お爺さんは偉く感心し、その石を見直した。
途端に村人は我先とその石を触ろうとして、ちょっとしたパニックになる。
パン、パン!
大きく拍手を二回して、キャフは周りを鎮めた。村人達はキャフに怖れをなし一挙一動に注目する。他人からの注目に馴れないキャフは、動きが多少ぎこちない。
「ま、まあこんな感じで便利な代物だ。遠くにいても相手の声が伝わるんだ。アイディア次第では、生活を変えるかも知れない。それで一つお願いなのだが、ミリナの見つけたこの石を使わせてもらえないだろうか? 川の上流の洞窟に、沢山あるのは確認したんだ」
ヒソヒソ声が、あちこちからする。
村の資源だから、やはりデリケートな話題だろう。
それは、キャフも分かっていた。
「これをギムと共同でこの村発の製品開発に繋げたいのだ。勿論、売上げの一部は村に還元する。それに、採掘は環境保全も含め慎重にする。知ってるだろうが、ギムは良い奴だ。オレが保証する」
村人は静まり返った。判断しかねるのかも知れない。
「むかし似たように、おいしい話を持って来た詐欺師がいた」
先ほどの隣にいた、別の老人が話をはじめた。
「そいつも、言葉巧みに村人達をかどわかし、気付くと兵隊がやってきた。我々は闘って追い払った。確かに今の領主ギムは、我々とうまくやれている。だからといって、お前の話を直ぐには信用出来ない」
そうだ! そうだ! との声がする。
「確かにな。簡単に信じないのは分かる。こちらから何かを提案しても、裏があると思われるだけだろう。オレ達は、皆が良ければまだここに居る。疑問があったら何でも聞いてくれ。逃げも隠れもしない。条件があれば、聞ける範囲で聞くようにする。今日の話は、以上だ。ありがとう」
キャフはそれだけ言い終えると壇上を下り、ミリナの家へと戻って行った。
その後、昼間からフィカとラドル、ミリナ姉弟は温泉巡りに行った。
予定通り、キャフは家に残る。ミリナの両親もいた。
「急な話ばかりで、済まなかった」
「いえいえ。悪気が無さそうなのは、分かります。ただ村の人達も急な事で,戸惑っているんだと思います。私達も、そんな石なんて知りませんでしたから」
「そうか、ミリナの言った通りなのだな。やはり魔法は使わないのか?」
「はい。これも昔、悪い魔法使いに襲撃された名残とも聞きます」
そんな話をしていると、若い男の村人が数人、家にやって来た。
「さっきの話なんだが、皆と話をして、まずその場所を知りたいとなったんだ」
「まあ、そうだろうな」
キャフは昨日ミリナに教えてもらった道をたどり、村人達と一緒に通魔石の洞窟へと向かった。