第197話 宙の星船
前回のあらすじ
何か変な乗り物に、乗せられた!
「ぐおぉおおおーーー!!!!」
「きゃぁああああ〜〜〜!!!!」
「うわぁああああ〜〜〜!!!!」
「ふニャニャぁああ〜〜〜!!!」
フィカ以外の4人は絶叫を上げながら、船は凄まじい勢いで飛んで行く。ワルフォロの警告通り、顔が潰れそうなくらい激しい圧力だ。この服じゃなければとても耐えられない。
空中分解するかと思うほど、船は上下左右にガタガタ揺れる。
振動はしばらく続いたが、やがて燃料が減り静かになり始めた。
突然ゴンと音がして、機体が軽くなった。
下に付いていた部分が外れたらしい。
窓ガラス越しに見える風景は、あっという間に紺色の空から漆黒の宇宙へと変遷する。星は輝きを一層増す。
船体も揺れが減って安定したからキャフたちも余裕が出て、通魔石で会話を始めた。
『エルフの王って、どんなかニャ?』
『きっとイケメンで背も高いんじゃないですか? なんてったってエルフの王ですから♡』
『あ、ミリナちゃん妄想全開だニャ』
『い、いや、それほどでも……じゅるり』
『でも、私もそう思うニャ♡』
『やっぱり! そうだよね〜』
『でもそんな奴に限って女に興味ないとかな』
『フィカさんも本の読みすぎですよ』
皇子につれなくされたから、こっちに興味が移ったらしい。
テンションが上がり始める2人であった。
『船ハ、無事軌道ニ乗リマシタ。ベルトヲ外シテモ結構デス。無重力ノ環境ヲオ楽シミ下サイ。空気ハアルカラ、ヘルメットヲ脱イデモ大丈夫デス』
急にスピーカから自動音声がした。
「どういうことかニャ?」
「とりあえず、言われた通りにやってみるか」
恐る恐るベルトを外すと、フワッと浮き上がった。
「うわ、宙に浮く!」
「そんな厨二病じゃあるまいし……ほんとニャ!!」
「へえ……イタ!!」
「すまん、キアナ」
「フィカ姐さん、これくらい大丈夫っす」
「師匠、変な格好だニャ!」
「しょうがねえだろ、こんなの初めてなんだ」
「キャフ師、みんな初めてですよ」
思い思いに無重力状態を堪能するが、一度動くと止まらないのであちこちにぶつかった。ただみんな恐る恐るの行動だから、船が壊れるほどの激しい衝撃はない。時間をかけて、手すりの使い方や動き方をマスターし始める。
「泳げる、泳げる〜」
「慣れると楽だなこれ」
やっとコツを掴んできた、その時だった。
「おい窓の外見てみろ! すげえぞ!」
キアナが叫ぶのでみな窓の方に向かう。
そこには今までの旅で見たどの景色よりも、感動的な光景があった。
「あれチグリット河か? そうするとあっちがアルジェオンで、そっちがクムール? 地図そっくりだな」
「他の大陸も見えますよ! 私達あんなところで生活してるんですね〜」
「こうやってみると、国境なんかどこにも描かれてないんだな……」
「海の方が広いんだニャ」
「あそこにあるの竜巻ですかね? 雲って、上から見ても面白い形してますね」
感慨にふけり、じっと眺めていた。
『マモナク、《宙ノ星船》ニ到着シマス。座席ニ座ッテベルトヲ締メテ下サイ』
再び自動音声のガイダンスが流れる。キャフたちは苦労しながらも、座席についた。
「《宙ノ星船》ってなんだ?」
「さあ」
キャフは、先ほどの言葉が引っかかっていた。
「いよいよ、エルフの王ですニャ。何をくれるのか楽しみですニャ〜」
「私は時間を止める能力が欲しいです」
「自分は過去に戻れる能力が良いな。それであのババアが子供の時に殺しちまおうぜ」
「いや、そうなったら、オレが魔導師になれねえ」
「じゃあ何が良いんだよ〜」
「念じた相手を、即死させるとか」
「チート過ぎますよ、キャフ師」
まるで観光気分のように4人がはしゃぐ。
キャフも、止めようとは思わなかった。
(どうせ何が出てくるか分かんねえんだ、対処のしようがねえ……)
念のため魔法杖は起動可能にしてある。
それくらいの準備が関の山であった。
やがて5人を載せた船は角度が水平に近く。
だがしばらくは、目的地らしき物体は見えてこなかった。
「もしかして……あれ?」
「そ、そうニャんか?」
2人に限らず眼前に迫る物体に5人は驚愕し、戦慄した。
とにかく大きいドーナツ型の船で、5人の乗る船がゴマ粒みたいだ。ちょうど月とキャフ達が住む星の間に位置し、目に見えるぐらいの速さで回転している。
止まっている中央部の下が開く。どうやら入り口らしい。
自動操縦で誘導されて、船は吸い込まれるように中へ入った。
「ふニャ〜 予想外すぎてびっくりニャ。こんな大きいのが空にあったんだニャ」
『《宙ノ星船》ニ、ヨウコソ。歓迎シマス』
入り口が閉まり、船が着地する。5人は警戒しながら様子を窺った。
『もう、大丈夫。扉を開けて。五ブロック先からは空気があるから、そこでこの服を脱いでも良いよ』
スピーカーから流れた声は、さっきまでの自動音声とは違う。人の声だ。
「もしかして、今のがエルフの王? イケボですニャ!」
「そうかも知れませんね!」
2人は少し舞い上がっているようだ。ベルトを外すと、今度は宙を舞うようなことはなかった。ただ重力は弱く、反動で浮きやすい。ゆっくり地に足つけながら出口らしき場所に向かうと、自動扉が開く。
その先は何もない小さな部屋だった。反対側に扉がある。同じように四つほど部屋を入っていくにつれ、地上と変わらぬ重力と空気の濃さになってきた。最後の部屋には更衣室があったので服を脱ぎ、いつもの衣装に着替える。
初夏みたいに快適な暑さなので軽装にした。
準備を終えてワルフォロがくれた食糧も持ち、いよいよ最後の扉を開ける。
「うわぁああ!!」
「私達、どこに来たんですか?」
「ひゃっほう! 楽しそうだニャ!!」
「おいキャフ、これは何なんだ?」
「オレに聞くな」
そこには、まるでアルジェオンのように豊かな自然が広がっていた。




