第219話 方舟の中で
前回のあらすじ
まあつまり、座敷童っちゅうことだな。みんなも見かけたら、大切にしよう!
「このクズ共め! 圧倒的な我が力にひれ伏すが良いニャ!! 炎爆弾!!」
ボォオオッとラドルの手から力強い炎が現れると、クムール兵目がけて投げつける。投げつけた炎は兵士を直撃し、辺り一面が火の海と化した。ラドルはここぞとばかりに魔法を使いまくる。
「助けてくれぇええ!!!」
「ひえぇえ、化け猫だぁあ〜!!」
獣人の俊敏な動きも持ち合わせた攻撃に、兵士たちは恐れをなし、逃げ惑う。勢いづいたラドルは奥へと追いかけて行った。
「ニャっニャっニャ。我を崇めよ! この愚民ども!」
ボン、ドカァアアアン!!
ウワァアア!!!
(この辺で点数稼いで、メインヒロインを狙うニャ!)
死なないために、ラドルも必死である。
今や4人は、Sランクのモンスターすら1人で倒せるほどの力量を持つ。
中でもラドルが一番成長したと言える。
出来の悪い魔法使いだった初めの頃を思えば、望外の出世だ。
魔法を存分に使える喜びにひたりながら、ラドルは攻撃を続けた。
(ちょっと、ラドルちゃんヤバくない?)
(あいつ、力が入りすぎだぞ。キャラ変わってないか?)
(ヤバいっすよ〜 死亡フラグに近いんじゃないっすか?)
3人はラドルの様子に心配する。
死ぬ直前、無双するのは良くある話だ。
ここからつまずかないで欲しい。
「マドレーさん〜 どこですかぁあ??」
そんな3人の心配をよそに、大きな声でマドレーの名を叫びながら、ルーラ女王も飛び出していく。責任を強く感じているのだろう。だがここは敵の舟の中。どこに危険が潜んでいるか分からない。案の定、向こうからクムール兵が現れた。
「あ、危ない!」
ギャァアア!!
キャフが電撃剣を投げつけ、クムール兵を倒す。
あと一歩遅かったら、ルーラ女王の命が危なかった。
「おい、ルーラ! ここは戦場なんだ。オレの命令だけ聞いて後ろにいろ!」
「は、はい。すいません……」
キュン♡
(え、ルーラ女王がキュンってなってるニャ!)
ルーラ女王のモゾモゾした態度に、4人は気が付く。
女王の身だから、こんな呼び捨てにされて素で叱られた経験は初めてで、弱い。育ちの良いお嬢様が真逆のヤンキーに憧れるのと同じみたいだ。ここで壁ドンあれば一発だろうが、キャフはそこまで考えてなかった。
(ヤバいニャ、モブで死ぬのだけは勘弁ですニャ〜)
ラドルは更に躍起となって魔法を繰り出し、兵士達をやっつける。
だが、好事魔多し。
プシュー
シュゥー、シュゥー
「はニャ!」
突如天井のスプリンクラーが解放され、水が吹き出してきた。やはり戦争に使う船、防火設備は万全である。古代兵器なのにこんな設備がまだ動くとは不思議だけれど、巨神兵も一体だけ都合よく生き残るのだから許してもらえるだろう。
キャフが防御魔法をかけて、水から4人を守る。
だが1人先を行っていたラドルは、まともに水を被ってしまった。
濡れた子猫のようになり、耳も尻尾も下がってしまう。
「ふニャ〜 はっくしょん!」
「ラドル、お前も無茶するな。みんなで行くぞ」
「はニャニャ〜」
しょんぼりするラドルが最後尾になり、ルーラ女王を囲む形で一行は階下におりる。
だだっ広い舟なので、これしきの爆発ではビクともしないようだ。
兵士以外に動く石像も現れるが、5人の敵ではなかった。
しばらく進むと、大きく頑丈な扉が現れた。
しっかりと、鍵がかけられている。
「お、それっぽいね〜」
キアナは鍵穴に手持ちの道具を差し込み、ガチャガチャやり始める。
「大丈夫か?」
「ああ、軍で習ってるし、個人的にも得意だよ。お、開いた」
ギィイイイ……
「うわ!! 何じゃこりゃ!!」
「ここにいたのか……」
キアナが扉を開けると、中はかなり広い部屋だった。
そこには、おぞましい光景が広がっていた。
中央に、見たこともない巨大な蓄魔石がある。
この舟の、動力源だろう。
そしてその周りには、子供たちがベットに縛り付けられていた。
頭に被せられたヘルメットにはコードが繋がれ、蓄魔石まで伸びている。
怪しく光る蓄魔石は、子供達の命の灯火のようだ。
《未来の子供》達——
体は痩せ細り、叫び声すら上げられないほど、弱っている。
何人か白衣を着た大人が立っていたが、管理する研究者であろうか。
6人の姿を見ると驚きの声を上げて、何処かへ逃げてしまった。
「あ、マルアちゃん!!」
それはクムール帝国で最初に会ったマルアだった。
成長期の筈なのに当時と変わらない背丈で、骨と皮だけの姿だ。
ミリナが決死の形相で駆け寄ってベッドの拘束具を壊し、コードも外して解放する。マルアは何が起きたのか分からないようで、ぼうっとしている。ミリナに抱き抱えられて、ようやく上体を起こす。
「あ、お姉さん達…… 何でここにいるの? 私もう天国にいるの?」
「マルアちゃん!!」
ミリナは泣きながら、痩せ細ったマルアに回復の魔法をかける。
だんだん血色が良くなってきて、笑顔になった。
「良く頑張ったね。えらいね。大丈夫。もう、ここから出られるんだよ」
「本当? みんなも?」
「うん、もちろん!」
「お姉さん、ありがとう!!」
当然のことながら、キャフ達も子供達の救出に奔走していた。
総勢30人ほどだ。ミリナが一所懸命回復魔法をかけ続ける。
「一緒に連れて行くのか? 子供達が危険じゃないか?」
フィカが心配そうに聞く。フィカの危惧はもっともだ。
「当然だ。オレ達が守る」
キャフは即答した。ここで解放した以上は子供達を残すわけにはいかない。
ミリナの魔素の回復度合いによるが、マドレーを救出すれば浮遊魔法で脱出可能だとキャフは考えた。《小さな太陽》は気になるものの、まずは人命優先だ。
ミリナとキアナが子供達の先導を引き受け、先を進む。
フィカは一番先頭に立ってクムール兵を倒していく。
かなり下層まで来た。
ミリナもラドルも子供達を想うと怒り心頭で、周りの設備を破壊する。
逃げたのか、クムール兵とも遭遇しなくなった。
そんな時、「助けて下さい〜」と、聞いたことのある声が聞こえた。か細い。
「あ、マドレーさん!!」
声のする部屋に入ると、鎖に繋がれたマドレーが倒れている。
「皆さん、お久しぶりです。やっと、来てくれましたか……」
とだけ言うと、安心したのかそのまま気絶した。
慌ててミリナが、回復魔法をかける。
「……あ、ありがとうございます」
胸パッドも落ちた半裸姿を皆は突っ込みたいものの、その余裕はない。
とにかく、一緒に逃げるのが先決だ。
だが下層は迷路のように入り組んでいた。
「もうそろそろ、この辺が底だと思うけど……」
皇帝を倒すのは諦め、とにかく脱出を最優先する。
すると、床にマンホールの蓋みたいな物があった。
重い蓋をずらすと下に梯子が続いている。
キャフが先頭に、キアナとラドルが最後尾になって降りて行った。
意外にも、たどり着いた先はだだっ広い部屋だった。
素っ気ない造りで陰鬱な空気が流れている。死の匂いがした。
「こ、これは……」
そこには大きな爆弾が、二つほど置かれてあった。
《小さな太陽》だ。
真っ黒く頑丈な鋼の塊は、モドナの悲劇を想起させる。
これ一発で、悪魔のような破壊力を兼ね備えている。
まだ残っているとは思っていたが、現実を見せつけられると悪夢だ。
「やっぱり来たね。お久しぶり♡」
《小さな太陽》の影から現れたのは、シェスカとイシュトだった。




