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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第十四章 魔導師キャフ、最恐兵器を手に入れる
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第207話 目的地

前回のあらすじ


知らない間に、クズな冒険者が増えていた。

「……で、ミリナちゃん、あの子豚さん達の魔法は解けるニャンか?」


 道中、ラドルが尋ねる。

 他の3人も気になっていたようで、ミリナに注目が集まった。


「え、何のこと?」


 ミリナは思いっきりすっとぼけた。


「お前、まさか解除魔法を身につけてないとか? あいつらの親がいたら下手すると訴えられるぞ!」


 ミリナの言葉を聞いて、キャフも慌てる。キャフはミリナの師匠だから、責任問題に発展し得るからだ。戦争などの超法規的状態であるならいざ知らず、冒険者に魔法をかけるのはアルジェオンの刑法に引っかかる。ただ素性の分からない冒険者が多いので、うやむやにされそうな気もする。こればかりは相手次第としか言えない。


「え、マジですか?」

 

 ミリナは、そこまで大ごとになるとは思っていなかったようで、ビックリした顔をしている。


「そりゃ人権侵害だからな。今は豚権侵害だが。人間相手に魔法を使うなって、法律学んでるだろ?」

「え〜 はいはい、分かりましたよ。この旅から帰って、気が向いてモドナに戻ってきたら、解除してあげますよ」


 キャフに諭されても、ミリナは面倒臭そうな顔をしていた。

 絶対に、その気がなさそうだ。


「私、自分に自信がなかったから学校で友達少なかったし、シドム君達にこき使われていたけど、ああ言う悪どいことは誰からもされなかったんですよね。だから余計に許せなかったんです」

「気持ちは分かるけどな……」


 ちなみに後日談になるが、帰国後ミリナが再びモドナの冒険者ギルドに立ち寄ったという記録は、ない。



 魔素を極力消費しないために、しばらくは徒歩で移動する。馬車は使えないから背負える荷袋が重い。今回は裏ルートでクムール貨幣を持ってきたので、生活品は現地調達にする予定だ。


 しばらくすると、鬱蒼とした森の中からバキバキと音がした。一匹どころではない。キャフ達は防御のフォーメーションを取り、モンスターの出現を待ち構える。


「あ、凶暴猿人(キラーコング)だニャ!」


 それは以前、手こずったモンスターだ。しかも十匹ほどで取り囲んでくる。相変わらず凶暴な顔で目は赤くギラギラしていた。逃げ場はないとあいつらは思っているのだろう。たがキャフ達は余裕だった。


「お前、できるか?」

「はいですニャ! (スーパー・)火炎(ファイアボール)!」


 ギャァアアア!!!!!


 懐かしの凶暴猿人(キラーコング)をラドルが一発で仕留める。

 ラドルが放った火力の凄まじさに、残りは怯えた顔で慌てて逃げて行った。


 先々でも同じような結果であった。ランクを超越した5人は、モンスターから見たら悪魔のような存在に成り上がっていた。あまりの強さにモンスター達も恐怖を覚え、逃げ去っていく。モンスター達で情報が出回ったのか、立ち向かってくるモンスターは徐々に減っていった。


 キャフ達は悠々と先を急いだ。夜も問題なく過ごす。翌朝からも時々浮遊魔法を使い、チグリットの川岸まで以前と倍以上の速さで到着した。


「あっという間でしたね」

「ここが目的じゃねえからな」

「あ、幽霊砦(ゴースト・フォート)があるニャ!」


 遠くに、これも以前のクエストの目標だった幽霊砦(ゴースト・フォート)が見える。あの魔導師との戦いの後は軍が管理しているようで、てっぺんには第七師団の旗がはためいていた。


「懐かしいなあ。あの後は軍の詰所になったから、手入れも行き届いてるぜ」

「あそこで泊まれるか?」

「どうだろう? 軍に情報が来てなければ良いかも知んねえけど」


 ここまでの道のりで、キャフ達はアルジェオン軍と遭遇しなかった。経緯は不明だが、クムール帝国と講和を結んだのでかなり警備が手薄になったのかも知れない。ここの管理まで手が届かないほど、人手が足りない可能性もある。


「うーん、止めておくか。やはりリスクが大きい」


 キャフ達を知る誰かがリル皇子に知らせでもしたら、キャフ達の目論見が外れる。ここで幽霊砦(ゴースト・フォート)に立ち寄るリスクは危険すぎた。


「じゃあ、どこで泊まるニャ?」

「そういえば、あいつまだいるかな?」

「あいつ?」

「ラスト・スライムさ。畜魔石(チャージ・ストーン)を純化するのに良いからな」


 旅の当初に重宝した畜魔石(チャージ・ストーン)であるものの、キャフが魔法を使える現在、用途は減っている。だが簡単なトラップや術式回路を組み込んで自動で動く機械の動力として、使い勝手は良い。


 キャフ達は浮遊魔法を使い、見覚えのある川を見つけ降り立った。

 橋も以前のままだが、ラスト・スライムはいなかった。


「クムールが回収したかな?」

「その可能性はあるな」


 河岸に降りてみると、畜魔石(チャージ・ストーン)も小さなものしかない。


「多分、《雷の方舟》に使ってんだろう。仕方ない」

「相手もいることだし、上手くいかない事もあるな」


 キャフ達は気を取り直し、ここで一夜を明かすことにした。

 夜になっても、幽霊砦(ゴースト・フォート)は明かりが点かない。

 本当に、無人なのかもしれない。

 だが念のため火は目立たないようにし、周囲に通魔石(コミュ・ストーン)レーダーも張り巡らせた。


「で、師匠、目的地はどこニャ?」


 夕食の途中、ラドルが問いかけた。


「そうだぞ、そろそろ教えてくれ」

「まあ落ち着け。分かっているだろうが、オレ達の目的は《雷の方舟》の破壊だ」

「ああ、知ってるさ。でも手がかりねえだろ?」

「キアナ、確かにお前は行ってないから知らないが、一つだけ手がかりはあるんだ」

「? 何だ?」

「《未来の子供》達さ」

「マルア達の学校ですか?」

「ああ。もちろん、そこに《雷の方舟》は無いだろう。だがあの子達の魔素を畜魔石(チャージ・ストーン)に吸い取って、《雷の方舟》まで持って行く時があるはずだ。それを追跡する」

「あの子達、それまで解放されないんですね……」


 ミリナが、複雑な表情で呟いた。一刻も早く解放させたいのは、キャフも同じ気持ちだ。しかしクムールの内情が分からない今の状況では、どうしようもなかった。


「もちろん、成功の暁にはあの子達も助けるさ。だが簡単に物事は運ばない。そこは理解してくれ」

「そうですね」

「分かったニャ」

「了解だ」

「頼むぞ」


 数日、保存食を作ったり周りの偵察などをして、時間が過ぎた。

 キャフの話では、侵入しやすいように霧のでる日を待っているらしい。


 そして、ある日。朝靄が立ち込めていた。絶好の侵入日和だ。


「よし、行くぞ」


 キャフは浮遊魔法を使い、チグリット河を超えて行った。

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