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第224話 くまクマ熊KUMA〜

前回のあらすじ


【悲報】 最終章、15話では終わらない。って、そこじゃないか。

 ドラゴンスレイヤーが貫いたのは、()()()()()だった。


 アトンの少女から貰いルーラ女王が大切にしていたあの人形が、柔らかなオレンジの光を纏って宙に浮かび、ルーラを守っている。


 藁を切ったのだから、感触が軽くて当然であろう。


「も、もしかしてあなたが……」


 目を見開き、シェスカは驚愕していた。


「いかにも。お前たちが《幸運(フォーチュン)妖精(フェアリー)》と呼ぶ存在だ。我は悠久の時を旅する精神体。その時仕える者が一番大切にしている物を依り代にして現れるのじゃ」


 厳かに熊の藁人形は述べる。


「し、失礼しました!」


 シェスカは、藁人形に深く突き刺さったドラゴンスレイヤーを慌てて抜いた。


 今ここで熊の藁人形(幸運の精霊)の声を聞く存在は、ルーラとシェスカだけだ。

 藁人形が喋るとは笑えるが、実際そうなのだから仕方ない。


 探し求めていた存在を目の当たりにして、感激したシェスカはひざまづく。


「《幸運(フォーチュン)妖精(フェアリー)》様。お願いです! 我がクムールに是非ともお戻りください! こんな小娘の小汚い部屋よりもっと豪華なお宮を作り、贅沢三昧の暮らしを保証します! 雌奴隷でも雄奴隷でも、お好みの奴隷をお好きなだけ用意します! どうか戻ってきてください! よろしくお願いします!」


 いつものシェスカとは違い、見たことのないほど低姿勢だ。

 これが自分の使命と思ってきたのだから、当然だ。

 ここが千載一遇のチャンス。一族の為にも逃すわけにはいかなかった。


 だが、熊の藁人形は、宙に浮きながらシェスカを見て、


() () ()


 と言った。


「え? 《幸運(フォーチュン)妖精(フェアリー)》様、お戯れを。そこを何とか……」


 意外な言葉を受け、シェスカは更に低姿勢になる。


「だから、() () () って、言ってんの。分かる?」


 はっきり繰り返された言葉に、今度はシェスカが茫然とする番であった。


 シェスカ自身も、《幸運(フォーチュン)妖精(フェアリー)》の実体は知らなかった。

 口伝の神話のようなものであり、真剣に探し求めた先祖は数人だ。

 それも遠い昔で、どこまで探し求めたのか定かではない。


 とにかく()()がクムール没落の原因と言われ続け、皇帝一族では悲願になっていた。とにかく会えば何とかなるだろうと、シェスカは思っていた。自分ならできると、自惚れていた面も否定できない。


 だが明確な拒絶を受けた今、どうすべきかシェスカは迷い始める。

 とにかく説得するしかない。


「な、何故でございましょう? 私たちの方が、《幸運(フォーチュン)妖精(フェアリー)》様がご満足いただける環境を整えられます。こんな子娘より私達の方が、未来永劫《幸運(フォーチュン)妖精(フェアリー)》様を幸せにできます。今の皇帝にも誓わせます! 是非よろしくお願いします!」


「お前、何にも分かってねえな」


 口調が、だんだん荒っぽくなってきた。

 藁人形だから表情は変わらないが、どことなく怒っている。


「アルジェオンに連れ去られたんじゃ、ねえんだよ。()()()()()()()()()()()()()! 違い分かるか?」

「は、はあ……」


 親戚たちが誰も言ってなかった事実を聞き、シェスカは何も答えられなかった。

 完全に熊の藁人形(幸運の精霊)のペースだ。


「おまえらさぁ、こき使いすぎ! 都合の良い時だけお供え物して雨乞いばっかり頼むし。雨乞いだってなあ、他の地域の神様と調整しねえと駄目なんだよ! 朝◯龍みたいに星ばっかりもらって八百長相撲するわけにはいかねえの! それに上手くいったら皇帝の徳、ダメだったらこっちのせいとか、すんじゃねーよ! どっかの上司か? しかもだんだん安月給…… じゃねえ、安いお供え物になりやがって。こっちの世界でもな、付き合いで色々あんだよ! あれしきじゃ生活できねえよ!! やってらんねえんだよ!!!!」


 神様の文句は、かなり細かかった。


「それに比べたらアルジェオンは良くやってくれるよ。そりゃ女王様はちょっと天然でヒスだけど、お前らなんかより、国民を大切に思ってるぜ。この戦争でお金が足りないご時世でも、国民の生活が大変だからとちゃんと消費税を下げてくれたからな。お供物なんか無くてもこういう心遣いがあれば十分なの! どうせお前らは相変わらず国民のこと奴隷のように扱ってんだろ? そんなとこに誰が行くかよ!」

「あ、ありがとうございます……」


 初めて見る《幸運(フォーチュン)妖精(フェアリー)》は先代王の言っていたイメージとかなり違うが、ルーラ女王は丁寧に礼を言った。


「大体なあ、俺がいなくなっても、別の誰かが《幸運(フォーチュン)妖精(フェアリー)》の役目を果たせる筈なんだ。それがずっと来なかったって事は、お前らが悪いんだよ。もうちょっと分かれ!」


 ここに至り、シェスカは自分と一族の悲願が叶えられないと悟る。

 それは今まで必死にしてきた努力が灰塵に帰すのも同然だった。


「そうでございますか…… それでは我が一族の発展の為に死んでもらいましょう!!」


 自分の手に入らなければ、壊せばいい。良くある理論だ。

 今度ははっきりと殺意を持って、シェスカは熊の藁人形(幸運の精霊)めがけてドラゴンスレイヤーを振り下ろした。


 熊の藁人形(幸運の精霊)は真っ二つに割れる。

 だが、声は止まらない。


「ほんと、お前バカだな。この人形が壊れて俺が死ぬと思っているのか?」


 熊の藁人形(幸運の精霊)は再びくっつくと巨大化し始め、シェスカ達と同じくらいの大きさになった。


「相手してやるよ。かかってきな」

「ちくしょぉおお!!!」


 シェスカは、猛然と攻めかかっていった。

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