第026話 第三層 その参
前回のあらすじ
褒めて伸ばす、これ基本。
とにかくオーラが凄まじい。
威圧で空気がビンビンに張り詰め、睨みつける目だけで殺されそうだ。そして深く伸びた髭、歴戦の闘いを物語る体中の傷跡に一部欠けた角が、格の違いを現している。
「ちょ、これヤバくない?」
「おっさん、これ倒せんの?」
シドム達も、オーガの勢いに怯む。確かに予想外だ。このレベルはBランクかも知れない。それに防具も武器もフル装備。とてもこいつらが敵う相手じゃないのは、明白だ。
誰もが戦意を喪失しかけた中、フィカだけは違った。
「行くぞオオ!!!!」
オーガに向け一直線に走って素早くジャンプすると、心臓目がけ剣を突き刺そうとする。だが、オーガの腕一つでフィカは剣ごと軽く弾かれ、吹飛ばされた。傷一つすら、ついてない。
「きゃあ!!」
壁に激突したフィカは床にうつ伏す。脳震盪を起こしたのか、直ぐには立上がれないようだ。助けに行きたいものの走り出す瞬間に攻撃を受けそうで、キャフも動けなかった。
シドム達も構えてはいるが、足が震えて動けない。
だがオーガもこちらを睨むだけで、攻撃はしてこなかった。
じりじりと、時間だけが過ぎる。
どれだけ経ったのか分からなくなった時、おもむろにオーガが話しかけて来た。
「お前たち、下に行きたいのか?」
一行は、顔を見合わせた。ここでどんな答えが正解なのか、誰にも分からない。
だが答えない訳にもいかないから、キャフは覚悟を決めて言葉を返した。
「ああ、そうだ」
これで反撃されるのであれば、やむを得ない。
フィカは意識が戻ったのか、少し体が動いた。
「じゃあ、鍵をやろう」
意外な返答で、一同は言葉に詰まった。
「何故だ?」 キャフが聞く。
「我々一族は既に滅亡した。あれは村の収穫祭の前だった。夜に突然やってきて、村は一瞬にして壊滅した。あいつらは悪魔のように残忍で、何の躊躇も無く我々を皆殺しにした。長であったワシだけが生きながらえ、ここで用心棒をさせられているのだ」
「そうなのか」
彼にしては辛い過去なのだろう。だがこの世界、残虐なことは幾らでも起こる。
同情ばかりしていては身が持たない。
「何故,オレたちを下に行かせてくれるんだ?」
「……賭けだ」
「賭け?」
「……このダンジョンを創った魔法使いが、下にいる。オレたちは、魔法であいつの下僕にさせられたんだ。逃亡したら、首に巻かれた首輪が締まる仕組みだ。だがお前たちがあいつを倒してくれたら、自由の身になれる」
「オレたちに、倒せると思うか?」
「分からん。奴はとてつもなく強い。だがお前たちにも、可能性はある」
「そうかい、ありがとよ。お前の都合など分からんがね。貰えるもんは貰っとくよ」
望外の展開であったが、闘わずに済むならそれに越した事は無い。
オーガは身につけていた服から鍵を取り出し、キャフに渡した。
ミリナとラドルがフィカのところに駆け寄り、手当をする。
幸い目立った外傷はなさそうだ。
さて鍵も三つ揃い、四つ目の扉に行こうとした時、
「あの〜」
と、アーネが言いにくそうに聞いた。
「この部屋、他の二つよりとても綺麗なんですけど……」
それはキャフも気になっていた。閉じ込められていたにしては、他の部屋にあった異臭もない。牢獄だとしても、モンスターらしからぬ清潔感にあふれている。
「ああ、俺は綺麗好きなんだ。奥に小さな川が流れていて、トイレなんかにしている。隙間が小さくて、そこからは出られないけどな」
「やっぱり! お借りしても良いですか?」
「ああ、どうぞ」
「じゃあ、ミリナも行こうよ、交替で」
「んじゃオレたちも、後で行くか」
そして一行は準備万端となり、いよいよ出発する。
「次の第四層の下に、魔法使いがいる。気をつけろ。恐らく土系の魔法を操る。俺の村の時は、巨大地震が起きて建物が一瞬にして破壊されたんだ。しかも月も出ない闇夜で、正確な攻撃を繰り出していた。ダンジョン内でどんな魔法を操るのかは分からんが、心しろ」
「分かった」
「ありがとう」
「助かりました」
皆も、オーガに感謝する。
そして鍵を三つ揃えて第四の部屋を開けると、そこには第四層へ続く下り階段があった。