第188話 ブラック・キャフ
前回のあらすじ
そっくりさん、現る!
「お前ら、何者だ?」
本物のキャフが黒いキャフに尋ねる。
相手は不敵な笑みを浮かべ、「オレは、魔導師キャフ」と答えた。
「き、キャフは、お、オレだ!!」
「オレもキャフだ」
「う、嘘言うなぁあ!」
「お前こそ」
本物キャフは興奮のあまり声が裏返って、かみまくる。声だけ聞くと、黒いキャフの方が本物らしく思えるのが悲しい。まったく、主人公なんだからもう少し落ち着いて構えて欲しいものだ。
このまま話をしても埒が明かない。
激昂した本物キャフは歯ぎしりしつつ、術式を作動し始めた。
黒いキャフも同じく術式を作動させるが、その姿は至ってクールだ。
着ている魔導服も、魔法杖の形も良く似ている。
魔法杖の輝く具合から、実力も同等か。
貫禄がある分、黒い方が弟子に慕われるだろう。
「超電撃!!」
本物キャフは、一番得意な必殺技を繰り出した。
ドラゴンをも倒せるこの技なら、大抵の相手は瞬殺だ。
先手必勝、一撃必殺、嫌な相手は早めに倒すに限る。
「超超電撃!!!」
「ウォオ!!」
だが信じられないことに、黒いキャフの放った電撃魔法の方が強く、本物キャフは避けきれずにダメージを食らう。間一髪防御魔法をはって何とか一命を取り止めた。
(こりゃヤベえ……)
本物キャフは呆然として、自分の技がいかに甚大なダメージを与えるか身を以て知る。こんなのくらってよく皇子は丸焦げにならなかったなと変に感心したけれど、今さら他人の痛みを知っても黒いキャフに勝てるわけでは無い。回復魔法で黒焦げになりかけた体を元に戻す。
(あっちの方がつええな……)
色の違い以外、黒色キャフがすべて本物キャフを凌駕している。自信にみなぎり高いレベルの魔法を繰り出す黒いキャフに、本物キャフは魔法で抗う手段がなかった。冒険で培った弓矢術も頭をよぎったが、あいにく弓を持ってきてない。絶体絶命のピンチである。
(どうすりゃ、良いんだ……)
本物キャフは他の4人が気になった。
見渡すと大体キャフと同じで、黒い方が押し込んでいる。
「この黒猫が!! あっち行くニャ!」
「お前の方こそ、こっから出ていくニャ」
「ちょっと真似するの止めてください」
「あなたこそ私の真似するの、止めてください」
「おいてめえ何様だ!」
「お前、父ちゃん兄ちゃんに、言いつけようか?」
「うぐぐ……」
「お前、肌の手入れ悪いな。小ジワも酷いぞ」
「あんたの方が、年の割に老けて見えるけどな」
「何ぃ!」
口喧嘩でも、黒い方に勝てていない。
(ちくしょう、どうすんだ、これ……)
本物キャフが攻撃をやめても、黒いキャフは攻撃の手をゆるめない。鏡像のように同じ行動をしないから、幻想魔法で誰かが変装しているか別な仕組みで動いているに違いない。
防御をかけながら、彼らが現れた場所を観察する。
だが世界樹があるだけで、他に仕掛けがある訳ではなさそうだ。
こいつらは自分の意思で動いている。そうなると遠隔操作の操り人形か、擬態魔法の可能性が高い。だが本物ミリナが「魔法解除!!」の魔法をかけても、すかさず黒ミリナが強力な防御魔法をかけて防いでいる。あの動きは人形にはできない芸当だ。
そうすると、導き出される答えは一つだけ。
「お前らエルフだな?」
キャフの突然の声に、黒い5人達は一瞬動きが止まる。
それだけで、十分な答えだ。
「そんなこと無いニャ! 私はラドルにゃ!」
と反論する黒猫ラドルは、明らかに本物より賢そうである。
魔法の威力も本物を上回るし、黒猫姿もなかなか可愛い。
一緒に連れて行きたい誘惑にかられるが、そこはぐっと我慢した。
「なぜ、こんな真似をする?」
「なにボケてんだ、世界樹に入らせないために決まってるだろうが」
黒いキャフが呆れたように言う。
「オレ達は用があるんだ。今、《雷の方舟》っていう古代の兵器が出てきて困っている。ドラゴンスレイヤーを作ってくれた鍛治師、デュダリオーンに会わせてくれ! あいつなら世界を救ってくれる。あんな《雷の方舟》が世界を襲ったら遠からず滅びるぞ」
「やなこった」
黒いキャフは、本物キャフの真剣な願いをすげなく断った。
「《小さい太陽》は、ここからでも見えたさ。久しぶりで綺麗だったな。数千年前、まだ自分も若くてこれも新品だった頃、世界ではあの光が幾つも現れては消えていった。別にいいんじゃ無いのか? お前らが滅んでも、この星は何も変わらない」
(くそっ!)
こいつらには、何を言っても通じそうになかった。
自分達が哀れな境遇にいるからといって、助けてもらえるほど世界は甘く無い。
しかも能力が自分達より上の存在が、キャフ達の願いを聞き届ける義理もない。
(このまま、敗れたら終わりか……)
5人とも勝てそうに無い。持久力も相手が上手だ。
今のキャフには、絶望しかなかった。
「おい、もっとしっかりしろ!」
意識が薄れかけていたキャフに、遠くから声が聞こえた。フィカのようだ。
「アルジェオンを救うんじゃなかったのかよ? ここに行かないと、女王様助けられねえんだろ?」
「師匠、こっちも頑張ってるニャ! 負けちゃ駄目ニャ!」
「キャフ師、みんなで頑張りましょう!」
みな、未だやる気だ。
(そうだった……)
目の前の強大な敵に無理だと諦めかけていたが、他の4人はそうじゃなかった。あいつらの言う通りここを突破しないと、何もかもが手遅れになる。キャフは4人の諦めない姿に刺激を受け、再び攻撃に転じた。
「電撃矢!!」
再び本物キャフの魔法杖から光の矢が、敵目掛けて放たれる。
「また、同じだよ」
黒いキャフが、防御魔法をはる。だがその矢は進路を変えた。
「なに?」
「ぎゃあぁああ!!」
キャフの矢が貫いたのは、黒いキアナだった。
胸を貫かれ、血を流し倒れ込む。黒いミリナが慌てて回復魔法をかけている。
「自分の相手をしてるから勝てねえんだ。相手を変えろ!」
キャフの指示で攻撃対象を変える。自分の上位互換よりも攻撃相性が違うから、さっきよりはまともに戦えるようになった。
逆に今まで有利だった黒い者達は、劣勢となる。




