第221話 真打ち登場
前回のあらすじ
うわっ! マジでヤバい!!
その白い光は《雷の方舟》と同じ大きさまで広がり、やがて実体化し始める。
だがその時には、既にキャフ達は意識を失っていた。
ドスン!
(う、いてえ……)
キャフが眼を開けたとき、まだ空中であった。死んでいない。
重力の支配から逃れて落下は止まり、何かの上に乗っている。
この感触にキャフは覚えがあった。
丈夫で綺麗な大地のように赤茶けた鱗は、アースドラゴンだ。
子供たちも含め、全員無事だ。「ドラゴンだ!」と無邪気に喜んでいる。
「皇子! え、何で?」
キャフは助かったことよりも、アースドラゴンがここにいる事実を不思議に思った。ミリナが呼び出したのだろうか? それにしても、こんな一瞬で来るとは考えられない。
『それはこっちが言いたいよ。転送装置が作動して、いきなり来させられたんだ』
「もしかして、これか?」
キャフは腕輪を見せた。余韻なのか、まだ光を少し放っている。
強制的に転送させられて、アースドラゴンはいたく不満そうだ。
『あ、それそれ。ジジェスの持ってる転送腕輪だ。あいつに会ったの?』
アースドラゴンは、キャフにはめられた腕輪を見ていう。
ジジェスも腕輪の仕組みも、知っているようである。
「ああ。世界樹から宇宙まで行ってきた」
『へえ、人間なのにやるね。あ、フィカさんの剣とキアナさんの銃もエルフの手が入ってるね。凄いや、これ。よくジジェスが許したね。僕とこれが合わせれば、世界樹も破壊できるよ。あいつらムカつくから、やっちゃう?』
物騒なことを言い始める。それを聞いて、ジジェスが嫌々ながら腕輪を渡し、使い方も教えなかった理由を悟った。下手をすると自らの存在を脅かす道具らしい。”呪い”とは、これを壊せずにいる彼ら自身に向けられての言葉のようだ。
だがジジェスと約束した以上、世界樹に害を成したら信頼を失う。
それだけはしたくなかった。
「いや、それは止めてくれ。そっちより、あの《雷の方舟》を倒してくれないか」
『……分かったよ。あれを破壊できるのは、今の僕しかいないしね。じゃあフィカさん、キアナさん、それを僕に渡してもらえるかな』
「どうぞ」
「あいよ」
幸い、アースドラゴンはキャフの意向を汲んでくれた。
アースドラゴンは、2人から剣と銃を受け取る。
するとそれらは変形し始めて長距離砲のような形に変形し、ドラゴンの鼻先にセットされた。
『これがあると、竜の咆哮の威力が増幅されるんだよ』
「頑張ってニャ、皇子!」
「やっぱり最後は皇子ですね。早く人間に戻って欲しいな♡」
『ありがとう』
ラドルとミリナは、昔を思い出しているようだ。
一方、雷の方舟では、アースドラゴンの出現に焦っていた。
既にシェスカとイシュトは司令室に戻っている。
「うわ、坊や、あんなの連れてきたんだ。どうやったの?」
転送装置の存在をシェスカは知らなかった。
自分が強者だと過信していたばかりに、キャフ達の行動力を侮っていた。
「どうしますか、シャルロッテ様」
「仕方ないね、死んでもらおう」
そう言うと、モドナの時にしたように禍々しいドクロマークのボタンを押す。それが何を意味するか知ってても、彼女は躊躇するどころか、笑みを浮かべていた。
「キャフ師、舟の底が開きましたよ? あの爆弾じゃないですか?」
最初に気づいたのは、ミリナだった。
子供達も怖い怖いと騒ぎ始める。
「ヤバイな、何とかしなければ」
キャフは魔法を繰り出そうとしたが、頭についているリングのせいで発動できない。
「くそっ!」
『おや、どうしたんだい? キャフくん?』
「この頭にはまってるリングのせいで、魔法使えねえんだ」
『なんだ。じゃあ壊してあげるよ』
アースドラゴンが3人に光を発すると、あっけなくリングは消滅する。
試しに魔法杖を使ってみると、魔法の発動が確認できた。
『ちょうど良いや、3人とも手伝ってよ。威力が更に増幅されるから』
「分かった」
「良いですよ、皇子」
「もちろんですニャ」
そう言っているうちに、《小さな太陽》が落下してきた。
静かにどんどん接近して漆黒の闇が広がる姿は、恐怖を体現している。
どのタイミングで爆発するのか分からないので、急がねばならない。
『3人とも集中して。いくよ。三、二、一!!』
ピカァアアア!!!
《小さな太陽》がキャフ達に激突寸前、アースドラゴンから《小さな太陽》目掛けて、真っ白な光が勢いよく放たれた。
すると《小さな太陽》は、あっという間に粉のようになって、吹き飛んでしまった。
「やったぁあ!!」
恐怖が取り除かれ、キャフ達は喜んだ。
「な、何あれ! あんな事できるの?」
一方のシェスカは、アースドラゴンが繰り出した技に驚愕する。せっかく《小さな太陽》を持っていても、これでは無力化してしまう。ここに至って、シェスカは現状が自分に不利であることを悟った。
「早くこいつらから離れるよ! 急げ!」
シェスカは慌てた様子で、ドラゴンの向きと反対方向に舟の舵を切る。
だが、今更無駄なあがきであった。
「じゃあ、やろうか」
「頼む」
「また3人とも集中して。いくよ」
「さんっ!」
今度は子供たちも、一緒にカウントし始めた。
「にぃ!」
雷の方舟の速度があがるものの、十分射程範囲内だ。
必死に逃げるシェスカが哀れに見えた。
「いちぃ!!」
いよいよだ。緊張で手に汗がでる。
「ぜろぉお!! ファイアァアア!!!!」
ドッガーーーンン!!!!
今まで見たことのない竜の咆哮が、雷の方舟に襲いかかる。
直撃だ。竜の咆哮が消え去った後、雷の方舟は跡形もなかった。
「やったぁあああ!!!!」
「やっつけたニャ!!」
アースドラゴンの背中にいる皆は、歓喜の渦に包まれる。
キャフも安堵し、アースドラゴンの背中に寝っ転がった。
(はぁあ〜 何とか終わったか)
シェスカがもうこの世にいない事実は信じられないが、それよりも気楽に寝転がれる今をキャフは満喫したかった。




