第041話 ミリナの願い
前回のあらすじ
秘境で混浴。
そこには、やや大き目のタオルで前を完璧に隠したフィカとラドルがいた。想像した姿と違って、キャフは内心がっかりする。その顔がよほど分かりやすかったのだろう、2人とも意地悪に微笑んでいる。
「お前、またわたしのヌードが見られると思ったのか?」
「し、師匠なら良いけどニャ♡」
「つけあがらせるな。こう言う男はヤバいからな」
気まずくなって俯くキャフを尻目に、2人は反対側に向かい体を洗い始めた。きゃっきゃと楽しく会話する2人は、近づくなオーラを発してる。旅は未だ未だ続くから、ここで変な事をして変態の汚名を着せられたらまずい。
キャフは仕方なく、手近にある風呂に入った。良い湯加減だ。体の隅々まで温まり気持ちよくなる。緑に囲まれた景色も美しく、心身共にリフレッシュできた。
こうやって、ゆっくり湯につかるのも何時ぶりだろう——
つい一ヶ月前に起きた人生の転換が遠い昔のように思えた。
「キャフ師、先生?」
ぼーっとしていると、ミリナがすぐ側まで来た。温泉はやや白濁しているから、上半身しか見えない。だが上質のメロン二つが上半分浮かぶ光景に、キャフにある体の一部は緊張する。
ミリナはそんなキャフを気にせず更に接近して、顔を覗き込んで来る。眼鏡を外した目は黒い瞳がパッチリしていて、まつ毛も長く可愛い。いわゆる眼鏡を外したら美少女、の典型的な例だ。
慌てるキャフだが、ミリナはキャフの顔をじっと見つめた。
「キャフ師で良いんですよね? わたし、眼鏡がないと視力無くて」
「あ、ああ」
そう言うことか。キャフの顔が判別できないほど視力が悪いらしい。内心ホッとするキャフであった。そうは言ってもジロジロ見るのもどうかと思い、少し離れようとするキャフだが、ミリナはくっついてくる。何か言いたげである。
「この村に来た目的は、通魔石ですよね?」
向こうの2人には聞こえないヒソヒソ声で、喋り始めた。
「ああ、そうだが。何かまずいか? 村の宝で門外不出とか?」
キャフもヒソヒソ声にする。今までの経緯を考えたら、そう思うのも当然だ。実際、あれがどういう場所から採れてどんな性質をもつのか、キャフは知りたかった。
「いえ、そんな事は無いのですけど…… 今日は月も明るそうだから、夜、一緒に行きませんか?」
「良いのか?」
「はい。相談したいこともあるので」
ここでは言い難そうだった。
「分かった」
「ありがとうございます! じゃあ夜中、ノックを三回するから、開けて下さい」
「ああ」
何だか逢い引きのようだが、2人がいない所で話をしたいのだろう。告白なんかじゃなく、弟子にしてくれ、という話と推察する。だが、キャフは未だ悩んでいた。責任を持って育てられるか分からない状況で、簡単に承諾する訳にもいかない。ただ幾つかの案はあったので、後で話をしてみよう。
「じゃあ、わたしはそろそろ上がりますね」
「ん? ああ」
ミリナはそう言うと立ち上がり、脱衣所の方へと戻って行った。
!!!
その姿にキャフは思わず凝視してしまい、風呂から出られなくなる。
しばらくすると……
「おい、大丈夫か?」
「師匠?」
異常に気付いた2人がキャフの側によってくる。どうやらのぼせたらしい。「う、うーん……」と呻きながら何とか風呂を出るが、それ以上は無理だ。横になって動けなくなった。
「まったく、世話が焼けるな」
「とりあえず水で冷やすニャ。ミリナちゃん〜」
3人で何かしてくれているのだろうが、朦朧として何も出来ない。記憶も曖昧になる。どうもその後は入浴し終えた3人が村の人を呼び、運んでくれたらしい。気付くと部屋の布団に寝ていた。
「おい、夕飯だ。大丈夫か?」
部屋の扉が開き、フィカが声をかけて来た。
「あ、ああ」
「お前のヌード見せてもらったが、もっと鍛えろ。貧弱だぞ」
「うるせえな」
さっきよりは大分マシになる。キャフはゆっくりと起き上がり、階段を下りた。




