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第038話 サローヌの街

前回の話


ギムとは深刻な話になっちまったな。

おいお前ら、何やってる!

「え、ラドルがそんなこと言ってたニャんか?」

「それはわたし達じゃないな。きっと、違う誰かだ」


 朝食が運ばれてきたので、キャフの部屋に備え付けのテーブルと椅子を並べて一緒に食べる。腕の良い家具職人が作ったのだろう。座り心地も良く、欅の一枚板テーブルは上質だ。


 温かく心地よい朝だが、昨日の酒がぬけず3人とも動作が鈍い。


 食事中、キャフは夜にあった出来事を問いつめてみた。だが女2人は完全にしらばっくれている。知らない訳ではなさそうだ。その証拠に、2人ともキャフと目をあわせない。


「まあ、いいか」


 キャフはこれ以上の詮索は止めた。自分も酔っていたし、彼女達に何か失礼をしたかも知れない。ここで言った言わないは、大人げない。手足についたあざと体の痛みが夢ではない証拠だが、お互い不問にしよう。


「失礼します」


 朝食も食べ終えてゆったりした時間を過ごしていると、警護兵がやってきた。


「おはようございます。ギム様がお呼びですが、いかがでしょうか」

「ああ、分かった」


 城の中は、ちょうど仕事で登城してきた沢山の人々がいる。

 通されたのは、居館の最上階にある領主の間であった。


 窓の側にいるギムは執務用の大きな机に向かい、既にせっせと事務仕事に励んでいた。執事に命じられるまま、承認の印鑑を機械のように次々と押す。キャフも経験があるが、管理職になると雑用ばかり多くなって嫌になる。


 この部屋も眺めが良く、城外の市街地までよく見える。城の一部は三重の堀で囲まれ、堅硬な設計が伺えた。この地はモンスター生息域(ハビタブル・ゾーン)に近いし、非常時も想定された造りなのだろう。


 一通り仕事を終えたところで、ギムはキャフに声をかけた。


「昨日は良く眠れたか?」

「ああ、何とかな」


 相変わらず女2人は伏し目がちで挙動不審だが、キャフは何も言わなかった。


「そこの2人は?」

「あ、ラドルって言います。師匠の弟子ですニャ」

「わたしはフィカ。捜索隊に属していたが、訳あって今はキャフらと行動している」


「そうかそうか。キャフの仲間であれば我が仲間と同然。くつろいで下され。それで、どこか行きたいところはあるか? 観光案内でも手配するぞ」

「そうだな、実は気になる場所があるんだ。ミリアって子、知ってるか?」


「誰だ? それ?」

「シドム様と一緒にパーティーを組んでいた女の子であります」


 側に居た執事が返答する。


「ああ、あの地味な子か。それがどうした? 付き合いたいのか?」

「いや、そんなんじゃねえけど、あの子の生まれた村が気になってな。ちょうどあの山の向こうらしい」


 窓から見える山をキャフは指差した。


「ふーん、ウラナス山の向こうか。越えた先にあるのは、確かフミ村だな。かなり遠いぞ。道も小さくて崖もあるから、専門の業者を手配しようか? 今日は無理だが明日以降なら大丈夫だ」

「すまない、助かる」


「本来は俺が観光案内を買って出たいが、あいにくでな」

「いや、忙しいだろうし、領主直々なんて街の人が気を遣う。好きにやらせてもらうよ」

「それもそうだな。あ、そう言えばクムール帝国の件、使者をイデュワに遣わせた。王室に報告が届くだろう」

「そうか、助かる」


「しかしそうなると、ここサローヌも補給基地として働かねばなるまい。第七師団の駐屯準備に、補給品の手配も想定しておくか」

「それが無難だな」


「ギム様、議会の方が来ておられます」


 もう1人執事が部屋に入って来て、ギムに伝える。


「もうそんな時間か。悪いが、行かないとまずいんだ」

「ああ。買い物もしたいから、街を散歩してみるよ」



 謁見を終えると、3人は部屋に戻り街へと出た。宴の後のせいか、城内はどこか静かだ。内堀の門を出ると、公園や広場がある。向こうに学校らしき三階建ての建物もあった。開いている窓から、生徒が見える。平日なので授業中のようだ。


「シドム達の学校か?」

「昨日の話だと、そうみたいだな」


 彼らも、今日は学校に居るかも知れない。更に外堀沿いに歩き門に辿り着く。衛兵に開けてもらい、市街地へと出る。城に繋がる広い道路沿いに様々な店が並んでいた。起伏のない平野部だから、なだらかな高台にある城からは遠くまで見渡せる。


 街はこじんまりとしているが、瓦屋根の木造平屋建てが連なり、色調も統一されて綺麗な風貌だ。堀に繋がる小さな川が、街中をあちこち流れている。街の人達には活気があり、ギムの治世はうまくいっているようだ。


「師匠、どこ行くニャ?」

「魔法ショップに」

「何用だ?」

「やっぱ魔導服が欲しいんだ。何かあった時を考えるとな」


 魔導服があっても魔法は発動出来ないが、魔素を使った簡単な防御は可能だ。体へのダメージが少なくてすむ。この前の一件で、私服で冒険をするのはやはり厳しく感じた。


 道ゆく人に、店を尋ねる。これも防衛の為か、東西南北に碁盤の目のように張り巡らせた道路は所々行き止まりや遠回りの道があり、少し時間がかかる。


 ようやく街の中心部からやや離れた場所に、それらしき店があった。『魔女マアムの店』と看板がかけられた小さな店に入ると、中は鬱蒼とした雰囲気とお香の匂いがする。


「いらっしゃい」


 店の主はやや齢をとった女性であった。昔は美人だったのかも知れないが、派手な厚化粧と黒い口紅が魔女らしくて印象的だ。


「魔導服が欲しいのだが」

「はいはい、こちらになりますね」


 店の奥の方に案内されたそこには、魔導服が何着かかけられていた。屋敷に置いて来たオーダーメイドの魔導服とは質が全然違うが、贅沢は言えない。お金はあるので、とりあえず一番高くてサイズの合う魔導服にした。


「ありがとうございます」


 無事に購入し、店を出る。次は情報収集を兼ねて本屋を探す。その界隈では一番広い建物で、中には沢山の本があった。辺境の地でこれだけの本を揃えているのは、この街が教育を第一に考えている証拠だろう。


「あ、師匠の本!」


 魔法コーナーの棚をのぞくと、以前キャフの書いた本が置かれていた。目立つ場所ではないが、既に出版されて古いから仕方ない。今読み返すとかなり恥ずかしいので、手には取らなかった。


 情報収集の意味で、サローヌの詳細な地図を買う。フミ村の位置を確認するが、確かにこれは細い山道を通る必要があり大変そうだ。本格的な旅行になりそうだから、その後は近くの雑貨屋に入り旅行グッズを買った。


 そうこうしているうちに、お昼の時間だ。仕事休憩の大人達が街中へゾロゾロと現れた。キャフ達も近くにある軽食屋に入って、昼食をとる。3人は満足した様子でサンドイッチを頬張る。中に入っている野菜や鶏肉も、新鮮で美味しい。


「良い街だな」

「そうだニャ〜」

「ああ、ギムの性格が出ているな」


 仕事熱心で、細やかな気配りも出来る。あいつなら冒険者にならなくても、他の道で成功したのだろう。


 その後も街中を散策し続けた。夕方になり、城へと戻る。

 既に外堀にある学校は下校時刻らしく、生徒達が帰っていた。


「あ、キャフ師?」


 声がするので振り返ると、ミリナだった。

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