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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第十四章 魔導師キャフ、最恐兵器を手に入れる
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第196話 世界樹上層部

前回のあらすじ


どんな手を使っても、ジジェスとやらに会いに行くぜ!

「さみぃ! 直ぐ着くんじゃ無かったのかよぉ〜」


 ハンカチで鼻水を拭きながら先頭のキアナが愚痴る。

 防寒着を身に付けているが想定以上の寒さだ。


「仕方ないだろう、ここしか道はないんだ」


 彼女の後ろに続くキャフがなだめた。


「あいつのもう少しって、どんだけだよ〜」


 デュダリオーンの村から再び世界樹を登り始めたキャフ達だが、目的地は予想以上に遠かった。数日旅を続けても、未だそれらしき場所にたどり着けていない。


 空気が薄くなり、息切れし始め、足取りも重くなる。デュダリオーンから譲り受けた荷物は大きさの割に軽いものの、大変なことには変わりない。


 一昨日から雲の中に入り視界も悪くなっている。


 既に樹木はなく、世界樹を覆うのは高山植物と少しの岩場や積雪だけだ。寒さで手もかじかみ痺れる。滑落しないよう足下を踏み締め、ゆっくりと慎重に登り続けた。この辺には住めないのか、モンスターの来襲は無い。


 ここではキアナの装備と能力が役に立っている。

 軍の訓練で培った経験のおかげだ


「あんな軍隊でも役に立つんだな」


 キアナは自嘲気味に言うが、ロープの結び方一つとっても安定感が違う。

 しんがりは、これも捜索隊で経験が豊富なフィカが務めていた。


(世界樹の上はこんなになってたのか……)


 以前は来なかった景色を拝めて、キャフは感動していた。

 だが美景に目を奪われると、ちょっとの油断も命取りになる。

 5人とも集中して旅を続けた。


「そろそろ休憩するか」


 昼時、キャフの指示で休むことになった。


 厚い雲は少し前に抜けている。

 雲海たなびく眼下の絶景は素晴らしいの一言だ。

 宇宙と混じり合った濃い藍色の空も初めて見る。

 これだけでも、来た甲斐があると言えた。


「いやー、綺麗ですね〜 皇子の住む山が小さく見えますよ」

「あいつの住処はもう少し下だけどな。通魔石(コミュ・ストーン)で繋がるかな?」

「試してみますか?」


 そう言ってミリナは、『皇子〜 聞こえますか〜?』と念じた。


 ……


 返事を待つ5人は物音を立てず、世界は風の音だけの静寂になる。


 ……


『……聞こえます……』


 しばらくして皇子の声がした。

 繋がったらしい。ミリナは興奮気味に返事する。


『あ、お久しぶりです! 私達、世界樹に登ってるんですよ! もう雲の上まできて、ペリン山脈の頂上より高いところにいるんです! 凄いでしょ!!』

『そうなんだ、頑張ってね』


 予想に反し皇子(アースドラゴン)の声は興味なさそうで、つれなかった。


『え〜 もっと応援してくださいよ! 『がんばれ!』とか『僕も、そっちに行くよ!』とか言ってくださいよ〜 皇子が来てくれたら百人力なんですけど!』

『ちょっと眠いんだ。世界樹に僕は入れないし。とにかく頑張って』


 そう言ったきりもう声はしなくなった。

 ミリナとラドルはしょんぼりしている。


「寝起きだったのかニャ?」

「……ま、そんなもんだ。じゃ、行くぞ」


 気を取り直して旅を続けた。雲を抜けた先は焼けるように強烈な日差しで、5人とも日焼けして真っ黒になる。



 それから数時間経ち、陽も沈み始めた。


「今日はこの辺で泊まるとするか」


 夕陽で黄金色に染まる雲も壮観だ。地上からの眺めとは全く違う。

 寒さを凌げる場所を見つけ、テントをはる。当然キャフだけ別だ。

 保存食を鍋に入れラドルの炎で温めてスープにし、皆で夕食をとる。


「ふ〜 風を凌げるだけでもありがてえ」

「岩も少し暖かいな」

「世界樹からの熱ですかね?」

「そうらしい。何かこれ、生きてるみたいだな」


 キャフの言う通り、高地にも関わらず岩がほんのり温かい。

 少しでも魔法を使わずに暖を取れるのは、ありがたかった。


「地上より星がとっても近いですね」

「そうだな、星ってこんなにあるんだ」


 頭上には星空が無限に広がっていた。

 まるで宝石の海の中にいるようだ。ずっと見ていても見飽きない。

 

「酒がうめえな、こりゃ」


 フィカとミリナの感動をよそにキアナはウイスキーを開け、ロック代りに雪を入れて飲み始める。他の4人にも勧めると、久々の宴会となった。酔い過ぎは死につながるので、ほどほどでお開きにする。



 翌日、夜明けと共に自然と目が覚める。

 太陽に照らされ始める雲海はキラキラ輝き、味わいある風景だ。


「日の出ニャ! 綺麗だニャ〜」

「今日も頑張るか」


 朝食をとって再び登り始める。早く行きたいが慌てずに進む。

 昼になる少し前の時間であった。 


「あ、何かあるニャ?」


 細くなった世界樹に、何かが添えられていた。

 近づくとそれは、大きな鉄の船だった。


 海に浮かぶ船とは違い、巨大な鉛筆みたいな形状だ。

 先端にとんがり帽子みたいな物が置いてある。

 船の脇には、その先端にあるとんがり帽子まで続く梯子があった。


「やっと来たか。デュダリオーンから話は聞いてるぞ。わしはワルフォロ。お前たちをジジェス様の下へ連れて行く船の技術者じゃ。久しぶりの起動だがまあ大丈夫だろう」


 側にある大地の小屋から出てきたのは、年老いたエルフだ。

 弟子なのか、数人の若いエルフも後からついてくる。


「ワルフォロさんよ、オレ達はどこに乗るんだ?」

「あのてっぺんじゃよ」


 ワルフォロの言葉に、5人は驚く。


「え? あんな小さいところですか?」

「近づけば分かるが、それなりに大きいぞ。安心せい。まずは着替えろ」


 不安は募るものの、指示通り、デュダリオーンからもらった服に着替える。形状から予想した通り歩きづらい。ただ内部で水が循環しているらしく、暑くはない。


 よちよち歩きで、船の脇にある梯子をゆっくりと上る。

 その姿は滑稽で、お互いを見て笑っていた。

 他の荷物は、若いエルフたちが担いで持って来てくれた。


 確かにとんがり帽子の部分は意外と広く、荷物もそれなりに入った。


「お前らの荷物は宇宙だと要らん物ばかりだから、必要最小限にしておいたぞい」

「宇宙?」

「この星の外にある、空気も何もない空間のことじゃ」

「ふーん」


 5人には、とても遠い場所としか分からなかった。

 本当に行けるのかと不安になる。


「じゃあベルトを締めろ。ヘルメットも空気が漏れないようにしっかり被るんじゃ。あと燃料が足りんから、あんたらの魔法杖をここに差してくれ。そうすれば魔素も燃料に変換してくれる」


 3人は指示に従い、足元にある窪みにに魔法杖の先を入れ、握り締めた。


「最初はかなりの圧力じゃが、しばらく耐えたら自動運転でジジェス様のところにたどり着く。達者でな。グッドラック」


 そう言ってワルフォロはハッチを締め、下へ降りて行った。


『不安ですニャ〜』

『ここまで来たら、腹を括るしかないだろう』


 ヘルメットで声が通らないので、通魔石を使って会話をする。

 少し経つと、下から重く響く音が聞こえてきた。

 とんがり帽子の中も振動し始める。


「聞こえるかの?」


 部屋の中に、ワルフォロの声が響いた。


「ああ、聞こえるぞ」

「良かった、良かった。じゃあ、もう少しで発射するからな。集中して待っててくれ」


 しばらくすると音の質が変わり、キャフ達に近づいてくる。

 船の揺れも、更に激しくなった。


「よーし、じゃあ行くぞ。10、9、8……」


 カウントが始まり、5人の顔が引き締まる。


「……3、2、1、ゼロ! 発射!!!」


 ドドォオオオンン!!!!


 大爆発が起こると同時に、船は上空一直線に飛び立って行った。


「頑張れよ〜」


 瞬く間にに消え去った船の方角を眺め、ワルフォロは彼らの無事を祈った。

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