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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第一章 魔導師キャフ、追放されて旅立つ
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第004話 旅立ちと暗転

前回のあらすじ


弟子一人ゲット。一番出来が悪かったけど。

「で、師匠これからどうするニャン?」

「う、ああ……」


 二日酔いで、まだ頭が痛い。


 どうするかと言われても、キャフに具体的なアイディアは無かった。


 今まで魔導師として生活してきたが、狭い世界だ。転職しようにも向いてる職業なんて知らない。親に相談したくても、既に2人とも死んでいる。身寄りと言える相手もいなかった。


「海でも見に、モドナでも行くか?」


 ふと、キャフは思いついた。


「そうニャんか? わーい、海初めて見るニャ!」



 王都イデュワは、内陸に位置し盆地の中にある。

 二百年ほど前、今の王族がここを拠点としたのが始まりだ。遠く東にあるウルノ山脈からペリン山脈を通って流れ込む大河ソム川と、西の休火山ヒポナスから採掘される鉱物を元手に発展してきた。

 

 アルジェオン王国の領土は広く、南はソム川が注ぎ込む内海のシメラトル海、北は外海の大北洋と接しており、海洋貿易も盛んである。


 特に大北洋にある港町モドナは、大陸最大の貿易港を持つ王国第二の都市だ。

 元は有力諸侯の拠点だけあり、王都に負けず劣らず栄えている。

 海の街らしく多少いかがわしいが、人々の性格も陽気で明るいと評判だ。


 ただモドナの東部はモンスター生息域(ハビタブル・ゾーン)と近接し、何かと物騒な話も多い。

 特に近年生息域(ハビタブル・ゾーン)が拡大の兆しを見せつつあり、王国民を不安にさせた。


 そしてウルノ山脈と生息域(ハビタブル・ゾーン)の先には、クムール帝国との国境がある。クムール帝国はアルジェオン王国より小さく貧しい国で国交を閉ざしており、実態は未知な点が多かった。



 キャフは、王都での煩わしさに辟易していた。とにかく何処か遠くへ行きたい。モドナは、何となく頭に浮かんだ街だ。


 数年前モドナで開催された魔法総会に参加したとき、良い印象もある。

 

 とりあえず今は、夏に向けて高温多湿でジメジメし始めるイデュワなんかで過ごしたくない。それよりカラっと晴れた青空の下、海辺を散歩して悠々自適に過ごしたかった。幸いそれくらいの金はある。


「じゃあ用意するか」

「レッツゴーにゃ!」


 2人は身支度の為に、各々の部屋へと戻った。ラドルは敷地内の寮に住んでいるので簡単だ。キャフも自室に戻るため本邸へ入った。


 もう何年も不在だったかのように、家の中はもぬけの殻で荷物も乱雑に捨て置かれていた。階段を上る足音も、静かに響く。


 幸い部屋の中は、何も荒らされずにそのままであった。気を取り直し、荷物を革の袋につめる。


 魔導服は脱ぎ捨てた。魔法発動の為の回路も仕込まれており、増幅装置の役割もある。多少の防御力もあるから、何かと重宝する。だがゲロで汚れてるし、今さら未練を持っても仕方ない。


 この部屋には受賞記念メダルや壁に飾られた自画像、先代王からのプレゼント等、思い出の品も多い。栄華を偲ぶ品々を見て多少感傷的にもなるが、キャフは先へ進みたかった。



 それぞれ荷物を詰め終えると合流して、待ち合い馬車の停留所へ向かう。


「モドナ行きは、あれニャ!」

「おう」


 雑踏の中をかき分けて乗り込んだ乗合馬車には、色んな人達がいた。積める荷物も、普段使う王立馬車より遥かに少ない。整備された街道を通る高速馬車に乗りたいが、今後収入の保証も無いので旧道を通る安い方にする。


「本日は、ご利用ありがとうございます。休憩も含め九時間の予定ですが、よろしくお願いします」


 御者のアナウンスを聞く限り、到着まで結構な時間がかかるようだ。

 夜になるが仕方ない。ホテルもその時に探そう。


 やがて馬車は、動き始めた。


 キャフ達の客車を引っ張る馬四頭も、心無しか老いぼれている。

 車輪の歪みでガタガタと激しく揺れるから、座り心地は悪い。

 スピードも段違いに遅く、何台も抜かれていく。

 だが値段相応なので、贅沢は言えない。


 今日は雨の心配も無さそうで、屋根は付かない。適度な風が心地よかった。


「師匠の私服、珍しいニャんね」


 ラドルが、じっと見て言う。


「でもなんか……」

「うるせえな、魔導服に金かかるし良いんだよ」


 ラドルが言わんとしている事は、キャフも分かっていた。あまり格好よく無い。

 ファッションに疎く目に留まった量販服を買うだけだ。似た服を着た人は、馬車の中にもいた。


 一方ラドルは今どきのギャルらしく、キメキメの格好である。ミニスカートから出る尻尾は愛嬌だろう。難波のひっかけ橋に行ったら、直ぐナンパされそうだ。


「でも普段と違う姿の師匠も、格好いいニャ」

「ウゼえな、前見てろ」


 馬車はのんびりと進む。後ろを振り返ると、マジックタワーが遠くに見えた。


「しばらく見納めかな……」


 キャフは呟いた。


「そうかもニャン」


 ラドルも、感傷的だった。


 やがて馬車は、旧道に入った。開拓時代に土盛りされた小さな道で、両脇は鬱蒼とした森が続く。


「でも師匠、モドナに行ってからどうするニャン?」

「そうだな……」


 後の事は、あまり考えていなかった。往復代と一ヶ月ほどの宿泊金は持っている。昨日までのトラブルに疲れたから、カジノでも行って憂さ晴らしをしたい。


 ただ蓄えを使い切れば、それまでだ。新たな職を見つけないと、飢え死にする。


「この齢じゃ、魔術協会以外の入会資格は取れねえしな……」

 

 哀しいが現実であった。彼等はそれを知っていて、この処分にした。

 遠回しに、死ねと言っているのだろう。


「ギルドに行って、冒険者でもすっか?」

「師匠、体力あるニャんか? 若くないニャンよ?」


「そ、そだな……」


 キャフは魔法の才能はあったが、運動神経は人並みだ。


「師匠は、王国の外に出る気はないニャんか?」

「まあ確かに、それもありか」


 魔導師同士の交流も多く、キャフは様々な国に知り合いがいる。呼ばれて術式講義をしたことも、一度や二度では無い。だから伝手が無い訳でもないが、気乗りしなかった。


「まあ、どの国も一長一短あるんだよな……」


 考えがまとまらず堂々巡りに議論になりそうな気配で、しばらく保留にした。


「ま、頑張るニャ! もしもの時は、私が一肌脱ぐニャ!」

「いや、ヒモなんてならねーよ」


 強がるキャフだが、現実は分からない。ラドルの器量(スタイル)なら、風○で働かせても良さそうだ。あ、二十歳前だから年齢ごまかさないとな。いや裏なら高く売れるかも…… キャフの心に浮かんだドス黒い思いに全く気付かず、ラドルは呑気に外を眺めていた。


「綺麗だニャ〜 あれ世界樹? モンスターも見えるかニャ!」


 世界樹はモンスター生息域(ハビタブル・ゾーン)の中央にそびえる大樹だ。先は常に雲に覆われている。周辺には超強力なモンスターが多く住むため人間の立ち入りは難しく、謎も多い。


 初めて見る風景に興奮気味なのか、ラドルの猫耳がピンと立っている。


(懐かしいな……)


 世界樹を見て、キャフは昔を思い出した。

 口外を禁じられているが、あそこにはエルフが住む。


 行ったのは、アースドラゴン征伐の為に冒険者パーティーを組んでいた頃だった。

 勇者サムエルが、エルフの鍛冶師デュダリオーンに聖剣を鍛え直してもらった場所だ。

 あのおかげで、ドラゴンを倒せた。


(あいつら、どうしているかな……)


 勇者サムエルと武闘家ギム、そして盗賊シェスカ。苦楽を共にした仲間達。


 あの時のキャフは一番の若造で、恐れを知らぬ魔法使いだった。大聖人グラファから授ったサンダーストームは、Sランクモンスター相手でも敵無しで、若いから魔素も無限にあり何度も撃ち放った。


 流石にアースドラゴンには手こずり、三日三晩の激闘の末に討ち取った。

 いずれにせよ、一騎当千だった彼等との冒険は怖いものなど何も無く、ただ楽しかった。


 だが討伐に成功後、彼等がどうしているかキャフは知らない。

 急激なレベルアップで魔導師としての職務が格段に増え、何時しか彼らとも疎遠になっていた。



 昔に思い巡らせながらこのまま長閑な旅が続くかと思ったその時、


 ヒヒーン!!!


 突然、馬車の馬がいななき、馬車が止まった。


「どうした?」「なに、こわい」


 何が起きたのか分からず、乗客に不安が伝播する。


 ヒューーーー ドスッ!


 「グエッ!」

 「うわーー!!」


 前で馬を操っていた御者が、だらりとして倒れ込んだ。矢が射られたらしい。死んでいる。そしてキャフ達の乗る客車がガクンと揺れるとひっくり返され、森へと転がっていった。


 バタンバタン! ゴロゴロゴロゴロ!!! 


「とにかく、しゃがんで座席をつかんで身を守れ! 荷物もしっかり持ってろ!」

「わ、分かったニャ! 怖いニャー!!」


「きゃーー!」「助けてえ!!」


 ガッシャーンン!!


 漸く止まった時、あちこちからうめき声が聞こえた。客車はひっくり返り、真っ暗だ。少し経ち、何とか薄ぼんやりながら周囲の状況が分かり始めた。


「ラドル、大丈夫か?」

「な、何とかニャ……」


 うーん、うーん…… 痛いよう……


 負傷者は多そうだ。幸い、キャフとラドルに怪我はない。様子が分からないまま、無事だった人達は這いずって外へ出た。だがそれは地獄への入口だった。


「ぐわ!」

「きゃあああーー!!」


 逃げた乗客が餌食となったのか、悲鳴が次々と聞こえる。

 何者かの襲撃だ。

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