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第019話 通魔石(コミュ・ストーン)

前回のあらすじ


ワームの倒し方を教えたら、コロっと態度が変わった若者達。

ま、ウサギ肉食えるから良いか。

「自己紹介遅くなったけど、俺はシドム! 何度も言ったように、アースドラゴンを倒した英雄、ギムの息子だぜ!」

「わたしはアーネ。シドムの彼女なの♡」

「おれはキンタ。シドムとは、昔からのダチなんだ」

「わ、わたしはミリナです。皆さんとは一緒の学校で……」


「オレはキャフ、こいつはラドル、彼女はフィカだ」


 バーベキューが始まった。用意周到に、彼らは味付け用の塩やソースも持って来ている。それぞれの荷物袋の大きさから、長期間の冒険を想定しているようだ。しかもミリナ以外はブランド物の荷物袋だ。裕福な家庭出身らしい。


 最初にあった警戒心もすっかり消え、酒の力も手伝い7人は直ぐ打ち解ける。


「そうそう、ミリナは魔法科で断トツトップなんだよ!」

「え、そんな偶々で……」

「先生達もあんたのこと、百年に一人の逸材だって、いつも言ってるじゃん! だから、このパーティーに入れてあげたんだけど」


「俺らだけじゃ心配だって、オヤジもうるせーし」

「ホント、あんたが信用ないからだよ。ヤンチャばっかりして」

「はい、すんません〜」

「何あやまってんの? おかし〜」


 キャハハと明るく笑うアーネに比べ、ミリナはフードを被ったままお酒を飲まず大人しくお茶を飲んでいた。事情を聞くと、4人ともモドナの南に位置する自治領サローヌの高校二年生らしい。休みを利用して冒険に来たそうだ。


「ここでランク上げて、王都のイデュワ大学に行くんだ! 俺は親父よりデカいことやってビッグになるぜ!!」

「レアアイテムをゲットしたら、更に大幅アップだな! 特待生になれる!」

「やっぱ一発逆転狙わなきゃね〜♡」


 3人は野心満々で、この冒険に来たらしい。


「ミリナさんの目的は?」


 ラドルが聞くと、「わたしは、皆に誘われて……」と小さく答えた。


「魔法使いになるニャんか?」

「は、はい。でもわたしの村は魔法使いより、お医者さんが少なくて、困ってるんです……」


 聞くと3人はサローヌの首都出身だが(首都の名前もサローヌらしい)、ミリナだけはもっと離れた場所にあるというフミ村の出身だと言う。キャフも初めて聞く地名であった。


「医学を究めた魔法使いもいるニャんよ?」

「え、ええ。でもそういった所で学ぶには、お金が必要だから入れないんです……」

「そうか……確かにな……」


 キャフも同意する。


 これも、魔導師に関わる問題の一つであった。


 弟子入りには授業料として金がかかる。その授業料のおかげで魔導師は安定した生活を営めるのだが、才能があってもお金が無い子は弟子になれない。


 学歴とはまた別の面で、魔導師業界が抱える問題である。だがこれも金持ちの子弟で占められる王立魔法学校卒の輩が国を牛耳る現状では、改善の見込みがなかった。


 キャフも平凡な家庭に育ったので、仮に才能の開花が早くても合格は困難だったろう。その点大聖人グラファは、キャフを一目見て特待生として弟子入りを許した。ただ山奥で野生児のような生活だったので、お金が必要なかったのも事実だった。


 今は、魔法杖改良機器を購入する費用に授業料をあてる魔導師が多い。

 だが大聖人グラファのアドバイスでは、自然から学べる事は多いのであった。


「じゃあ、師匠の弟子にはどうニャ?」


 ラドルは、キャフにふって来た。


「え? えぇ…… どうですかね……」


 突然のことに、ミリナは戸惑っているようだ。


「いや、悪いが今は弟子をとれないんだ。身分を剥奪されてな」

「そうなんですか?」 


 キャフは、もどかしかった。大聖人の薫陶を受けた身としては、これだけの才能ある子が魔法使いに入れないのは惜しい。だが追放された身分の今、簡単に弟子はとれない。


「師匠、ホントは偉い魔導師ニャんよ。キャフって名前知ってるかニャ?」

「え? もしかして、あの『誰でもなれる魔法使い入門』を書いたキャフ師ですか?」

「え? 知ってんのか、あの本」


 若気の至りと言うか、アースドラゴン討伐後、一躍時の人となったキャフに様々な仕事が舞い込んできた。執筆依頼もその一つで、若さの勢いで書き上げたのがその本だ。幸い売れ行きは良かったらしい。


「はい、あの本大好きです! 魔法の使い方も分かりやすく丁寧に書いてあって、役立ちました! あれを読んで、わたし魔法使いになろうと決めたんです!」


 急にフードを取って眼鏡の奥にある目をキラキラ輝かせ、別人のようにミリナはキャフに迫って来た。改めて見ると、幼いながら将来有望そうな顔だ。


「特に魔法使いの心得。『魔法使いは心身ともに健康であるべし』、『魔法使いは人の役に立つべし』、『魔法使いは人を恨むべからず』、この言葉はずっと心がけてます!」

「そうか。あ、ありがとう……」


 当時は今も精神を病む魔法使いは多く、啓蒙のつもりで書いた心得だ。

 ちょっと若い時に書いたから、いま聞かされると少し恥ずかしい。


 だがこの事実はミリナの心をがっちり捉えたらしく、キャフに対し積極的になる。周りが飲む酒に酔ったのか、心無しか目もとろんとしてきた。


「ちょっと、ミリナちゃん、師匠はわたしのものニャよ!!」

「え、弟子はいないんじゃないのですか?」

「わたしは特別なのニャ!」

「え、それってずるくないですか?」


 さっきまで仲良しだった空気が、一変しつつある。

 キャフは面倒になりそうなので話題を変えることにした。


「あの石は、フミ村にあるのか?」

「は、はいそうです。鉱山の中に蒼い石が一面敷き詰められていて、とっっても輝いて綺麗なんです! 月光の反射で光るときは感動ものです!」


 一緒に来て下さいと、言わんばかりの顔をしている。


「村の人は、何かに使ったりしないのか?」

「いえ、家の飾り物にしか。そもそも村の人達は魔法に興味ないです」


「そうなのか。発表とかしてないのか?」

「いえ、わたし個人の作品ですから。自分は《通魔石(コミュ・ストーン)》って呼んでますけど」


「お前さん、発表して特許を取ったらお金持ちになるぞ」

「そうなんですか? でも方法が大変そうだから分かんないです…… それよりキャフ師ともあろうお方が、何で魔法使えなくなったんですか?」


 側につきキャフの裾を掴んで悩ましげな目で見つめるミリナの姿に、思わず見とれそうになる。男性に馴れてないのか不用意に近づいて来る様は、あどけなさもあって何とも言えない魅力を感じる。大人しそうに見えただけに、積極的な行動が予想外であった。 



「おいおい、おっさん。何してんの? それでさ〜 良い話があんのよ!」


 酒が回って来たのか、シドムが興奮気味に喋って来た。フィカは彼らの相手をしていたが特に酒乱では無いらしい。また股間を切られないかと怖れていたキャフは安堵した。


「この辺の近くに新しいダンジョンできたんだ! まだ誰も入ってないやつ!!」

「ダンジョン?」

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