第222話 最後のお茶会
前回のあらすじ
終わった、終わった〜
「ルーラ女王、《幸運の精霊》をご存知ですか?」
「《幸運の精霊》?」
「はい。シェスカさんに拷問された時、執拗に聞かれたのです」
雷の方舟も消え去り平和になった今、キャフ達はアースドラゴンに乗ってレスタノイア城を目指していた。子供達も女王が責任を持って引き取ると決まり一段落だ。フィカ達も死ななくて済むと緊張が解け、無駄話に花を咲かせている。
マドレーの言葉に対しルーラの反応は薄かった。
「いえ、分からないわ。ムナ、あなたは何か知ってる?」
『お父さんが言ってたかな。でも覚えてないよ』
「そう。私も言われた記憶がないですね……」
意外な返答だった。
「でもアルジェオン王家が、クムール皇帝一族からそれを奪い取ったって言ってましたよ。そのせいでクムールが没落したって、ひどく恨んでますよ。王家の宝とかじゃないんですか?」
「そうなんですか? 略奪してきた宝物なんて聞いた事ないです」
ルーラは昔を思い出そうとしていたが、直ぐには思いつかないようだ。
あれだけ痛い目にあい辱めを受けたのに、何も無いでは浮かばれない。
「アール神と、何か関係はないのか?」
キャフも気になって聞いた。アルジェオンはアール神の下に作られた国だから、そこに何かあるようにも思う。だがそう言われても、ルーラの反応はぱっとしなかった。
「そうですね…… アール神も、アルジェオンに先住していた土着の民が信仰する神の姿だったと言います。地域によって微妙に姿や言い伝えも違うし、王家の先祖とか、そう言うのじゃないんですよね。私達はクムールからの入植者ですが、土着の民とも混じり合ったので今では区別もつかないし、私達王族がクムールから持ってきた物って無いですね」
やはり、要領を得ない。
「じゃあ、シェスカは何もないのに、逆恨みしてたってか?」
それが戦争のきっかけで多数の死傷者を出したなら、やるせない。陸軍と海軍の予算の分捕り合いだったりと、いつの世も下らない理由で戦争が始まる。犠牲になるのは市井の人々なのだから、偉い人はもう少し考えて欲しいものである。
「……そう言えば、父が『困った時には、我が家の護り神様が助けてくれるぞ』なんて言ってました。でもそれって、王家のご先祖が見守ってるぐらいの意味にしか感じなかったのですけど…… 父も具体的な何かあるとは言ってなかったし…… 鍵がかかった秘密の地下室なんていうのもありませんし……」
どこに家にもありそうな話だ。やはり《幸運の精霊》の実体は掴めない。この話はこれで終わった。
やがて《白い都》が見えてきた。
「良いじゃねえか、小さい事なんか。もう終わりだし」
「そうですニャ。一年以上の連載で作者も疲れてますニャ。細かい伏線なんかほっといて、もうそろそろ終わらせてあげましょうニャ〜」
「え? そうなんですか? 私は新大陸編を始めるとか聞きましたけど? ルーラ女王の婚約者候補10人を乗せた船が出航して、念を持った能力者同士の争いがあるって。休載しまくりで新大陸到着まで十年かかるとか」
「おっと、ハ◯ターxハンターの悪口はそこまでだ」
見ると、キアナは携帯してきたウイスキーを飲んでいる。
ラドルやミリナも、ちょびちょびやってた。
「そうだニャ! 女王様、頑張ったんだから私にも褒美欲しいニャ〜」
「もちろんですよ。後で相談しましょ」
「わーい、楽しみですニャ♡」
ルーラ女王は、にこやかな笑顔でラドルに答える。それを聞いて他の4人も色めき立った。みんな死ぬような思いで頑張ってきたのだから、やはりご褒美は欲しいようだ。
「しかし、死ぬかもと思っていたけど、案外チョロかったな」
「そりゃ、なろうですから」
「わざわざメインヒロイン目指さなくても、大丈夫でしたニャ」
「まあ、結果オーライっす。これでお宝もらって一生安泰だ〜」
4人は死亡フラグの呪縛から逃れ、本当に嬉しそうだ。
「お、城が見えてきた。いや〜懐かしいな」
「わぁー すごーい!!」
久しぶりに見るレスタノイア城は、気品に満ち溢れていた。
帝都とは対照的な白い城に、子供たちは興奮している。
イシュトの魔法攻撃で受けた損傷はまだ癒えていない。
だが平和になった今、修繕も時間の問題だろう。
アースドラゴンが城の前の広場に降り立ち、キャフ達をおろす。
城内の関係者が何事かと出てきた。侍女姿のルーラ女王に判別がつかなかったものの、ルーラ女王の言葉で一同も理解した。
「対談はどうなったのですか?」
議長がルーラ女王に尋ねる。
まさかこんなに早く戻ってくるとは思わず、予想外の戸惑った表情だ。
「決裂しました。奴ら、私を拷問にかけようとしたのです。でもここにいるマドレーが身代わりになってくれました。そして最大の脅威だった雷の方舟はもうありません。むかしムナ皇子だったこのアースドラゴンの助けで、破壊しました」
「何と!」
一同、みな驚いている。恐怖が取り除かれ、ほっとした表情が大半だ。
「近いうちに和睦の交渉が始まるでしょう。危機は去りました。私達は疲れをとりたい。下がってよろしい」
「はっ」
ルーラ女王の命令に従い、城の者たちは中へ戻って行った。
「お疲れ様でした。じゃあ夜になったらお茶会をしませんか? 使いの者を送ります」
「いいね」
「久しぶりのお菓子ニャ」
「ムナもどう? 人間の姿に戻れないの?」
『姉さん、ありがとう。多分戻れるから、キャフくん達を家に送った後にやってみるよ』
こうして一時解散となり、キャフ達はアースドラゴンに乗ってキャフ邸へと帰る。
自宅に戻ると時間がかかるので、マドレーやキアナも一緒にやってきた。
家に着くとアースドラゴンの体が縮みはじめ、ムナ皇子に変わる。
相変わらずの見目麗しい姿だ。ミリナとラドルが興奮で鼻息荒くなった。
「きゃ〜 お久しぶりですぅ!」
「やっぱり可愛いニャ。一緒にお風呂、どうニャ?」
「いや、それはやめとくよ」
ベタベタワシャワシャする2人に対し、皇子の冷静さも変わらない。
執事のシーマは相変わらず完璧な仕事をこなしている。
おかげでキャフ邸は、最後にいた時と寸分変わらぬ様子であった。
みな風呂に入って冒険の疲れを癒し、軽めの夕食をとった。
やがて女王が遣わした馬車が来たので乗り込む。城にはすぐ着いた。
女王の寝室は、これだけの人数が来ても十分に広い。
お茶の用意は、侍女達によって整えられていた。
「お待ちしておりました」
普段着に着替えリラックスした様子のルーラ女王は、いつになく綺麗であった。ちなみにマドレーも、既に女装は止めている。もう何の憂いもなく、お茶を楽しめる。みんな自然と笑顔になった。
「さあどうぞ。召し上がれ」
「いっただきますニャ〜」
普段よりも賑やかな、お茶会が始まる。
今までの旅の苦労や面白かった事など、会話の話題には事欠かない。
特に世界樹の話は、ルーラ女王やマドレーを驚かせた。
「世界樹が、あの夜に見える星の世界に繋がってるんですか」
「ああ。ジジェスって奴はいけすかないが、彼のおかげで助かった」
「まあ、あの人はそんな人ですよ」
昔からの知り合いのせいか、アースドラゴンは、事もなげに言う。
「皆さん、ご活躍されたようで。無事に帰ってこれて何よりです」
「そうですニャ」
「世界樹を登るのは、ほんと大変でしたよ」
「オレは、もう行きたくないな」
「そうなんですか? 星の宙船に住みたいから、あんな事言ったのかと思いましたが?」
「いや、オレ達よりもっと未来の世代を考えて言ったんだ」
誰もが楽しく談笑し、優雅な時間が過ぎていく。
そんな時だ。
「おや、楽しそうだね。私も混ぜてくれないかい?」
(え?)
聞き覚えのある声が部屋の中に響く。いるはずのない人間の声に恐怖と緊張で部屋は瞬時に凍りつき、会話が途切れた。
狼狽する間に、キャフの席近くの空間が黒く歪む。
現れたのはシェスカだった。




