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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第十四章 魔導師キャフ、最恐兵器を手に入れる
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第199話 リサイタル

前回のあらすじ


星船にいるモンスターは、優しい奴ばかり。

 それは巨大で白く輝き、ペルシャやインドにあった宮殿を思わせる。

 敷地面積は、王都イデュワが誇る⦅三羽の白鳥⦆を合わせた分と同じくらいか。


 森を抜けると、門や塀もなく庭園にでた。そこでは庭番らしきオークやゴブリン達が、植木の剪定をしている。作業を真面目にこなし、みな仲良さそうに笑顔が溢れ、余裕があった。


 彼らの一人と目があったとき、キャフ達は戦闘態勢に移り警戒する。だが彼らの澄んだ瞳は、キャフ達を攻撃するなど微塵も思っていないようだ。むしろ客人の訪問を喜び、どのモンスターも微笑みを返してくる。


 ゴフゴフと何か喋っているが、言葉は通じない。

 ただ敵意のないことだけは、5人とも理解した。


「何か気味悪いな」


 キアナがボソっと言う。


「油断すんなよ」


 陽気なモンスターがキャフ達に何か話しかけてくるが、聞き取れない。表情からも気の良いおじさんなのか詐欺師であるのか、外国旅行で出会う地元人のように判断がつかない。


 5人はやや険しい表情をしつつモンスター達から離れ、宮殿を目指す。


 庭園の中央には噴水から潤沢な水が流れ出て、池を潤していた。水面を覗き込むと、大小様々な魚が遊泳している。噴水を取り囲む青々とした芝生はさっきの花畑のように綺麗で、寝転んだり遊んだりするのに丁度良さそうだ。


 だがキャフ達はこれ以上時間を浪費する訳にいかなかった。あの宮殿に誰が居るのか分からないが、手がかりを得るため足取りも早くなる。かなり歩いてようやく到着する。


 宮殿の入り口に衛兵はおらず、扉は簡単に開いた。


「中に入るぞ」


 キャフが先頭に立って、宮殿内に入った。

 みな、周りをキョロキョロ見回して警戒する。


 内部も広く天井がとても高い。中央には威厳あるエルフの彫刻があった。昔の王だろうか。それをはじめ廊下に飾られた絵画や骨董品は、レスタノイア城より高価な品々のようだ。文化度の高さがうかがえる。


「こんにちは〜」

「誰か、いないかニャ?」

「お〜い?」


 呼びかけてみるが、答える声は無い。5人の足音だけが透明に響いた。


「無人か?」

「どうだろうな? とにかく探索しよう」


 5人は手当たり次第に歩いて内部を調べる。

 二階の窓から見渡すと、奥行きもかなりあるようだ。


 どの部屋も開きっぱなしだけれど、誰とも遭遇しない。


「何だか緩いな」

「田舎だとこんなもんだろう」

「本当に誰も居ないんじゃないのか? さっきのオーク達は趣味でやってるとか」


 だが廊下は塵一つなく、十分に手入れは行き届いている。

 暇つぶしで彼らがしているとはとても思えない。


「誰が住んでいるのかな?」

「きっとエルフの王様ですニャ♡ 玄関にある彫刻みたいなイケメンですニャ」

「確かに、あれならカッコ良いですね」


 襲撃される気配はないが、警戒するに越したことはない。

 慎重に奥へと進んでいく。


 

「あ、何か音がするニャ?」


 耳ざといラドルが何かに気付いた。導かれるままに進むと中庭に出る。

 中庭と言っても、代々木公園ぐらいのとてつもなく広さだ。


 ラドルの導きに従って進むと、人だかりに遭遇した。


「誰かいるな」

「この音、ピアノだな。それもステインウェイだ」


 キアナが、言う。


「メーカーまで分かるんですか?」

「だって小さい頃さんざんやらされたんだぜ。ほら、自分の家、教育一家だったって言ったろ?」

「コンクールとかで入賞したのか?」

「何言ってるんですか、フィカ姐さん。キム○クの娘みたいにゴリ押しなんて出来ないっすよ。それにあんな習い事より喧嘩して遊んでる方が、性に合ってましたから」

「想像通りですね」

「うるせえな、ミリナ」


「とにかく行こう」

「ああ」


 行き着いた先は野外コンサートの舞台だった。

 ステージには一台のピアノがあり、一人のエルフが曲を奏でている。


 そしてその周りに居るのは人間ではなくモンスター達だった。

 それぞれが思い思いに座り、静かに聞いている。

 ゴブリンやオークはもちろん、先ほど遭遇したモンスター達もいる。

 みな楽しそうだ。


 キャフ達は、初めて見る不思議な光景に驚いていた。

 芸術を愛でるモンスター達に初めて会ったからだ。


 高度な文明を持つエルフは別にして、他のモンスター達がそんな心を持ち合わせるとは想像したことも無かった。


「これ知ってる。『歓喜の歌』だ」


 新しく弾き始めたのは、キアナもなじみの曲らしい。

 幾つかのフレーズは、キャフ達も聞き覚えがある。


 軽やかなリズムに合わせ、モンスター達も好きなように歌う。

 穏やかな午後のひとときが流れていった。



 曲が終わると、モンスター達は拍手喝采でエルフに声を掛ける。

 演奏者のエルフは立ち上がり、にこやかに手を振っていた。


「やっぱり、イケメンなエルフですニャ♡」

「あれが、王様ですかね?」


 目もハートになりそうなラドルが言う通り、演奏者はエルフ特有の長く尖って耳を持ち顔も整っていた。性別は分かりづらいが、美男美女に属するのは間違いない。

 

 これでリサイタルも終わったのか、モンスター達と話をしていた演奏者はキャフ達を認めると近寄ってきた。


「歌はいいですね。歌は心を潤す、文化の極みです。そう感じませんか? キャフ君」

「え、何でオレを?」


 初対面のエルフに名前を呼ばれ、キャフは面食らった。


「デュダリオーンから連絡が来ています。この⦅星船⦆に来た人間はあなた達が初めてですよ」

「あんたが、ジジェス王なのか?」


 そのエルフは、少し微笑みながら、「いいえ」と答えた。


「私はデルダ。⦅星船⦆の管理者の一人です。それより困りましたね。ここからジジェスに会うには、あの海を渡る必要があります」


 デルダはそう言って、上を指差した。

 そこには、反対側の大地とこちらの大地を隔てる広い海が横たわっている。


「え、船なんか無いニャ」


 5人は焦るが、デルダは、落ち着いていた。


「そうですね。じゃあ、友達を呼びましょう」


 そう言ってデルダが何かを念じると、空に大きな影ができた。


 見上げると、白いドラゴンが悠然と空を翔んでいる。


 そしてその巨大な白いドラゴンは近づいてきて、キャフ達のいる中庭へと降り立った。

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