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第190話 世界樹 第一層

前回のあらすじ


こまけぇこたぁ、いいんだよ!!

(やっぱり、この前来た時とは違うぞ……)


 ようやく世界樹を登り始めて、キャフは実感した。

 目にする風景が以前と全く違う。


 塔の内部への入口は見つからず、まずは周辺を覆う木をつたって登り始める。永い月日を経て完全に塔と同化した樹木は殆どが広葉樹で、この季節は落葉している。


 前に来た時は初夏だったから、余計に違って見えるのかもしれない。


 見覚えがない風景なのは、世界樹が広すぎて登っている場所が違うせいもあるだろう。だからキャフの経験は意味をなさない。モンスター生息域に関しては、昔とは言え知識が豊富だったから魔法なしでも冒険をリードできていた。だがここだけは先が見通せず、不安が増大する。


 以前の経験で高くなると温度が低下すると知っているので、1人1人の荷物量は多い。夏でさえ時々一晩で銀世界となる。だから靴も滑り止めの金具を装着済みだ。それに呼吸困難に伴う運動量低下にも要注意だ。


 とにかく焦りは禁物である。一蓮托生にならないよう5人は距離を取り、滑落に気を付けながら登っていく。雪山の登山ほど危険ではないものの、こんな場所で急にトラップやモンスターが出てくるので厄介ではある。


 幸にして、昔はよく襲ってきた鳥系のモンスターはやってこない。

 クムールとの戦争の過程で、モンスター達の生態も変化したようだ。


「浮遊魔法を使って、さっさとあの辺まで行きませんか?」


 ダークエルフ達の戦闘で魔素も体力も消費し、ミリナは辛そうだ。


「言われただろ? 《世界樹》が見てるって。大変だが我慢してくれ」


 キャフに諭されミリナは少し不満そうな顔をするが、黙ってついてくる。申し訳なく思うものの、一刻も早くエルフの王に会いたいキャフは《世界樹》の意思を最優先にしていた。


「あ〜、どっかに土管でもあって、ワープしないかニャ?」

「そんなのある訳……」


 とキャフが言いかけた時、


「土管あるぞ! 来てみろ!!」


 と、キアナが叫んだ。


 もうすでに地上から20メートルは登っているので、落ちないように注意深くキアナが示す場所に向かうと、確かに土管が、《世界樹》の塔から突き出ていた。


「……なになに、『これが近道です! どうぞ!』って、書いてるニャ!」

「トラップに決まってるだろ」

「おい、幾ら何でもあからさま過ぎじゃねえか?」

「逆に、怪しい。本当に近道とか?」

「あり得るぞ。行ってみるか?」


 5人で議論しても、埒が明かない。小田原評定になりそうだ。


「ダークエルフの言葉を忘れるな。行くぞ」


 キャフは誘惑を断ち切って、先を急いだ。

 だがそんなキャフを嘲笑うかのように、そこから土管が何個も現れ始めた。


「行くと良いことありそうだニャ〜」


 と後ろ髪を引かれるラドルを気にせず、上へと登って行く。

 

 だがそれだけでは、済まなかった。



「あ、これ、『最後の土管です! チャンスですよ! いっとく?』って書いてるニャ!」


 ラドルが言うようにその土管は一際目立ち、5人の心を大きく揺さぶった。

 ここまで来るだけで体力の消耗は激しい。温存できるならそれに越したことはない。


「……早く終われば、帰れるしな……」

「きっと《世界樹》も、今までの私たちの善行をちゃんと見てるニャ」

「そうですよね、苦労してますからね……」


 既に若い3人は籠絡されている。

 キャフとフィカがなだめるが、土管の魔力には抗えないらしい。


「じゃあ、ちょっとだけ入ってみて、駄目だったら出てくるニャ」

「いや、おい、出てこられなくなったらどうすんだ?」

「大丈夫ですよ、そんな意地悪なトラップなんて無いですよ」


(いや、意地悪だからトラップなんだが……)


 心配するキャフをよそにラドルはもう行く気満々で、器用に土管をよじ登り中へ入って行った。


「ではキャフ隊長! 行ってまいります!」


 そう言ってすっぽり中に入ったラドルは、「フニャァアアア!!!」の叫び声とともに、消えて行った。


 ……


 耳をいくら済ませても、ラドルの声はもう聞こえない。


 4人とも土管によじ登って覗き込むが、真っ暗で何も見えない。


「……ラドル?」

「ラドルさん?」

「やっぱトラップか…… 惜しいやつを亡くしたな。この死は無駄にしねえぞ」

「いや、殺すんじゃねえ! オレ達も行くぞ!」


 1人の落伍者も出したくないキャフは、ここに至って覚悟を決め、土管の中に入って行った。3人も、後に続く。土管の中は滑りやすく、そのままウォータースライダーのように、4人は暗闇の中を滑降した。


 ウヒョオオォオオ!!

 キャァアア!!


(これ、どう考えても降りてるよな……)


 嫌な予感がするものの、どうすることもできない。

 やがて明かりが見え、出た先は、草原だった。

 4人は勢いそのまま、みなゴロゴロと転がっていく。

 ラドルは、申し訳なさそうに草原で4人を待っていた。尻尾も耳も垂れている。


 怪我はなかったものの、また振り出しに戻った。

 しかも場所が、全然違う。置いてきた馬車も近くには無い。


「ごめんなさいですニャ……」

「まあ、気にするな。ここ、こんなトラップが沢山あんだ。これから気を付けろ」

「分かりましたニャ。次は、引っかからないですニャ!」


 キャフの慰めに気を取り直し、5人は再び世界樹を登り始めた。



「今度も張り紙ニャ。『ここから先は危険、命を粗末にするな』だってニャ」

「こっちにもあるぞ。『身を投げ出す前に思い出せ。ハードディスクの中身は消したか?』って、なんだこりゃ?」


 ラドルとキアナが言うように、今度は『来るな』の張り紙があちこちに貼られていた。


(くそ、めんどくせえな……)


 こんな時シェスカさんがいればと、キャフは思った。彼女は驚くべきほど天性の勘で、こんなトラップを巧みに避けた。この5人では判断能力が乏しく、迷うばかりだ。


(仕方ねえ、行くしかねえだろ)


 キャフは黙って登る。


(? 何だ?)


 やがて、先ほどよりも登った先の枝に何かがいた。

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