第220話 罠
前回のあらすじ
マドレーも子供達も見つけたけど、やっぱりシェスカさんが出てきた!
「坊や、久しぶり。元気? 随分としけた面子ね」
7人は身構えるが、シェスカは戦闘態勢を取る素振りもない。
肩透かしを食らったようで、不機嫌な顔をしている。
子供達や7人に全く興味がなさそうだ。
「なんだ、女王様いないの? もっと派手にやりたいんだけど。あんたらの国、地味なのばっかりでつまんない」
「え?」
「皆さん、静かに」
シェスカは、侍女姿のルーラに気付いてないらしい。
6人はマドレーの意図を瞬時に理解する。
それよりシェスカの持つドラゴンスレイヤーが、キャフは気になっていた。
「シェスカさん、その剣さっき皇帝が持ってた剣じゃねえのか?」
そう声をかけると、シェスカは苦笑いする。
「あ、坊や。そうよ。あの皇帝は、わ・た・し。残念ね、そっちもお目当ての相手がいなくて。坊やによっぽど言ってやろうかと思ってたけど、女王が欲しかったから黙ってたのよ。でもそれが女装好きの変態だもんね…… がっかり。私も焼きが回ったわね」
「へ、変態じゃない! ……です」
マドレーは声を荒げたが、語尾が小さくなる。
今の姿で否定しても、少々説得力がない。
「あらら、元気になったこと。良かったわね。それでどうするの、これから?」
キャフ達は眼中にないといった態度で、シェスカはぶっきらぼうに言う。
「どうするって?」
「どうせ私の知りたい事は知らないんでしょ? そこの変態も役立たずだし、私もう、つまんない。さっさと帰ってくれない? 用事ないし」
素っ気ない態度に、7人は顔を見合わせる。
彼女の意図が読めなかった。
「子供達も返してくれるのか?」
「子供達? ああ、好きにしたら。どうせ代わりは幾らでもいるし。イデュワを往復するだけの魔素は畜魔石に入ってるから、どうでも良いわ」
その他人事のような態度と言葉に、ミリナが怒りに震え大きな声をあげる。
「別な子を、同じ目に合わせるの?」
「だってあの子達、あんたらが連れて行くんでしょ? そしたら別な子から魔素もらうだけよ。何言ってんの?」
シェスカは、ミリナの言いたいことを理解していないようだ。
この子供達は彼女にとって単なる道具でしかなく、何の情もない。
そんなぞんざいな扱いに、ミリナも他のメンバーも怒っていた。
「ふざけるなぁああ!!! 塵に帰れ! 爆裂!!!」
ミリナから発せられた小さい光の球は、シェスカの目の前で大爆発を起こした。
ドッドーーーン!!!
だがミリナの強力な魔法も、ドラゴンスレイヤーで瞬く間に無力化される。
「こいつめぇえ!!」
続いてフィカも斬り込む。だが簡単にかわされる。
「あ、それデュダリオーンに鍛えてもらったんだ。でもあなたじゃ役不足ね。能力の十分の一も使いこなせてないわ。その年齢でそのレベルなんだから、騎士辞めたら?」
侮辱的な嘲りの言葉に、フィカはシェスカを睨み付ける。
だがシェスカは全く動じていない。
「死にたいの?」
「くそっ」
力量がどちらが上であるのか、明白だ。
敵わないので、フィカはグッと堪えた。
「だって、私強いもん。強ければ何やっても良いのよ? 私の役に立つんだから、名誉に思って欲しいぐらいだわ」
全くイキらず強いと自然に言える彼女は、真の強者だ。
乙女達は腸が煮えくり返る思いだが、勝てないと分かったので手を出せない。キャフも勝ち目がないと知っていた。3人ともかなり魔素を消費したし、無事に帰して貰えるならその方が良い。
「弱いから面倒ごとに巻き込まれるし、何もかも上手く進まないのよ。そう言う私もまだアルジェオンを手中にしていないんだから、同じか」
珍しく自虐的に苦笑いをする、シェスカであった。
よほど、マドレーの替え玉がこたえたらしい。
「どうせだったら少し観光でもする? この舟にもう来ることはないんだし、楽しんだら?」
「何をするんだ?」
「こういうのは、どう?」
そう言ってシェスカが何かを操作すると、部屋の壁と床一面が透明になった。眼下にはモンスター生息域とアルジェオンの東端部が見える。この戦争で激戦区だったアトンの街の近くにいるようだ。
「うわー すごい!!」
「あ、おっきい山!」
「町がこんなに小さく見える!!」
「モンスターも初めて見たよ! 格好いい!!」
子供達は無邪気に大はしゃぎして、下を見ていた。
舟の高度はぐんぐん上昇し、更に一帯を眺望できた。
「楽しんでくれたかい? じゃあ、ここに集合」
シェスカが学校の先生みたいに、子供達とキャフ達を中央部分に集める。
学校にもいたから、子供達もシェスカに馴染みがあるのだろう。
「お疲れ様。私らとはここでお別れだけど、元気でね」
「はい」
「これは私達からの、プレゼント♡」
その瞬間イシュトが魔法を発動させた。
光るリングが、キャフとラドル、ミリナの頭にはめられる。
「え?」
「何したんだ?」
「ふニャ?」
シュッ
質問する間もなく、キャフ達が立っていた床が突然消えた。
自然の摂理に従って、全員真っ逆さまに落下する。
ヒューーー!!!
キャァアアア!!!
ウワァアアア!!!
ヒャァアアア!!!
悲鳴を残し、落下していくキャフと子供達。
彼らが消え去った後、床はすぐ元に戻った。
「はあ〜、やんなっちゃう。また作戦一からやり直しか〜 早くご対面したいな」
「そうですね」
2人はキャフ達をすっかり忘れ、部屋を後にした。
* * *
(く、くそ。魔法が使えねえ……)
重力で身動き取れない空中で、キャフは必死にもがいて魔法の発動を試みる。だが、魔法杖は全く反応しない。どうもイシュトにはめられたリングに、魔法消去の効果があるようだ。
(ま、マジでやべえぞ)
他の6人も子供達も、絶叫を上げながら落下している。
(こ、これまでか……)
キャフの意識が薄れていく。逆らっていた体も重力に従順になり始めた。
打つ手なし。もう終わりのようだ。
ピカッ
『……ヲ転送シマス』
残された意識も僅かな中、キャフの右腕にある何かが喋り始めた。
すると柔らかく大きな光が出現し、皆を包み込んだ。




