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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第十四章 魔導師キャフ、最恐兵器を手に入れる
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第204話 サローヌからモドナへ

前回のあらすじ


やっと戻ってきた!

 万が一を考え、夜、できるだけ人目につかないように入城する。

 地下の一室でギムは待っていた。5人はテーブルに着く。


「久しぶりだな。ああ、ミリナさんもいるのか」

「お久しぶりです、ギム様」

「はじめまして、キアナです。グレッサ少将の娘です」

「え、第三師団の? そうなのか。こちらも度々世話になっている。よろしく伝えてくれ」

「キアナちゃんのお父さん、有名人なんだニャ」

「ま、自分には関係ないっすよ」


 キアナの父の名前は初めて聞いたが、普段文句ばかり言う相手の名前をこんな場面で使うとは、意外にちゃっかりしているなとキャフ達は思った。


「待っててくれ、今5人分用意するから」


 ギムは執事に命ずると、5人の為に豪華な料理が運ばれてきた。

 手の込んだ料理は本当に久しぶりで、5人は遠慮せずに食べまくる。


 既に夕食を摂り終えているギムは、チーズとワインを嗜む。


 常に敵を意識していたので、気が置けない環境も久しぶりだ。



「それで、世界樹には行ってきたのか?」


 ワインを飲みながら、ギムはキャフに尋ねる。


「ああ、それどころか世界樹のもっと上まで行ってきたぞ」

「もっと上?」


 ギムは、想像がつかないようだった。


「宇宙さ。別世界があってエルフの王がいたよ」

「へえ、そんなところがあったのか」

「サムエルさんは知ってたようだけどな」


 キャフに言われて、ギムも何かを思い出したようだ。


「確かにあいつ、一人でエルフ達と喋った時のことは奥歯に物が挟まった物言いだったな。今から思うとシェスカはそれも込みで、サムエルを狙ったのかもな」

「そうだな」


 もしサムエルが生きていれば、ジジェス達に助けを求めただろう。

 それを防ぐ意図もあったなら、サムエルの死は必然だったと言える。


「で、最近のアルジェオンはどうなってるんだ?」


 単刀直入に、キャフは聞いた。

 ギムの酒は進み、すでに五杯くらい飲んでいる。


「かなり大変だ。マドレーとタージェが頑張っていたが、この前の選挙でタージェが負けて、今はロドールオ自治州のハリョダが評議員長をしている。今じゃ2人は、クムールと反対側の西の国境警備をやらされてるよ。タージェの治める地だから問題はないが、体のいい厄介払いさ」

「ハリョダ? 誰だ? そいつは?」


 ロドールオ自治州は、アルジェオン北西部にある辺境の地だ。小さな貿易港がある以外に何の産業もない。そんな辺鄙な自治州長が評議員長を務めるなど、前代未聞であった。


「俺も面識は殆どなかった。リル第三皇子の差金さ。担ぐ神輿は軽い方が良いって言うじゃないか。昔の自◯党総裁みたいなもんよ。おかげで物事は全て、彼らの都合の良いように回っている」

「ルーラ女王は?」

「やっぱり気になるか。安心しろ、まだ退位はしていない。だが政治には全く口出ししなくなったな。本当に象徴的な存在でしかない」

「そうか……」


 予想されたこととは言え、やはり状況は悪い。

 これでは下手にキャフ達が表舞台に出たら、即座に潰されるだろう。


「しかし何だな。クムールの製品が最近出回り始めたけど、酷えな。雑な作りですぐ壊れる。宣伝ばっかりやたらとしてるが、金の無駄遣いだ。あいつら自分らの国を日出づる国とか言っていばってやがるが、所詮、俺達より東にいるだけじゃねえか。どうも胡散臭くて、好きになれねえ。サローヌ自治州内では、流通を止めさせたよ」


 酒の酔いも回ったのか、ギムは愚痴が多くなってきた。


「そうなのか。元々技術もないからな。それより、あっちには《新大陸》から兵が来ている」

「本当か?」

「ああ、間違いない。新兵器も投入されている。さっき言った宇宙で見てきたんだ」

「ヤバいな。あのハグータ島を拠点にしてまた攻めてくるだろうな。サローヌの諜報部隊に偵察させているが、南◯諸島みたいにどんどん埋め立てて、軍港も作ろうとしているようだ」

「止める奴はいないのか?」

「いると思うか? 俺も議会で証言したが、捏造だと相手にされなかったんだ。あいつら誰も興味を持たねえ」


 それは予想されたことであった。

 だが手立てなく、ギムも忸怩たる思いのようだ。


「表立った宣伝は『クムール最高! 仲良くしましょう!』、だからな。マスコミ関係も、かなりクムールから金もらってるらしい。急に羽振りが良くなった奴も、一人や二人どころじゃ無いからな」

「そうやって、侵食されていくんだな」


 多勢に無勢で、今は耐えるしかない。

 久しぶりの食事なのに会話の内容が重く、少し場の空気も沈む。


「で、どうすんだ? これから、イデュワに戻るのか?」

「いや、このまま5人でクムールに潜入する」

「マジですか! 初めて聞きましたニャ」


 ラドルを始め、聞いた4人はやや驚きの表情だった。


「そりゃ、初めて言ったからな。まだ混乱しているだろうから、モドナ経由が良いだろう。冒険者ギルド跡を通って行けるはずだ」


 この計画は、キャフの頭の中で決まっていた。

 本来はマドレーやルーラ女王を助け、内側から対抗勢力を作りたい。

 だが予想通り敵は一筋縄ではいかない。


 そうすると相手に悟られず、早く攻める方が良い。


「クムールに行ってどうするんだ?」

「お前を信用しているが、どこで何を聞かれているか、分からんからな。そこは秘密にしておくよ。とにかく、今の状態を終わらせるには、こちらから行くしかない」

「珍しいな、お前にしては」


 ギムは、受け身の行動が多いキャフを知っているから、意外そうな顔をした。


「仕方ねえ」


 今は時間を費やしても状況が好転するわけではない。

 キャフも覚悟を決めていた。


「分かった、装備とか必要がものがあったら何でも言ってくれ。5人の部屋も用意してある。準備が整うまでずっと居ていいぞ」

「助かる、ありがとう」


 こうして夕食会も終わり、それぞれの部屋に案内されて久々の柔らかいベッドで安眠した。



 翌日から準備を始める。

 武器はエルフにパワーアップしてもらったから、問題はない。

 だがクムール人になり切るための装備や情報収集に手間取った。

 幸いサローヌの諜報部隊の力を借り、現地の言葉や習慣を学ぶ。


 そんなある日、ミリナがキャフの部屋に入ってきた。


「キャフ師、お忙しいところすいません。折り入って相談があるのですが……」


 やや緊張気味な顔をしている。

 最近はよく軽口を叩くミリナにしては、珍しかった。


「何だ?」

「一度フミ村に行きたいんです。また何時になるのか、分からないので……」


 言われるとその通りだ。

 キャフと違い、故郷があるミリナが帰りたいと思うのは当然だろう。


「ああ、そんな事か。良いぞ、行ってこい。また狼を呼び出すのか?」

「ありがとうございます! いえ、もう浮遊魔法で行ってこれます。本来なら皆さんにも来て欲しいのですが……」

「いや、この状況だ、1人で行ってこい」

「すいません。じゃあ二、三日したら帰ってきます」


 そう言ってミリナは浮遊魔法を使い、フミ村へと翔んで行った。


 数日後、帰ってきたミリナは少し落ち着いたようだ。「ありがとうございました。皆様へのお土産です」と言って、七色に輝く石が入ったペンダントを4人に渡した。


「綺麗だニャ」

「七色沼の石を使った、ペンダントです。私達の村でお守りにしてるんです」

「ありがとう」


 そして、翌日。


「じゃあ、そろそろ行くか」


 ちょうどサローヌ自治軍も、モドナの警備を担当している。

 カモフラージュのためにサローヌ軍服に着替え、軍と一緒にモドナへ向かった。

 ベージュを基調とした簡素な軍服だが、動きやすい。 


 季節は夏になろうとしていた

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