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第195話 歌は世界を救う

前回のあらすじ


やっとデュダリオーンに会えた!

「……事情は、分かった。しかし難しいな」


 キャフ達の話を一通り聞き終えたデュダリオーンの顔は、冴えない。


 少なくとも『よし分かった! あの船を倒せる巨人を持って行け!』とか、言ってくれる雰囲気ではなかった。テーブルを囲むキャフ達は美味しいお茶を飲みながら、デュダリオーンの返事を待つ。


「幾つか問題はある。まず大きな問題は、今回の争いが人間同士ということだ」

「え、そこですか?」


 ミリナが思わず声を上げたが、残りの4人も内心同意であった。


「そうだ。正直、どちらか一方に肩入れする気が私達にはない」

「なぜニャンですか?」


「お前たちは感情が強すぎる」

「感情?」


 5人とも会話の趣旨が分からず、顔を見合わせる。


「つまりだ、人間はモンスターや他の生物と違って、恨みだったり妬みだったり、僻みだったり、他人を思う感情が強すぎて、しかもそれが個人では収まらず、子々孫々まで受け継いでいく」

「うーん、確かに」


 キアナの独り言は、自分自身に対してでもあるようだ。


「だからこの問題を解決したとしても、また別な問題が起こるのは明白だ。私達がその片棒を担いだら、一方から恨まれる。会津に行って山口出身だと言うような、無謀な真似はしたくない」


 例えは意味不明だが、5人ともデュダリオーンの言わんとすることは分かった。だがここで引き下がるわけにはいかない。


「ドラゴンの時は武器を作ってくれたって言うじゃねえか? あいつらドラゴンスレイヤーも持ってて、大迷惑なんだぞ?」

(アースドラゴン)も僕らも勝負がついたら、そこで終わりだ。全力で闘って強い方が勝つのは自然の摂理であり、結果に文句を言わないのが掟だ。だから彼を殺せる武器を作っても問題はなかった。実はこうしてれば勝ったとか、本当は勝ってたはずとか、精神的勝利とか、後からグダグダ言う人間共と我々は違うのだ。それにドラゴンスレイヤーが相手に渡ったは不可抗力であり、私達に関係のないことだ」

「うーん……」


 確かに現実のアースドラゴン(皇子)と話をしていても、キャフを本気で恨む様子は感じられなかった。モンスター達はそういう生物なのかも知れない。ただデュダリオーンの理屈が正しいとも思えない。


「お前ら、そもそも事の発端はどこにあるか知ってるのか?」


 デュダリオーンは、話題を変えた。


「クムールがアルジェオンの領土を奪おうとしている事だろう?」

「……短命だから、お前たちはそう思うのかも知れないな」


 デュダリオーンの顔は、どこか憂いていた。


「私も当時若かったから詳しくないが、アルジェオンの独立戦争もお互い様だ。今じゃ自由の土地とか、クムールからの解放とか吹聴されているようだが」

「でも、先祖がやったことなんて関係ないだろ?」


「そうやって都合の良いことは忘れて相手を非難する術に長けているのも、人間の悪徳だ。それに問題はクムールだけじゃない。黒幕が何か知ってるのか?」

「……新大陸」


 キャフには確証があった。この戦争で、今までのクムール帝国の技術力では到底できない兵器が次々と繰り出されてきた。裏で手を引いている国が無ければ絶対にできない。そしてそれが出来る国はこの世界に一つしかなかった。


 キャフの言葉に、デュダリオーンは当然といった顔で話を続ける。


「知っていれば分かるはずだ。つまり《新資本主義》だよ」

「シフォン主義?」

「いや、違う」


 ラドルのボケにも、デュダリオーンは冷静だった。


「今や『赤い猫でも白い猫でも、ネズミをとるのは良い猫だ』を、世界中でやってるんだ。クムールみたいな昔なら相手にされない独裁主義の国でも、お金があれば何でも出来る。政治犯を何人殺しても、少数民族を虐殺しても、お金や売る物があればお咎めなし。倫理観の欠片もなくなった、君達らしい下衆な世界じゃないか」


「そう言われても……じゃあ私達、何でここまで来たんですか?」

「君達が勝手に来ただけだ」


 デュダリオーンの言う通りだった。


「だがオレたちも引き下がるわけにはいかないんだ」

「……残念だが、私はこの件をもう議論したくない。お引き取り願いたい」


 そう言ってデュダリオーンは、お茶を飲み終えると部屋を出て何処かへと去った。


「どうしますか? 出て行ってしまいましたよ?」


 キャフ達も立ち上がり後を追おうとしたが、召使と思しきノーム達に遮られる。


「先生はお前達と話したくないって言ってるんだ! もう帰れ!」


 ここまで言われると引き下がるしかない。


「どうする? キャフ?」

「……仕方ない、一度退散するか」


 キャフたちは、再び村を出た。


 あの機械大砲は全て破壊したので、村を出ても安全だ。

 持ってきた荷物と近くに生えていた樹木を使い、寝泊りできる小屋を作る。


「しばらく泊まるのかい?」

「ああ、何度も出向いて、お願いするしかないだろう」

「三顧の礼ですね。あ、でもキャフ師の方が年下だから違いますかね」

「まあ何でも良い。誠意を伝えるだけだ」



 翌日も村に入ろうとすると、入り口は硬く閉ざされていた。


「デュダリオーン、話を聞いてくれ!」

「デュダリオーンさん、よろしくお願いしまーーす!」

「ちょっとぐらい、良いじゃねえかよ! けち!」


 だがデュダリオーンの反応はつれなく、梨の礫であった。

 その後も思い思いの言葉で叫ぶが、返事はない。


 翌日も、その翌日も、そのまた翌日も、キャフ達は呼び掛けた。

 だが結果は一緒だった。


「キャフ師、どうなんですか? 駄目じゃないですか?」

「うーん……」


 ここまでうまくいかないとは、キャフも想定外だった。

 ご都合主義な小説なのだから、早く進んでもいいはずだ。


(どうすっかな……)


 当てもなく荷物の中身を見ていたキャフは、何かを見つけた。


(これなら使えるかも知れねえな……)




 翌日、キャフは突貫工事で村の側に舞台を作り始める。

 魔法で木材が板状に斬られ、後ろには反響板も設置される。


 4人はキャフの作業を黙って見ているだけだった。

 夕方、キャフは満足して小屋に戻ってきた。

 夕食をとり星空も綺麗な夜に変わった時、キャフは話を始める。


「よし、用意はできた。ラドル、ちょっと来い」

「え? わたしニャンか?」

「他の3人も、来るだけは来てくれ」


 4人は何だかわからず小屋を出ると、キャフは舞台に上がり、ラドルにも来るように促す。何かと思いながらやってきたラドルに手渡されたのは、マイクだった。


「お前の思いのたけを、存分に歌ってみろ」

「え、キャフ師、それ私達もヤバいんじゃ?」


 3人は、その意味を瞬時に理解した。


「耳栓つけとけ」

「とりあえず退避だ」


 3人は慌てて小屋に駆け込み、中から様子を窺った。

 彼女たちの行動に不思議がるラドルだが、歌うことに異存はなかった。


「分かったニャ! 頑張るニャ〜♪」


 ラドルが大きく息を吸った時、見ていた4人は瞬時に耳を固く塞ぐ。



 ボエェエ〜〜 ボエボエェエエ〜〜♪

 ボゲェエエエ!!!

 フギャフギャホンゲェエエエ〜〜♪♪


 ラドル・オンステージが始まった。


「な、なんだ? この不快音は?」


 夜のひと時を読書しながらソファで寛いでいた時、正気を保つのですら難しい爆音にデュダリオーンは驚いた。


「外で彼らが歌い始めました」

「止めさせろ!」

「それが、魔法使いが妨害するのです」

「何だと!」


「歌うのって、楽しいニャ〜♪ ホガァアア〜!!」


 マイクの音量を最大にして、昼夜を問わず歌い続ける。都心部で羽田空港へ着陸する飛行機が引き起こす騒音より、ラドルの歌声は害であった。寝させない拷問が一番キツい。


 三日目……


 村の入り口がゆっくりと開く。

 端正なデュダリオーンの顔はやつれ、目の下にくまが出来ていた。


「やっぱり、三日目なんですね」


 ミリナがしたり顔で言うが、デュダリオーンに返す余裕はない。


「わ、分かった。何でもするから」

「じゃあ、もう一曲♪」

「それだけは止めてくれぇええ!!!」


 デュダリオーンの心からの叫びに、さすがのラドルも歌うのを止める。


「とにかく《雷の方舟》に対抗できる武器が欲しい。ジジェスに会わせてくれ」

「分かった」

「私の剣もパワーアップしてもらえないか?」

「自分の銃もやって欲しいな」

「分かった分かった。二日待ってくれ」


 そう言ってフィカとキアナの剣と銃をひったくると、デュダリオーンは工房へと向かった。


 二日後、真新しくなった剣と銃を持ってデュダリオーンがノームの召使を携え、5人の住む小屋を訪れた。


「ほら、これで良いだろう」

「ありがとう」

「いい仕事してくれたな」


 フィカもキアナも、新しい武器を手にとってご機嫌であった。

 疲れ切っているデュダリオーンとは対照的だ。


「ジジェスにも話は付けた。ただ、もう少しこの世界樹を上がっていかねば彼のいる場所にはたどり着けない。服装もそれでは死んでしまう。そこから乗り物に乗るが、乗船の際にはこれを着るように」


 ノームが持ってきたのは、頭のところがガラスでできた非常に分厚い服だった。歩くのさえ難儀しそうだ。


「こんなの着るニャンか?」

「ああ。空気や重力が無いからな。放射線もある。気をつけろ」


 5人はデュダリオーンの言葉の意味を理解できないが、とりあえず受け取る。


「じゃあ、ここから登ってけ。しかしこんな乱暴な手で私を使うとはな。こんな酷い人間、見たことがない。昔の人間達の方がまだ話ができた」

「済まなかった、恩に着る。まあオレ達はオレ達のやり方でやらせてもらうぜ」


 そうして5人は、更に世界樹を登って行った。

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