第194話 デュダリオーン
前回のあらすじ
世界樹の中、こうなってるんだ……
「ねえねえ、そのデュダリオーンさんて、どんな人ニャンか?」
「そうですよ、教えてくださいよ。熱い刀工房にこもってひたすら鉄を打つ、ガチムチのいかつい鍛冶師なんですか? もしかしてゲ○?」
ディッドが示した横道を通っている時、ラドルとミリナは思って当然の質問をした。
「いや、全然ガチムチじゃないが。うーん、確かに高炉や刀工房はあるけど、それだけじゃねえな」
「何なんだよ?」
キアナも気になるらしい。
「いろんな機械の設計もしてるんだ。村の周辺には良く分からん武器や装置があった」
「マドレーさんみたいなもんですか?」
「そうだな。あいつも来たら喜んだろうな」
こんな話をしているうちに、さっきと同様突き当たりに煙突みたいな縦穴が現れた。見上げたが、光が漏れてこない。やはり蓋がされているのだろう。幸い梯子も付いていた。
「お、これを上がれば良いんですね。じゃあ行きましょうか?」
そう言ってミリナが梯子に手をかけようとした時、キャフが押し留めた。
「ちょっと待て。最初はオレだけで行く」
キャフは不安であった。こんな簡単に行けるとは思えない。
蓋を開けた先には、何かトラップがあるような予感がする。
「気を付けろよ」
「ああ」
キャフは、1人で梯子を登った。真っ暗だが梯子は丈夫そうで問題ない。時折止まって周辺の音にも注意するも、巨大モンスターが俳諧しているような足音は聞こえなかった。
やがててっぺんに辿り着く。予想通り蓋がされていた。
試しに押してみるとわずかに動く。
(力を入れれば、開きそうだな……)
更に力を込めて蓋を外した。ゴトっと音がする。
両手で静かに持ち上げて、外の様子を伺う。
(大丈夫、かな……)
キャフが油断しかけたその時、遠くで何かが光り、すごい速さで飛んできた。
思わず蓋を手から離しもぐり込む。
ガッガーーーン!!!
キャフの直ぐ上で爆発がおこり、激しく揺れた衝撃で梯子からずり落ちる。幸運にも落下まではしなかった。
「大丈夫ですか〜?」
ただならぬ様子が、下にも伝わったらしい。ミリナの声がする。
「ああ、大丈夫だ」
(けど、外に出るのはヤベえな……)
対策を練るために、再びキャフは梯子を降りて行った。
4人とも心配そうにしている。
「どうなんだ? 出られるのか?」
フィカが、聞く。
「何かがいる。凄い速さで砲弾を撃ってきた」
「どうするニャ?」
「防御魔法を使って行くしかないだろう。まずオレが出ていく。後から付いてこい」
「飛び道具なら、自分が二番手になるかい?」
「そうだな、キアナ。頼む」
5人で梯子を上る。
さっき蓋を開けたせいか、今度は外で何かが動く音がする。
「出たら、一気に行くからな」
「あいよ」
「了解だ」
「分かったニャ」
「私も防御魔法かけますので、安心してください」
静かになったのを見計らい、さっきよりも力を込めて蓋をどかし、キャフは地上へ出た。
やはりこの高さまで来ると、肌寒い。
ヒューーン、
さっきと同様、何か飛んでくる。素早く防御魔法をかけて立ちあがった。
ドッガーーーンン!!!
防御魔法に砲弾が直撃し、爆炎がキャフを包んだ。
凄まじい威力だ。並の冒険者なら、一発であの世行きだろう。
だが、キャフの防御魔法は持ち堪えた。
続いてキアナ、フィカと出てくる。
そして再び砲弾が何発も飛んできて、派手に爆発する。
「ありゃ、何だ? 大砲に足が付いてるぞ?」
キアナが驚くのも無理はなかった。そこで徘徊しているのは、大砲に四本足がついた真っ黒で無機質な機械であった。キャフ達をとらえるや、すぐに標準を合わせて砲弾が飛んでくる。十体以上いて次から次へとキャフ達目掛けて砲弾が飛び交い、攻撃を準備する間もなかった。防御魔法が囲む範囲で、3人一緒に逃げる。
やがてラドルとミリナも、外に出てきた。
ミリナが防御魔法をかけ、別行動になる。
5人が格闘している場所は広い草原で、見晴らしが良い。
機械大砲たちの向こうには、柵で囲まれた村らしきものがあった。
見覚えがある高炉もあるから、デュダリオーンの村だろう。
側には世界樹の幹が、更に上に向かって伸びている。
「キアナ、銃は撃てるか?」
「ああ、大丈夫だ。弾も十分ある」
「よし、俺が防御魔法を外すタイミングで撃ってくれ。ラドルも炎攻撃を頼むぞ」
「おっけー」
「分かったニャ」
……
小一時間ほど経ったのち、ようやく機械大砲達の殲滅に成功する。
「ふー、何とかなった」
「で、どうすんだ?」
「あそこに村があるだろ? あれがデュダリオーンの村だ」
「じゃあ行くですニャ!」
村の入り口に近づくと、キャフたちの荷物が無造作に置かれてあった。
あの鷹がちゃんと届けてくれたらしい。
入り口の扉には誰もいない。鍵もかかってないようだ。
まず荷物をチェックし、寒いので防寒をしっかり準備した。
「じゃあ、開けてみるか?」
「ああ」
キャフが先頭で開けてみると、そこには長身のエルフがいた。
エルフらしく綺麗な顔だが、中性的な雰囲気をしている。
羽織っている黒いマントが余計に性別を不明にさせた。
「思ってたのと違うニャンな?」
「予想以上に、美形ですね」
ラドルとミリナが陰でコソコソ言う。
「デュダリオーンか?」
見覚えのあるキャフが尋ねた。
「いかにも。お前は誰だ? 久々の侵入者が人間とはな」
「オレだ、魔法使いのキャフだ」
キャフの言葉を聞いてデュダリオーンは驚き、目を見開いた。
「本当に、あのキャフか? お前、老けたな」
「人間だからな。それよりお願いがあるんだ。《雷の方舟》って知ってるか?」
キャフは、単刀直入に尋ねる。
「《雷の方舟》? 懐かしい言葉だ。太古に我々の一族が創った作品だからな。もちろん知っている」
「オレ達の国があれに攻撃されて困ってるんだ。《小さな太陽》と呼んでる爆弾で、街が丸ごと一つ吹き飛んだ」
「《小さな太陽》? あれに搭載されている核爆弾か。まだ動くとはな。さすが我が先祖の作品だ」
「それで、こっちはいい迷惑してんだよ。何とかしてくれ。エルフの王ジジェスに会えと言われたんだが、行き方を知ってるか?」
苛立つキャフを見ても、デュダリオーンは顔色一つ変えず冷静だった。
「まあ、ここではなんだ。お嬢様達もいることだし、温かいお茶でも飲もうか」
そう言ってデュダリオーンは、5人を村の奥へと案内した。




