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第034話 宴もたけなわですが

シドム君、パリピなのね。

三人で一部屋! ドキドキ。

 パーティー会場は別館の大広間で、収容人数は数百人規模の広さだった。


 既に、沢山の人達がいる。一般開放のようで、キャフ達みたいなセミフォーマルな格好をした人もいれば気楽に私服の人もいたり、中世貴族のようなドレスで着飾る上流階級の人達と、多彩な顔ぶれだ。


 中央にはステージがあり、数十人の宮廷楽団がバックミュージックを奏でていた。音響もなかなか良く、普段もコンサートホールとして使用しているのだろう。


 シドムやアーネ、キンタ達は、家族と同じ中世貴族風の衣装に着替えて前の方で談笑中だ。家族ぐるみで長い付き合いのようだ。一方ミリアはシンプルな丈の長い水色ワンピース姿で、別グループの女の子達と話をしている。同じ服装の子もいるから、どうも高校の制服らしい。


 ドンドンドンドンドン〜 ジャーーン!!


 ドラムとシンバルが鳴り響き、パーティーの始まりを告げた。給仕達が、グラスに飲み物を注いで参加者に渡す。一通り飲み物が行き渡った頃合いを見て、壇上に領主ギムが登った。


「本日は我がせがれ、シドムの帰還を祝う会にようこそ! おかげでレベルも上がり、このように聖剣も手に入れた。わしのようには未だいかないだろうが、今日はあいつの未来を祝ってくれ。かんぱーい!!」


 かんぱーい!!


 あちこちで、カチンカチンとグラスの触れ合う音が聞こえる。再び楽団が演奏をはじめ、パーティーが始まった。上流階級の人達には席と食事が用意されているが、庶民は立食パーティーで、食べ物はバイキング形式の食べ放題に飲み放題だ。


 普段もこんなイベントがあるのだろう、街の人々も馴れたもので、思い思いに楽しんでいる。キャフら3人は適当に料理をとって、隅の方でムシャムシャ食べていた。


「この鶏肉、美味しいニャ」

「お米もぱさぱさし過ぎず、いい具合に炊けているな」

「料理の味付けも細やかだな」


 3人の評価は上々である。お腹がいっぱいになるまで何度も往復し、たらふく食べた。冒険中はこんなに食べられなかったのでやはり嬉しい。


「ギムに挨拶しなくていいのか?」

「まあ、良いだろう。明日には早々に出て、モドナへ出発しようか」

「やっと海に行けるニャ〜」


 ギムの態度から、キャフは関わらずに済ませようと思っていた。義理を果たせば、ここに用はない。モドナに行ってもどうなる訳でもないが、そちらの目的を果たしたかった。


「あ、ミリナちゃん♡」


 ラドルがミリナに声をかけた。さっきまでいた友達と離れて、大人しく食べている。酒を憎んで人を憎まず。この辺は割り切っているようだ。公共の場だからお酒も呑んでいない。


「あ、ラドル様。お疲れ様です」

「ミリナちゃん達も、泊まってるニャんか?」

「あ、いえ、私の高校と寄宿舎はお城の外壁近くにあるから、歩いて帰れるんです」

「そうニャのか」


「シドムは、いつもあんな感じなのか?」

「まあ、そうですね(笑)。憎めないと言うか、学校でも人気者ですよ」

「ふうん」

「もう良い時間だから、そろそろ始まるんじゃないですかね?」

「何がだニャ?」


 そんな会話をしていた頃、ちょうどシドムが壇上に上がった。



「みんな、久しぶり! 俺がいなくて寂しかったかい!」

「寂しかったよ〜!」

「シドム〜 こっち見て!」

「シドムかっこいい!」


 女性達の黄色い声で、会場内が埋め尽くされる。


「じゃあ、一曲目はいつもの、”I'm シドム”!!」

「キャー!!」

「シドムー!!」


 シドムのかけ声で、演奏が始まった。


『♪生まれた時から〜俺は〜王子さ〜』と、歌い始める。まさに、シドム・オンステージ。ジャイ○ンよりは上手いが、プロは無理そうだ。ただ声量はあり、広間に響き渡った。宮廷楽団も手慣れたようで、ジャズのセッションのごとく、シドムの歌にあわせて伴奏をしている。


「へえ、あいつあんな趣味なんだ」

「そうなんです。まあこういうパーティーでの、ちょっとした名物ですね」


 しばらく彼の歌が続く。皆も曲にあわせて踊り、楽しんでいる。普段から踊り馴れているのか、華麗な舞をする女性陣は見応えがあった。


「……じゃあ三曲目、旅の途中で皆を思って書いた歌があるんだ。『暁のダンジョンで君を想う』、聞いてくれ!」


 そう言って、シドムが歌い始める時、給仕の1人がキャフに近づいて来た。


「失礼ですが、キャフ様でしょうか」

「そうだが」

「ギム様がお話しになりたいと申しております。ついて来て下さい」

「なに?」


 急に言われ、戸惑うキャフであった。シドムの歌に熱狂する会場内を見渡すと、既にギムはいない。別室なのだろう。キャフの名前はシドムから聞いたものと推測するが、以前の仲間と気付いたのか否かは確認出来ない。


「どうすっかな」

「わたしたちも行こうか?」

「いや、かえって逆効果だろう。何かあったら頼む」


 そう言って、キャフは給仕の後に付いて行った。別館を離れ塔に辿り着く。既に夜も更けて、騒がしい大広間とは対照的に外はコオロギやカエルの鳴き声が静かに聞こえる。


「この最上階でございます」


 螺旋階段をひたすら上って最上階にある部屋の入り口前にやっと到着すると、給仕がノックした。


「入れ」と、中から声がする。


 給仕が扉を開ける。そこには確かにギムがいた。

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