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第231話 おしまい

前回のあらすじ


さあて、旅に出っかな…… ん? 誰だ?

 それは、ラドルだった。

 寝巻きではなく、いつものギャル系魔導服姿だ。

 心配そうな顔をしている。


「師匠、何やってるニャんか?」

「あ、いや、その……」


 格好が旅支度だから、バレバレである。

 まさか誰かに会うとは想像しておらず、うまい言い訳も思いつかない。

 一方ラドルは、事情を察しているようだ。


「もしかして家を出るつもりニャ?」

「魔法も使えないし、お前達に迷惑かけたくないからな……」


 キャフは正直に言った。


 戦争が終わり冒険の必要も無くなった今、キャフが出来ることは少ない。

 魔法を使えないと最先端魔法を理解しにくくなる。

 そうなると弟子の教育も厳しい。

 同業者から評価は得られないだろう。

 新しい魔法術を開発できない魔導師は、廃業するのが世の常であった。


 それに生来群れるのが苦手な性格だ。

 しがらみに縛られるより、一人に気楽に過ごしたい気持ちも強い。


 そんな思いをラドルは理解しているようだが、納得はしていなかった。


「今の私なら力になれるし、一緒に行きますニャ」

「いや、お前はオレから離れた方がいい。今のお前なら魔導師になれるぞ」

 

 ラドルの申し出を断る。


 ラドルもこの旅を通じて、実力が上がった。

 あと数年経てば魔導師に昇格できるだろう。

 下手に自分と関わるより別の師を探す方がいい。


「生活できれば出世は要らないニャ。それに師匠、一人で行くと言っても野宿も苦手だし、料理も下手だニャ。誰かが世話した方が良いんじゃないのかニャ?」

「う、それは……」


 正論だった。もう若くはないので無理は効かない。

 毒キノコを食わされたが、ラドルが料理上手なのは知っている。

 人間、胃袋を掴まれると弱い。その誘惑にキャフの心も傾きかけた。


「まあ、ちょっとだけなら良いか……」

「師匠、これからもずっと一緒ニャ♡」

「ラドル……」


 ラドルの屈託ない笑顔に、キャフは引き込まれる。 


 が、


 ガサッ


 また誰かが来たようだ。


「あら? お二人ともこんな所で何をしているのですか?」

「じ、女王様……」


 やって来たのはルーラ女王だった。

 寝巻き姿にコートを羽織った姿で、慌てて来たのがうかがえる。

 女の勘であろうか。彼女の場合かなり強い。さすが女王である。


「まさか二人で、何処かに行こうとか思ってませんよね?」

「え、ええ……」


 図星なので、キャフの目が泳ぐ。

 ラドルもソワソワする。


「女王様、違いますニャ……」

「何が違うんですか?」

「い、いや、はニャ、何というか、その……」


 答えられず、ラドルは口ごもる。


「私、これでも偉いんですの。まだ遊び足りないし、事と次第によっては軍を総動員して地の果てまでもお二人を探し出しますけど、覚悟は良いですか? 冤罪にして地下牢に閉じ込めても良いですのよ?」

「え、いや……」


 にこやかな笑みとは裏腹に、言葉は怖い。

 心なしか、目が光っている。本気だ。


 ガサガサッ


「やっぱり、そういうことか。言った通りだろ?」

「さすが姐さんっすね」


 次に来たのは、部屋着姿のフィカとキアナだ。


「お前、私達が迷惑だと思ってるのか? 勘違いも甚だしいぞ」

「そうっすよ。嫌々やってる訳じゃないっすよ」


 多分マドレーは嫌々だが、4人に囲まれ戸惑うキャフである。


 ガサ、ドテッ


 最後に来たのは、パジャマ姿のミリナだった。

 まだ酒が残っているらしく、千鳥足でふらつき庭石に転んでの登場だ。


「いたた…… ラドルちゃんが隣でゴソゴソしてたから、酔っ払ってるのに来ちゃいましたよ。うー、寒い。皆さん、何してるんですか?」

「キャフが出て行こうとしてるんだ」

「それも泥棒猫さんと一緒にね」


 ルーラ女王の辛辣な言葉に、ラドルの毛が逆立つ。

 敵に回すとヤバい。


「キャフ師、本気ですか? 今からこんな可愛い子に囲まれてのハーレム生活が始まるんですよ? 新興宗教のおっさんみたいにウハウハですよ? 好き放題ですよ? 良いんですか? こんな贅沢諦めて?」

「いや、そんなのと較べるな」

「お前が奴隷になる可能性もあるけどな」

「いや、マジで勘弁してくれ」


 5人に囲まれ、キャフは苦笑いするしかなかった。

 いつの間にか朝日が昇っている。

 口ではああ言っているが、皆キャフを心配しているのは見て取れた。


「……分かったよ、お前らに付き合うよ」


 こうしてキャフは、5人と一緒に再び家へ戻った。



 それからは平和で安息の日々が続く。

 戦争の憂いもなく、モンスター達も悪さをしない。


 特筆すべき事がなければ、書く内容もない。

 女王やマドレーは時々愚痴りに来るが、キャフ邸はいつも平和だった。



 だが幸せな時間は長く続かない。

 二年後、キャフは帰らぬ人となる。


 ある日、昼まで起きてこないキャフを不思議に思ったシーマが部屋に入ると、既に冷たくなっていた。眠ってるかのように安らかな死顔であった。


 こうなる事は皆も薄々気付いていた。

 魔素は生命活動の源でもあり、極端に少ないと寿命も縮む。


 ギム達もやって来て、簡単な葬式が営まれる。

 墓は作らなかった。

 遺骨は、生前聞いていた大聖人グラファとの修行場に散骨された。


 数年後キャフ邸は取り壊され、残るは思い出だけになる。



 キャフの魂が世界樹を上る時、《幸運(フォーチュン)精霊(フェアリー)》から謝罪を受けた。

 だがキャフは、笑っていたと言う。


「良いってことよ。『見るべきほどのものは見つ』、だ」


      *    *    *


 この話は、これにて終わる。


 だが最後に『アルジェオン史記』にある彼らのその後を書いて、筆をおきたい。



 ルーラ女王はアルジェオン王国を支え、盤石の最盛期を迎えた。

 生涯結婚せず、50才で王位をリル皇子に引き継がせたあとは尼僧院でひっそりと暮らし、81才で生涯を閉じる。リルも改心したようで、アルジェオンの繁栄はその後も続いた。


 マドレーとミリナは結婚し、内政を支えた。マドレーはルーラ女王の右腕となって教育や流通改革を行い、公正な制度を心がけ、国民から絶大な支持を受けた。リル皇子が道を間違えなかったのも、マドレーのおかげであった。ミリナは医師試験合格後フミ村に病院を作るなど地域医療に貢献し、アルジェオン国民の健康を支えた。


 ちなみにあの絵は『六人の花嫁』として世に出て有名になるが、そのうち一人が男だったりルーラ女王がモデルだとは、誰も気付かなかった。ルフも口外しなかったらしい。もちろん6人とも何も言わなかった。


 ラドルは『賢者』となり、魔法協会会長を勤めた。

 王立魔法学校卒以外、更に獣人として初の快挙である。

 若い時はともかく、落ち着いた聡明な女性だったと記載されている。

 陰ながらミリナの助力もあり、魔法立国としてのアルジェオンを復活させた。


 キアナは第七師団長まで出世する。

 フィカも兄と共に、第七師団でキアナを支えた。

 第七師団の戦艦を使い、初めて世界一周したメンバーに三人は名を連ねている。

 海賊たちとも仲良くして、モドナの復興に多大な貢献をしたようだ。



 だが残念ながら、キャフの名前は載っていない。


 死後キャフのまとめた冒険譚を『ある魔導師の記録』と名付けて出版したが、予想通り各方面のウケは悪く、売れ行きは芳しくなかった。それでも弟子達がこれだけ大活躍したのだから、満足な人生であろう。



 またジジェスの眼鏡にかなう人間が生まれたかどうかは、不明である。




 完

読んでくださり、ありがとうございました。この作品はこれにて終わりです。良かったら感想などを頂けると、今後の励みになります。今までで一番長い話となりましたが、最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。厚く御礼申し上げます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] わー……。じわわわん、と来てます。そっか、そうですよね。魔素……。 冒頭から全員集合! (※ただしマドレーは除く) で、茂みがガサッとなるたびにクスクス笑っちゃって。 そっか、二年………
[良い点] お疲れ様ー!! って勢いで感想書いたら誤字りました。書き直し。 泣きながら書いたのになんか今一瞬涙がひけてもそっとしていますが、良かったです、うんうん。最後はなんか泣けましたー。
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