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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第十四章 魔導師キャフ、最恐兵器を手に入れる
209/231

第209話 ハグータ島襲撃

前回のあらすじ


久々の、クムール帝国だぜ!

「大丈夫か、キアナ。バレてないか?」


 キャフ達は密林をガサガサと踏み分けながら、大きな葉っぱの影で待機中のキアナと合流した。鳥やカエル、虫や動物達の動く音が至る所から聞こえる。


「ああ、勿論バレてねえ。軍仕込みの偵察術だからな」

「それが一番、信用できねえ」

「そうかもな」


 キャフの返しに苦笑いするキアナだが、敵に目立った動きはない。

 クムール軍も、キャフ達の存在に気付いていないようだ。


 眼前にある壁の中から、何やら作業をしている男達の声がする。

 時折聞こえる”ギィイ”と鳴く声は、以前も遭遇した魔獣亀(デス・タートル)だ。


「積み込み作業か?」

「それっぽいと思うんだけど」

「出てきたら、どうする?」

「追いかける」

「あの亀、速いニャよ」

「まあな。陸路だろうが河だろうが、追いかけるさ」


 だがキャフ達の予想に反し、積み込み作業に手間取ってるのか、門が開く気配はない。ジャングルだから日差しは届かないものの湿度は高く、怪しげな虫や動物たちがそこら中にウヨウヨいる。耐えるのも限界なので、ミリナがバリアをかけて一息つく。


 やがて、夕暮れ時が近づいてきた。

 門は開かないが、兵士達の声や魔獣亀(デス・タートル)の鳴き声はまだ聞こえる。


「見込み違いだったかな? アイツら何か喚いてるし、そうじゃないかと思ったんだけど」

「まあ、待とう」


 5人とも、じっと身を潜めた。日も暮れてすっかり夜になる。


 この季節は、夜でも暑い。ジャングルは熱帯夜で蒸し暑く、待機するのも一苦労であった。今日は月も出ておらず、真っ暗だ。夜行性の動物たちの鳴き声も聞こえ始めた。バリアの魔法が薄い光を放つ。


 交代で眠りながら、フィカが番をしている時だった。

 ギギィイーと、門が重い音を立てて開き始めた。


「みんな、起きろ。出発するぞ」


 フィカが4人に声をかけると、モゾモゾと起き上がる。

 その間に、門からは魔獣亀(デス・タートル)が三匹ほど現れた。

 背中には荷物が沢山積まれており、兵士も数人ずつ乗り込んでいる。


「やっぱり、それっぽいな。追跡しよう」


 キャフ達は魔獣亀(デス・タートル)の後を付いて行った。

 予想外に魔獣亀(デス・タートル)達は学校の前を通る道からすぐに外れ、チグリット河に向かう。キャフは浮遊魔法を使い、4人を乗せた。


 魔獣亀(デス・タートル)達はそのままチグリット河の岸辺まで来ると、ジャボンと入り悠々と泳ぎ始めた。真っ暗闇なので、泳ぐ音で確認するしかない。魔獣亀(デス・タートル)に驚いたのか、時折鯉のはねる音もする。闇夜のお陰で、クムール軍はこちらに気付かない。キャフ達は細心の注意を払い、低空飛行で追跡する。


 魔獣亀(デス・タートル)達はチグリット河の上流に向け、器用に泳いでいた。この距離からは、荷物の中身は窺い知れない。夜の帳も下り村や町の明かりもほのかで、キャフ達を照らすまでには至らなかった。


「どこまで行くんだろ?」

「もしかして、あのハグータ島では?」

「その可能性は、あるな」


 果たしてミリナの予想通り、魔獣亀(デス・タートル)達は中洲の大きな島に近づいていった。そこは軍の施設があるようで、松明が煌々と燃え盛っている。


 キャフ達も近づこうとした時、ラドルが「何か来るニャ!」と叫んだ。


「え、何だ?」

「上昇するニャ!」


 ラドルが必死に警告する中、真下の水面が隆起しザッパーンと水音を立てて、キャフ達を飲み込めるぐらい大きな口を開けた魔魚(デス・フィッシュ)が飛び跳ねてきた。その高度でいたら食われてしまう。


「うわっ!!」

「危ねえ!!」


 5人が口々に叫ぶ中キャフは急浮上して、間一髪魔魚(デス・フィッシュ)の餌食になることは免れた。だがこれはハグータ島にいるクムール軍に、キャフ達の存在を知らしめる結果となった。


 ドーーン!!

 ドッドーーーン!


「大砲だニャ!!」

「おい、キャフ、避けろ!」

「やってる!!」


 島から何発もの大砲がキャフ達目掛けて撃ち込まれる。

 自在に空中を浮遊しながら、発射時に発する光を頼りになんとか避け続けた。


「どうする? このまま戻るか?」


 フィカがキャフに尋ねた。ハグータ島に駐留するクムール軍は予想以上の規模で、次から次へと大砲を撃ち込んでくる。撤退を考えるのももっともであった。


 だがキャフの考えは違っていたようだ。


「こう見えてオレは派手好きなんだ。ラドル、やれ!!」

「はいですニャ! ファイアビーム乱れ打ち!!」


 反撃の狼煙として、ラドルの両手から繰り出される炎がハグータ島目掛け続々と放たれる。クムール軍の施設はあっという間に炎に包まれ、警報に叩き起こされた兵士たちは消化活動に大わらわだ。


電撃放射(サンダーアタック)!!」


 ラドルの攻撃に続き、まるで天の怒りのようにキャフが放った幾重もの雷がハグータ島全面に直撃する。ガーン!と、更に大きな爆発音がした。火薬庫に引火したらしい。


 闇夜に浮かぶ炎は残酷なほどに美しく、地獄の業火のようであった。

 やがて大砲の攻撃が止んだ。

 もうクムール軍には、反撃する力が残っていないようだ。


「《(いかずち)方舟(はこぶね)》は、無いのかニャ?」

「この様子じゃ、そのようだな。長居は無用だ。帰るぞ」


 目的は果たせなかったものの、キャフ達は再びアジトへと戻って行った。



 翌朝、丸焦げになったハグータ島に魔導将軍イシュトが降り立った。

 すでに救護兵があちこちと駆け回り、生存兵の看護をしている。


「酷いものだな」

「はい、ほぼ全滅です。数ヶ月は使い物にならないでしょう」


 案内役の兵士が答える。


「戦争に犠牲は付き物だが、例え陽動作戦とはいえ、我が兵の無様な姿を見るのは忍びないな。この借りは《(いかずち)方舟(はこぶね)》できっちり返してやろう。戻るぞ」

「はっ」


 魔導将軍イシュトは空間魔法を使い、帝都へと戻って行った。

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