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第192話 ノームのディッド

前回のあらすじ


十日近く投稿できなくて、すまなかった! とりあえず世界樹を登ってるぜ!

「うわ、でかいニャ!」

「ちょっとヤベえって。早く助けてくれ!」

「待ってろ! て、これじゃ行けねえな」

「おい! 何とかしろよ! くそ、ナイフじゃ切れねえ!」


 身動き取れずもがくキアナの叫びに、誰も応えられない。

 草原に網目上に張り巡らされたクモの巣の外から、ただ眺めるだけだった。


 そしてキャフ達の反対側には、世界樹の幹から伸びて作られた森がある。


 その森から現れたクモ型モンスターが一歩踏み出すたびに、キアナもぶらんぶらんと揺れた。キアナ以外にも巣には沢山の獲物が引っかかっており、まだ生きているのか、もがく白い塊がある。


「しかし、でけえな……」


 そのモンスターの形状はクモだが背丈はおよそ五mで足は十本以上あり、赤く光る目が六つもある。その異様な姿に加え、動きも何かの機械みたいな違和感があった。


「モンスターじゃないニャンか?」

「なんだか動く石像(ゴーレム)みたいな、そうじゃないみたいな……」


(やっぱ、こんなのばっかりか……)


 キャフは昔を思い出していた。あの時も謎の人工物体がこれでもかと襲ってきた。動く石像(ゴーレム)のような単調な動きや操作された動きとも違い、意志がある。とにかくモンスター生息域では見かけないモンスターばかりで、対処に苦労した。


電撃剣(サンダー・ソード)!」


 試しにキャフが魔法を放つ。 


「うわ! あちっ! しびれるぅ! やめてくれ!」


 どうやら巨大グモの糸は導電率が高いらしく、キアナも一緒にビリビリ痺れた。これでは仮に倒せてもキアナが死んでしまう。


 今度はラドルとミリナが、巨大グモに直接魔法攻撃を仕掛ける、

 だが表皮が特殊な素材であるのか、跳ね返されてしまった。

 

 以前来た時に遭遇したモンスターと同じだ。

 レベルが高い剣でなければ、傷すら付けられない。


「何か策は無いのか?」


 と、フィカが聞いてきた。

 だがキャフに良いアイディアは思い浮かばなかった。


(サムエルさんが居たらなぁ……)


 あの時は勇者サムエルの恐れを知らぬ猪突猛進ぶりに助けられた。勇者レベルの運動能力が無いキャフには、無理な芸当だ。


「あれがクモの糸なら……もしかして……」


 ミリナが、何かを言いかける。


「何だ?」

「クモの巣は横糸と縦糸があるんです。で、ベタベタくっつくのは横糸で、縦糸だけを辿ればからめ捕られずに済むはずです。事実あの巨大クモは糸にからまっていません」


 ミリナの知識に納得するが、それを実行できる人間は限られる。

 少なくとも、キャフには無理であった。


「よし、私がやる」


 己の無力さを感じ肩を落とすキャフをみて、フィカは何かを決心したようだ。


「フィカ姉さん、大丈夫ニャンか?」

「そうですよ、きっとキャフ師が犠牲になって何とかしてくれますよ」

「なに、スラム街では生き延びるために色んな技を身に付けた。これだけ太い綱渡りなら何とかなるさ」


 2人の心配をよそに、フィカは剣を抜いて糸に上り巨大グモ目掛けて走って行った。

 体幹を鍛えているフィカらしく、ぐらつく様子もない。流石だ。


 相手も口からクモの糸を吐いて攻撃してくるが、フィカは巧みに縦糸だけを選び、ぴょんぴょん飛び移って避ける。予め糸の位置を把握しており、動きは俊敏で巨大グモに的を絞らせない。


 あっという間に巨大グモに近づくと、大上段に構え一気に剣を振り下ろした。


「くらえぇええ!!」


 グサッ!! 


 マドレーから貰った剣の切れ味は抜群で、目が一つ潰れる。

 巨大グモも反撃してくるが、今度は背中に跳び乗り剣を突き刺した。


 ギャァアアア!!!


 不気味が声が響き、何かドロドロした液体やコードが噴き出てくる。

 明らかに、巨大グモの動きが鈍くなった。


「お、切れてるニャ!!」

「頑張ってください〜」


 声援を背に、フィカは巨大グモの足を切り落とす。

 バランスを失って倒れ始めたので、フィカは再び縦糸に飛び移る。

 それに対し巨大グモは自らの糸にからめ捕られ、動けなくなった。


「やったニャ!」


 勝負ありと見たフィカはキアナの下に行き、クモの糸を切り始める。


「ほら、切ってやるぞ」

「姐さん、ありがてぇ〜」


 フィカの剣は糸を難なく切り刻み、キアナは脱出に成功した。

 2人ともキャフ達の下に帰ってくる。


      *    *    *


「いや〜、助かった。んじゃ、森の奥に行こうぜ」

「助けてくれ〜」


 その時、すぐそばで声がした。


「あ、まだ生きてるやつがいるぞ!」


 5人の側にもぞもぞ動く白い塊があったので、フィカが再びクモの糸に上って切りに行く。白いマユのような中から出てきたのは、小さな子供みたいだ。


「お〜、助かった。ありがとう、礼を言うぞ」


 だが、どうも違う。

 背丈は子供だが白く立派な髭を蓄えて、見かけは爺さんだ。


 その小さな爺さんは何かを探し求めるようにクモの糸をまさぐり、ベトベトした糸を嫌がりながらごそごそと探している。


 やっと見つけて取り出した物は、派手に赤い色をした大きな三角帽子だった。その帽子を被って立ち上がろうとするが、足元が覚束ない。


 フィカが助けてやると、赤ん坊のように胸に抱きついてきた。


「うわっ!!」


 フィカは反射的に小さな爺さんを突き落とす。

 再びクモの糸に絡まり、バタバタしている。


「助けてくれぇえ〜」

「す、すまない。何せ急で、びっくりして」

「年寄りを粗末に扱ったらバチが当たるぞ!」

 

 むくれる小さな爺さんを、今度は仕方なく抱き抱える。

 鎧の上からとはいえ、妙な感触だ。

 爺さんの目はちょっとイヤらしい。


「お〜 生きてるってええのお〜」

「フィカ姉さん、そいつ子供じゃないニャ! じいさんニャ!」

「救助だからな、仕方ない」


 無事に戻ってくるが、小さな爺さんは抱きついたまま離れようとしない。


「いい加減離れろ!」


 フィカはイライラして、ドサっと投げ捨てる。

 小さな爺さんは腰をさすりながら、よろよろと起き上がった。


「イタタタ…… 年寄りを労らんとはバチが当たるぞい」

「もう十分だろ」


 フィカは呆れたのか、相手にしていない。


「あんたは、誰だ?」


 キャフは尋ねた。


「わしは、ノーム族の、ディッドじゃ」

「ノーム?」

「ノームって、地下鉱山にいるんじゃないですか?」

「おっぱいの大きい眼鏡のお嬢ちゃん、我々は鉱山があれば何処にでも住むのじゃよ」

「何だかセクハラ満載でやな感じですね〜」

「そうだろう?」


 女性陣からジト目で見られ、さすがのノームも気まずくなる。


「……まあ老い先短い年寄りなんじゃから、許しておくれよ」


 少し態度を改めたようだ。


「キャフ、こいつ本当にノームなのか?」

「あ、ああ。確かに似た奴に会ったことあるな。鍛治師デュダリオーンの手下として、世界樹の中に潜っていろいろやってた」


 キャフの話を聞いて、ディッドは目を丸くした。


「はて? デュダリオーンを知ってるのか? ここ百年間で世界樹に人間が登ってきたのは一度きりだが、あの時の魔法使いはあんたより若くてイキがってたような気がするんじゃが…… まるで自分が世界の中心みたいに天狗だったな。わしらノームを便利屋扱いしおって、散々陰口を聞かされたよ」

「……それ、オレだ。もう二十年経って老けたんだよ」


 キャフの存在も知られていたようだ、

 今度はキャフが弟子たちの前で気まずい思いをする。


「なんと! たった二十年でこうも老けるのか。人間にはなりたくないものよ」

「まあじいさんそれは良いとして、あんたエルフの王を知ってるかい? ジジェスと言うらしいが」


 その名を聞くと、ディッドは怯えるような顔をした。


「なに? まさかあのジジェス様に人間ごときが会おうというのか? わしゃ六百年生きてきたが、こんな厚かましい人間は初めてじゃ!」

「あんた会ったことあるのか?」

「……あると言えばあるし、ないと言えばない」

「どっちだよ!」


 キアナがイライラして突っ込む。だが老人はどこ吹く風といった態度だ。


「お前らが会えるとはとても思えん。ま、せいぜいい頑張ることじゃ」

「じゃあ、またクモの巣に引っかかるか?」


 このままでは埒が明かないと悟り、フィカはディッドの襟首を掴んでクモの巣へ放り投げようとした。ディッドは状況を自覚したのかジタバタしている。


「え、それだけは勘弁じゃ! わしゃ会える方法を知っとるぞ!」

「あんた、本当か?」

「疑わしいニャ……」

「本当じゃ、後悔しても遅いぞ?」

「キャフ、どうする?」

「まあ、話だけは聞くか」


 キャフに言われ、フィカはディッドを下ろす。

 一難が去り、ほっとした顔をするディッドであった。


「じゃあ、案内してくれ」

「分かった、分かった。じゃあ今度はそこの可愛い猫ちゃんに……」

「お断りするニャ」


 拒否られてがっかりするディッドだが、またクモの巣に放り込まれてはかなわない、仕方なく歩いて案内をし始めた。遠回りしてクモの巣を避け、反対側の森まで行き、さらにその奥へと進む。


「これじゃ」


 そこには、マンホールの蓋みたいなものがあった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] フィカ姐さん……! 蜘蛛の縦糸の上を走るフィカさん、格好いいっ。 キアナさんが「姐さん」呼びしたとき、これでもかと心情がシンクロしました。 みんな、脳内再生される表情が生き生きしていて、ぐ…
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