第191話 エレベーターガチャ
前回のあらすじ
お約束だけど、めんどくせぇえ!!
木の生態系について調べてみると、2003年にマレーシアの熱帯雨林で、樹木一本にいる昆虫やクモを数えた調査があった。
その数、なんと1、705種!
かなり多い。つまり世界樹にはそれ以上の虫達が存在すると言うことだ。
50mの一本の木に殺虫剤をまいて、落ちてきた虫を調べたという手法もエグい。自分には出来ないと思う。
ちなみに、本編とはあまり関係がない。
* * *
「何か、浮いてる?」
キャフ達が来た道の先は枝がなくなり崖になっていて、四角い灰色をした謎の物体が浮いていた。他に道はなく、先に進むにはあれに乗る必要がありそうだ。
四角い物体は黒光りする金属製で、5人以上が乗れる広さであった。
うまい具合に、ちょうど飛び乗れそうな距離に浮いている。
念のため道の周りを調査するが、めぼしいものは何も無い。
「トラップ?」
「そうかも知れない。だが確かめる術がないぞ」
「ちょっと乗ってみますかね?」
度胸があるのか、ミリナは興味津々でぴょんと飛び乗った。
少しグラつくものの、バランスを取ったら普通に立てる。
「乗れますよ! 動きそうです。移動装置かも知れません。こっち来ませんか?」
ミリナは手を振ってグラグラ揺れながら、4人を誘う。
バランスを取るのが、楽しそうだ。
「トラップじゃないのか?」
「どうだろう。いずれにせよ先に行くには、あれに乗るしかないか……」
仕方ないと腹を決め、キャフが続いて飛び乗り、3人も後に続く。
1人1人乗るたびに揺れるが、何とかバランスを保つ。
だが全員その台に乗り終えると、突然、周囲に透明なバリアが貼られた。
逃げようにも、逃げられない。
「うわ、やっぱトラップだったか?」
「ミリナちゃん!」
「ラドルちゃんだって、さっきやったじゃん!」
ギャーギャー喚いても、元には戻らない。
剣や銃でバリアの破壊を試みたが、傷一つつかなかった。
魔法を使おうにも、バリアを解除できない。
密封空間だから、ここで魔法攻撃をすれば、自分自身に被害が及ぶだけだ。
(やべえな……)
何も出来ずに、時間だけが虚しく過ぎる。
我慢も限界になりかけた時、突然上の方からチャイムが鳴り、続いて声がした。
『こんにちは〜 こちらは世界樹の運営です。今から《エレベーターガチャ》をしてもらいます!』
どうも自動音声ではなく、誰かの声のようだ。
乗っている台から、大きな画面と赤いボタンの付いた装置が現れる。
(エレベーターガチャ……だと?)
昔の世界樹では、こんなもの無かった。
よく分からないが、スロットマシンみたいな物らしい。
これ見よがしに付いているボタンを押せば、動き始めるようだ。
『ちなみに今なら十万ガルデを払えば、確率99.99%でゴール直前まで行ける課金ガチャを引けますよ! どうしますか?』
「おい、金あるか?」
アナウンスの声に血相を変えて、キャフが叫ぶ。ここで早く行けたら楽になる。勝負のしどころだ。
だがモンスター生息域で一番無駄なものは、貨幣だった。
まさかここで必要になるとは思わず、キャフの持ち合わせは二百ガルデしかない。
「お菓子買えるぐらいしか無いですニャ……」
「イデュワで散財したしな……」
5人が持っていたお金を合計しても、二千ガルデにも満たなかった。
肩を落とし、ガッカリする。
『じゃあ無料ガチャですね? これでも運が良ければ、頂上まで行けますよ〜 さあボタンを押してください!!』
『そんなより、レアアイテムとかゲットできないかニャ? 敵をやっつけたら、このお話終わりなんだけどニャ?』
『そんなものありません〜 さあ、押してください!』
どうも自動音声ではなく、誰かが対応しているようだ。
ここは運営の指示に従うしか無い。
「どうする? 誰が押す?」
「師匠で良いんじゃ無いかニャ?」
「でもこいつ、尽く運が悪いぞ」
フィカの発言に、みな「うーん」とうなって下を向く。
確かにキャフは運が悪い。5人と国の運命を任せるには荷が重い。
「別に誰でも良いぞ。キアナとかどうだ?」
「いや、自分は遠慮するっす」
「じゃあ、ジャンケンでもするか。負けたやつで」
「いや、勝った方が良いですニャ!」
こうして、じゃんけん大会が始まった。
「じゃんけんぽん!」
「ぱー」
「ぐー」
「ぱー」
「ちょき」
「ぐー。ダメだな、もう一回だ……」
5人いっぺんだから、何度もやり直す。
みな必死だからか、なかなか決まらなかった。
『早くしてください〜』
運営からも、待ちくたびれて呆れた声がする。
だが5人は聞く耳持たず、ジャンケンに勤しむ。
そして……
「か、勝っちゃいました……」
勝者は、ミリナだった。
さっきの失敗が脳裏に焼き付いているのか、かなり乗り気ではない。
「ま、大丈夫だ。気楽に引け」
「また地上に戻るのは、最悪ですよね……」
震える手で、恐る恐るミリナは、ボタンを押した。
ガチャガチャガチャ……
いろんな数字が回っている。
何処まで行けるのか謎ではあるが、止まるまで、5人は固唾を飲んで見守った。
だんだん、回る速さがゆっくりとなる。
最初は目にも止まらなかった数字も、判別できるようになった。
0mとか10mもあれば、1kmとか3km、果てには3600kmなんて不穏な数字が見えてくる。嘘もあるのだろうが一体どこまで高いのか、不安にさせる数字だ。少なくとも今いる50mよりは上にいって欲しい。
そして……
『おめでとうございます! 300mです!! では行ってらっしゃい〜』
との運営の声で、キャフ達を乗せた台はヒューっと音もなく上昇をし始める。
一度動き始めたら、この台は快適であった。
「うわ〜 良い景色だニャ〜」
「森を抜けたから、ウルノ山脈が綺麗に見えますね〜 皇子のいるペリン山脈もあります」
「ミリナちゃん良かったニャ! ミリナちゃんのおかげニャ!」
「……さっきまで悪者にしようとしてたくせに」
「え? 何か言ったかニャ?」
「ううん、何でも無いよ!」
さっきまでのいがみ合いは嘘のように、みな絶景を楽しんでいた。
「300mって、どれくらいの高さなんだ?」
フィカが、キャフに尋ねる。
「デュダリオーンが住んでる村は、1500mだった」
「じゃあ、まだまだか……」
チーーン!
と音がすると、台が停止し、バリアが解除される。
「よっしゃー! 行くぜ! ……うわぁあ!」
先陣を切って走るキアナが、突然足を滑らせる。
走った勢いは止まらず、もがきながら、そのまま落ちていった。
「うわっ! 何だこれ? くっついて離れねえ!!」
キアナが叫ぶので何事かと見ると、糸みたいな物がキアナにまとわりついていた。キャフ達は立ち止まって自分たちの足元を見る。そこには巨大なクモの糸があちこちに張り巡らされていた。
「動けねえ! 助けてくれ〜!!」
キアナはすっかりクモの糸に絡みとられ、動けなくなった。
「ヤベえな、これ」
キャフが恐れていた通り、キアナが罠に引っ掛かったのに、気づいたようだ。
反対側から、巨大なクモが現れた。




