第203話 無人島
前回のあらすじ
あやしげな腕輪をもらい、やっと帰れそうだ!
「お魚、釣れましたよ〜」
「はニャ、今日も大漁だニャ! 焼き魚が一杯できるニャ!」
「山の幸も沢山採ってきたぞ」
「フィカさん、キアナさん、ありがとうですニャ♡」
「キャフ師も夕飯楽しみにしてくださいね」
「ああ、すまないな、まだ歩けなくて」
「いいって事よ、夕飯できるまで横になってな」
この島での生活も三週間が過ぎた。
此処がどこであるか、まだ分からない。
樹木を見る限り、アルジェオンと似た緯度のようである。
既に冬は去り、もう夏の訪れを感じさせる陽気だ。
海の真ん中に着水して漂流した後、宇宙船はこの浜辺に打ち上げられた。
上陸当初、筋力が痩せ細った5人は立ち上がることすら無理だった。
一週間後、宇宙船にあった器具を使いフィカとキアナが外に出る。
ついでラドルにミリナも、後に続く。
島ということは、ミリナが空中浮遊して確認した。
だがキャフは歳のせいか回復が遅く、立てたのは二週間目だ。
宇宙船の中にはご丁寧に、水着やサバイバルキットもあった。
ジジェスは、こうなることを予期していたのだろう。
おかげで4人は、無人島暮らしを満喫している。
「いっただきま〜す!」
「美味しいですニャ!」
大きな月の明かりに照らされた夜空の下、夕食が始まる。
満月に近い十三夜月だ。夜でも出歩けるほど明るい。
ザザァアッとひっきりなしに寄せては返す波打ちの音が、心を和らげた。
塩でまぶして焼いた魚の串焼きを、ムシャムシャと美味しそうに食べる。
残念ながら水着でいられるほど未だ夜は暑くない。
キャフも、何とか側に来て一緒に食べた。
リハビリ装置を使い、だいぶ筋力は元に戻ったようだ。
着水直後は針金のように細かった足も、やっと見られる姿になった。
「どうする? オレもあと数日で動けそうだから、そろそろ行くか?」
キャフが4人に提案する。
「魔法は大丈夫なんですか? キャフ師?」
「簡単な魔法はできそうだが、魔素が回復し切れてねえな」
試した限り、浮遊魔法までは使えそうにない。
「私の浮遊魔法じゃ他の島にすら辿り着けなかったんですよ。そうすると、もう少し待った方が良いんじゃないですか?」
浮遊魔法を使ったミリナの偵察でも、大陸らしき地は見当たらなかった。島は思ったより広く、海岸沿いに一周するのも数日かかりそうだ。島の中央には険しい山がそびえ立っている。残念ながら周辺には他の島すらなく、アルジェオンの影は見えない。
そうするとキャフの浮遊魔法が使えても、アルジェオンに戻れるのか不安であった。
「海賊船でも近くに来ないかニャ〜」
「お前、奴隷にされたらどうすんだ?」
「あ、そうですニャ」
船が通る可能性はもちろん考えていた。
だが今日に至るまで、一隻も影が見えない。
少なくともこの辺を通る定期航路は無いのだろう。
「とりあえず食うか」
まだ食事は残っているので、再び食べ始める。
山菜の煮込みスープも美味しい。
「あそこに《宙の星船》があるんだよな〜」
空に浮かぶ大きな月を見上げて、キアナがしみじみと言った。
キアナの言う通り、月の手前に《宙の星船》があるはずだ。
だが地上からは全く見えない。
「そうですね。私達、本当にあんな所まで行ったのか今でも信じられません」
「まあな。でも私達の乗ってきた船はそこにあるぞ」
フィカが言うように、宇宙船は岸辺に打ち捨てられている。
4人は別の寝床を確保したが、キャフは未だこの船で寝泊りしていた。
「世の中、不思議なことは一杯あるもんだな」
「ところで師匠の腕輪、動かし方は分かったニャンか?」
ラドルがキャフに聞いてきた。
「いや、さっぱりだ。術式をみようにも開けることすら出来ないんだ」
キャフの知識と技術を持ってさえも限界であった。
「大丈夫か? それ偽物じゃねえのか?」
キアナが、からかい半分に言う。
「さあな。ただ、あいつがそんないい加減な奴とは思えん。何らかの力はあるのだろう。それにこの力を借りずに《雷の方舟》を潰せれば、それに越したことはない」
「じゃあ、何であんなにお願いしたんだよ? 自分達もノリでやっちまったけどさ」
キャフの説明が意外で、キアナは尋ねた。
「気持ち、かな。実際、今のオレ達だけじゃあれは倒せない。だから自分よりも上の存在に認められて、やる気を出したかったんだ。オレも何かにすがりたかったのさ。この腕輪をもらえたし、良しとしよう」
「ふうん」
波の音は、相変わらず優しかった。
「そういえば山で滝の音がしたぞ。みんなで探してみないか?」
フィカが話題を変えた。
「私も見ました。でも少し登るし森が深いから、大変ですよ」
「良いじゃん、面白そうじゃねえか。水も欲しいし」
「オレも行きたいな」
「じゃあ師匠のリハビリがてら、お出かけニャ!」
というわけで、翌日はみなで山に出かけることとなった。
フィカとキアナが切り開いたおかげで、森の中にも道が伸びていた。
浜辺は日差しが強いから、森林浴が気持ちいい。
キャフが一番後ろだが、4人も彼の歩く速さに合わせている。
「やっぱり、モンスターはいないですニャ」
「ああ、そうだな。普通の動物は小さいから、肉が少なくて困るけどな」
「作った道は、ここまでなんだ」
キアナの言う通り、道はそこで途切れていた。
ゴゴゴォーー
まだ見えないが、言う通り滝から落ちる水音がした。
距離はもう少しありそうだが、轟音はここからでも分かる。
フィカとキアナが先頭に立ち、草木を刈り取り道をつくった。
刈り取られたゴミを捨てるのは、ミリナとラドルの役目だ。
どんどん道を伸ばしていくと、谷底に川が現れる。
これ幸いと上流に沿って行き、やっとお目当ての滝にぶつかった。
百メートル以上から瀑布として流れ落ちている。
水しぶきがマイナスイオンとなって、5人に降り注ぐ。
「おお、いい景色だな」
「あそこの岩で、お昼にしましょうか?」
「いいですニャ」
5人は滝壺の岩場で、持ってきた昼食をとり始める。
鳥達のさえずり声があちこちから聞こえた。
「はあ、食った食った。じゃ、滝壺に飛び込んで泳ごっか?」
4人は森に入って着替え始めた。
キャフはそのまま、ゴロンと横になっている。
水着になった4人は、飛び込んだり泳いだりしてはしゃいでいた。
キャフは相変わらず、のんびりと寝転んでいる。
(グラファ聖の修行場も、こんなだったな……)
キャフにとって、どこか懐かしい風景だった。
昔を思い出しながら何時しかウトウトし始め、気付いたら寝ていた。
……
「……おい、起きろ。帰るぞ?」
「は、はい!」
フィカの声に咄嗟に声を上げて、目を覚ます。
昔のトラウマが蘇ったが、今回はイタズラもされていない。
(ふう、)
4人は帰る用意をし始めた。もう日が沈もうとしている。
「楽しかったな、また来るか」
「そうそう、滝の裏にアール神の小さな人形がありましたニャ」
「じゃあ昔は人がいたのか」
「でも村はなさそうだから、誰か修行にでも来てたのでしょうか?」
「そうかもな」
いずれにせよ、思ったよりアルジェオンから離れてはいないようだ。
「オレも運動しがてらここに来て、修行するか」
「良いんじゃないか。まだ体がしんどいなら連れてきてやるぞ」
「ああ、すまない、フィカ。助かる」
魔素の回復のためにも、ちょうど最適な場所に思えた。
それからは、この滝での瞑想や修行がキャフの日課になった。
そして更に一週間ほど経ち、ようやくキャフも全快となる。
「よし、これなら大丈夫だろう。浮遊魔法やってみるぞ」
「方角は分かるのか?」
「この時期の雲の流れと星の位置を考えたら、こっちにアルジェオンがあるはずだ。よし、できた。乗ってくれ」
キャフが魔法で用意した雲は、5人乗り以上の広さで快適だった。
「さすが師匠だニャ」
「これくらい、ちょろいもんだ」
「おお〜 さすがイキり師匠、復活ですね」
「良いから、しっかり掴まってろ」
流星のような速さでキャフの雲は飛び、やがて大陸が見え始める。
「思ったよりあっという間でしたね〜」
「あの街はモドナだな。まだ復興中だが、やっと街並みが見られるくらいには回復してるな」
「どこに着陸するんですか?」
「まずはサローヌに行こうと思う。ギムなら匿ってくれるだろう」
モドナを超えサローヌに近づいたとき、キャフは通魔石で連絡をとった。
『ギム、聞こえるか?』
『キャフか? 生きていたのか? どこにいるんだ?』
『サローヌ近くの上空だ。そっちに邪魔しても良いか?』
『もちろんだ。俺も、話をしたかった』
『もう少しで着くから、待っててくれ』
『分かった』
「良かったですニャ」
「ああ、これからは忙しくなるぞ」
やがて、サローヌの城が見えてきた。




