第212話 死亡フラグ 後編
前回のあらすじ
作者自ら首を絞めにいくスタイル。
「め、メインヒロイン……だと!?」
「ふニャ?」
その言葉にキアナとラドルが反応するが、どう言って良いのか分からず顔を見合わせるだけだった。ちなみにシリアス顔は疲れたから元に戻っている。ミリナは相変わらず、自分の世界に閉じこもり中だ。
「そうだ。だってこの話ハーレム物だろ?」
「あ、一応そうらしいっす。自分は気にしてなかったけど、タグついてます」
「はい、そうですニャ。最初は私しかいなかったけどニャ」
フィカの言葉に2人も同意する。冒険を始めた頃は、時々思い出したようにそんな事もやっていた。だが戦争が始まりそれぞれ役割を果たすにつれ関係も薄くなり、すっかり忘れていた。美女4人の存在に慣れたのか久々の冒険を始めても、キャフに昔みたいなギラギラさはない。一緒に居過ぎて見飽きたようだ。
「だったら普通、主人公を巡ってバトルが勃発するんじゃないのか?」
「念のためですが、主人公は師匠で良いんですかニャ?」
「タイトルも変わってないし、そうだろう」
「えー、そんなもんっすか? 最近のなろうだと仲良くみんなで敵を倒しに行くんじゃないっすか?」
「そうですよ。フィカ姉さん、それ、古いハーレムですニャ」
「……そ、そうか?」
2人に否定されてフィカは自信を無くしたようだが、酒の勢いで話を続けた。
つまみの柿の種やチーズも美味しい。
「いや、どっちにしても読者人気がないキャラはヤバいぞ。逆に人気があったら殺し辛くなるもんだ。某野球漫画でも主人公の双子の弟が死ぬシーンを出版するの、編集者は命がけだったらしいからな」
「あー、アオイ◯ノオに出てたニャ」
「だから姐さん、それも古いっすよ。今はみんな一緒に結婚するとか、1人選ばれても何故か5人で花嫁姿とか、平和な話っすよ」
「……時代も変わったな」
「フィカ姐さん、幾つなんですか?」
「死ぬのは嫌死ぬのは嫌死ぬのは嫌……」
キアナの質問に何も返さず、フィカはグラスを飲み干した。
田舎の村らしく酒はたくさんあったので、今日は幾らでも飲める。
「そうは言うが、モブが命の危険に晒されるのは変わらんぞ」
「まあ、そうっすかね……」
あくまで強情に言い張るフィカにキアナも多少同意するが、疑念は晴れなかった。
「だいたい冒険もののメインヒロインって、大変じゃないっすか? 誰かにさらわれたり、死にそうな目にあったりとか。フィカ姐さん、そんな役をしたいんですか?」
「そうそう、縛られたりするの痛そうだしちょっと嫌だニャ」
2人の反論はもっともである。
そこまでしてなりたいかというと、フィカも今いちピンとこない。
「言われるとそうだな。私だったら、キャフが来る前に自分でやっつけるな……」
「そうでしょ? そこ我慢しないとダメなんすよ? できますか?」
「うーん……」
「シヌノハイヤ、シヌノハイヤ、シヌノハイヤシヌノハイヤシヌノハイヤシヌノハ……」
今度はフィカが黙り込み、ミリナの呟きだけが響く。
「それにですよ、姐さん。メインヒロイン、この4人とは違うんじゃないっすか?」
「誰だ?」
「ルーラ女王がいるじゃないっすか!」
「あ……」
キアナの言葉に、今度はラドルとフィカが顔を見合わせる。
「ルーラ女王ならそういうの似合いそうだな」
「女王様ちょっと天然ボケも入ってるしニャ」
「でしょ? そしたら、ここであーだこーだ言っても意味ないんじゃないっすか?」
「いやでも、彼女は城から出てこないだろう? やっぱり私達じゃないのか?」
ルーラ女王が皇帝と会談するという話は、まだ知らない。
「ともかく仲良くいきましょうや。ここで私らが殺し合いとかしてたら、倒せる敵も倒せませんぜ。まあ一杯どうぞどうぞ」
「あ、すまない」
再びグラスに注がれた酒を、フィカは美味しそうに飲む。お返しにフィカがキアナのグラスに酒を注ぎ、一気飲みをする。ラドルも一緒に飲んでもうグデングデンだ。
「じゃ、そろそろお開きにしましょっか?」
まだ意識を保っているキアナの声かけで、片付けを始めようとした時であった。
「死ぬのは、いやぁああああああ!!!!!!!」
大きく叫んだミリナが、立ち上がってキャフの寝るテントに走って行く。
ただ既に酔いが回り、千鳥足である。
「あ、ミリナ、どこに行くんだ?」
「もしかして、既成事実を作りに行ったのかニャ? ミリナちゃん優等生のくせにおっぱいデカいから、本気でいったら師匠もその気になるニャ!」
「え、こんな健全サイトでそんなことしたら、確実にBANじゃないっすか?」
「ヤバイな。追いかけるぞ!」
事態を重く見た3人も、必死にミリナに追いつこうとする。だが所詮酔っ払いの追いかけっこだ。フラフラして、途中何度も倒れながら前に進んだ。
一番最初にキャフのテントに到着したのは、やはりミリナだった。
「キャフ師、あ、あの、子供を作りませんかぁあ?」
やっぱりそのつもりだったらしい。
ドスンと、キャフの寝袋にダイブする。
「グホッ!!」
すっかり就寝中だったキャフは、目を開けるとミリナがいて驚く。
ただミリナも酔ってるので、寝袋の上でゴソゴソ動くだけだ。
「な、何だ?」
「それより、師匠、私がペットになるニャ!」
「いや私と主従関係にならないか? どっちが奴隷かは後で決めるとして」
「特に何にもないけど、自分も参加するっす!」
キャフの目が覚める前に、ドスンドスンと、残り3人ものしかかる。
「お前ら、酒臭いぞ! 何やってる?」
キャフが聞くのも構わず、4人は寝袋の上でくんずほぐれつ組み合って、騒いでいた。寝付けなくなったキャフは、テントを出て外で寝ることにする。
翌朝、キャフのいたテントから出てきた4人は二日酔いで頭痛が酷い。
「私ら、こんなとこで何してたんだ?」
「さあ」
4人とも記憶にないようだ。
キャフも事情が分からないので、そのまま不問となる。
午前中は少し休憩して、午後再び偵察がてら村へ買い出しに行った。




