第205話 復興中のモドナ
前回のあらすじ
サローヌに立ち寄って、リラックス。
「本当にクムール帝国に行くのか?」
モドナに向かうサローヌ軍馬車の中で、フィカはキャフに聞いた。
特別待遇をしてもらい、馬車の客車には5人しかいない。
「ああ、そのつもりだが。何故だ?」
「またルーラ女王に迷惑がかかるんじゃないのか?」
「あ、そうかもな……」
「師匠、もしかして気付いてなかったニャ?」
「いや、考えてはいたさ」
キャフもその点は分かっていた。
以前の講和条件に、自分の無断越境が含まれていたのだ。
今回の作戦が失敗したらこじれる可能性は十分にある。
「ただな、今更取り繕っていても仕方ねえだろ?」
キャフは、現状を認識していた。
アルジェオン国内をまとめて反撃するのは、非常に厳しい。
第一、今のキャフに国民全体に訴えかける術は無い。
仮にルーラ女王を説得したとして、そもそもクムールに抗う気のないリル皇子一派を懐柔するのは、努力するだけ無駄だろう。彼らが権力の中枢を握った今、できることは少ない。そうすると隠密に乗り込んで使命を果たす方が、チャンスはある。
「師匠、開き直ってるニャ」
「中年の開き直りって、ちょっと怖いんですけど。犯罪に走らないでくださいね」
「変な物、持っていくなよ」
「誰がやるか!」
キレ気味に言うキャフを4人は笑っていた。
「……お前達を巻き込んで悪いと思ってる。オレ達が二十年前にドラゴン征伐をしなければ、こうはならなかったかも知れないからな」
「何言ってんですか? あの腹黒BBAは、別な人を捕まえて同じこと絶対やりますよ」
「……そうかな」
「当たり前ですニャ」
「ここまで来たら、一蓮托生だ。気にすんな」
シェスカさんを悪し様に言われると、それはそれで複雑な気分になる。
だが4人ともやる気だと分かり、キャフは安心した。
「そう言えばお前ら、《雷の方舟》は今どこにあると思う?」
話のついでに、キャフは気になることを4人に伝えた。
「あ、……」
4人は顔を見合わせ、キャフの意図を理解する。
「ジジェスの映像では、何処にも映っていなかった。あんなデカいのに、だ。まずはあれを見つけるのが先決だ。向こうが教えてくれる訳もないし、オレ達だけで探し出すしかないだろう」
「確かにそうだな」
「おびき出すとか、できれば良いんですけどニャ……」
「キャフ殿、もう直ぐ到着です」
御者が声をかけてきた。
窓はないので、後部から外の景色を見た。
「やっぱり、綺麗だニャ〜」
「あんな事が無ければ、もっと楽しんで来れたのにな」
「思ったよりは、復興しているな」
馬車は、サローヌ部隊の駐屯地に到着する。
街外れの広場を改装して、簡易型の建物が建てられていた。
数ヶ月経ち、モドナも混乱が少しは収まったようだ。
それでも、未だ真っ黒に焦げた焼け跡が残っている。
沢山の瓦礫は撤去中だし、家もあちこちが普請中だ。
だが道路は整備され、何より人々に活気が戻っている。
「私達は、どうするんだ?」
「まずはサローヌ軍の一員として警備活動を手伝おう。その間に冒険者ギルド辺りを探索し、行く機会を伺う」
「でもあの辺、かなり崩れたんじゃないのか?」
「そうだな、まずは行ってみないと分からんな」
「了解だ」
復興が進んだとはいっても、未だ観光業は難しい。
人々もまずは土木工事に精を出し、全てはそこからといった感じだ。
日差しも強く今の時期なら海で遊びたいだろうが、皆一所懸命に働いている。
今回、キャフ達5人はサローヌ自治軍属になる。ここには第七師団を始め、他の軍もモドナに駐留していた。犯罪の取締りは勿論、孤児たちや怪我人たちの世話、炊き出しなど、手伝うことは山ほどある。病院や避難所にも顔を出し、精力的に活動した。
数日が経った。
「そろそろ、冒険者ギルドの方まで行ってくるか」
「了解だ」
サローヌの部隊長に相談したら、直ぐ快諾してもらえた。
簡単な冒険者スタイルで、武器は最小限にして出かける。
東側まで馬車もまだ通っておらず、徒歩での移動となった。
「やっぱりこの辺は、以前と全く違いますね」
「あれが地上に出てきた場所だからな。地形が変わってて当然だ」
浜辺に向けて、大きくえぐられた窪みができていた。
傷跡のようにまだ痕跡が残っている。
冒険者ギルドも崩れ落ちていたが一部改築され、人の出入りもあった。
モンスター生息域を分け隔てる壁も、つぎはぎ状態で存在している。
「冒険者ギルド、やってるのかニャ?」
「どうも、そのようだな」
試しに中に入ってみると、受付嬢がいた。
相変わらずタバコ臭く、前より少ないが冒険者らしき面々がいる。
キャフ達の顔をチラッと見るものの、誰も興味がなさそうだった。
「いらっしゃいませ」
「冒険者ギルドはやっているのか?」
「はい。以前とは規模が違いますが魔石の換金はできるので、モンスター生息域に向かう冒険者はいますよ」
「そうなのか。何か資格はあるのか?」
「いえ、ここに名前を書いていただければ誰でもできます。この前の爆発で戸籍証明も出来なくなったから、偽名も多いんですけどね」
「まあ元々そんな奴らばっかりだけどな」
そうなると、やる事は単純になる。
帰り道、5人で今後の相談をした。
「荷物はあまり持っていけないな。怪しまれる」
「船はどうする?」
「いや、今回は必要ないだろう。オレとミリナの浮遊魔法で何とかなる」
「一度行っているから、地理も分かりますしね」
「じゃあ、明日行くか」
帰宅後サローヌの部隊長に経緯を説明し、承諾を得る。
翌日、今度はフル装備で再び冒険者ギルドに向かった。
「いらっしゃいませ」
「冒険者として、モンスター生息域に行きたいんだが」
「分かりました。こちらに記入をして下さい。今は地図も当てにならないし、ランク測定機もありません。お客様のランクがどれぐらいか存じませんが、全て自己責任でお願いします」
「ああ、分かった」
下手に高ランクだとバレて、他の冒険者から注目されるよりマシだ。
「ご記入ありがとうございました。では行ってらっしゃいませ」
こうしてキャフ達は、久しぶりにモンスター生息域へと向かった。




