第186話 ガラクタ置き場
前回のあらすじ
ルーラ女王を助けるためにも、行くぞ!
翌朝、いよいよアジトを離れる時が来た。
未だ森は薄暗く、息が凍るほど空気は冷たい。追求の手がかりになる可能性を恐れ、3人の魔法でアジトを破壊して土に埋める。
保存食も積み込んだので、1ヶ月ぐらいは冒険が可能だ。
「皇子に呼びかけなくて良いのか?」
みな乗り込んで出発という時に、フィカがキャフに聞いた。
ペリン山脈も望めるこの地なら、通魔石でのコンタクトも可能だろう。
今後の旅に関し、有益な情報がもらえるかも知れない。
だがキャフは、「いや、良いだろう」と答えた。
「あいつが時々文句を言ってるように、これはオレ達人間の問題だ。それに、あいつはエルフが苦手なんだ。ドラゴンを倒せる武器は、エルフしか作れないからな」
「そうなのか」
確かにドラゴン・スレイヤーは他の武器とは違う。操り手に応じて自在に変化し、他の剣ではかすり傷すら負わせられないドラゴンをたやすく切り裂ける。あんな剣を人間界で作るのは不可能だ。
シェスカではなくサムエルが持てば、更に威力が増した。
皇子にとって、エルフの技術力は厄介なのだろう。
フィカも納得し、馬に鞭を打ち馬車を発車させる。
ガタガタと揺れる馬車は無骨な軍仕様で、快適な乗り心地とは言えない。フィカとキアナが交代で馬を操り、幌付き荷台には3人が乗り込む。3人は時折幌を少しまくり外を見て、モンスターやクムール軍を警戒した。アジトに住み始めた当初も警戒したものの、誰かが侵入した形跡はなかった。
「キアナ、私たちの行動バレてないと思うか?」
「どうだろう。あのオバちゃんなら見つけてんじゃねえのか」
「そうかもな」
タバコをふかしつつ、キアナがフィカと喋っていたその時、
「あ、ガーゴイルだニャ!」
と、ラドルが叫んだ。指差す先には、悪魔のような顔をした全身灰色のガーゴイルが三匹、上空からキャフ達の馬車を狙っている。それだけいれば一個大隊を一瞬で殲滅できるAランクモンスターだ。
だがキャフ達の力は、既にこのレベルを凌駕していた。
「ラドル、お前だけでも倒せるだろう?」
「はいですニャ、師匠。ファイア・ボム!!」
バーン!!
ラドルが放つ爆炎で、ガーゴイルが一匹瞬殺される。残り二匹は敵わないと判断し、旋回撤退した。この様子を見ていた他のモンスター達もキャフ達の馬車に襲いかかるのを止め、遠巻きに眺めるだけだった。モンスターも、自分より力の強い存在には従順である。
保存食を消費しないため、恐れ逃げ惑うモンスターを積極的に狩る。夕暮れ時テントをはり、狩った灰色魔熊をミリナ達が料理した。寒い夜には鍋があう。
「《世界樹》って、あれですか? 世界の源になった古代生物が沢山いるとか、実は空が世界樹の葉っぱで覆われているとか」
じっくり煮込んだ熊の手を噛みながら、ミリナがキャフに聞いた。
「いや、そうじゃない」
「じゃあ、どんな所なんですか?」
「そろそろ教えてくれよ。軍もあの辺は立ち寄らねえけど、何か秘密があんのか?」
キアナも聞く。
「秘密もそうだが、あそこは色々混乱させられるんだ……」
キャフの答えは、奥歯に物が挟まったような言い方だ。
「混乱?」
「どう言うことだ?」
話づらそうなキャフとは逆に、4人は興味を持ち始める。
「説明がしづらいな…… オレ達が入ろうとした時は前日に戻った」
「前日に戻る?」
4人とも、狐につままれたような顔をした。
「言ってる意味、分かんねえよな。だが、そうなんだ。数日間、毎日毎日入ろうと思っても、前の日に戻されたんだ。何日経ったか覚えてねえが、サムエルが何かをしたら解除されたらしい。何がきっかけだったのか、オレにはさっぱり分からなかった」
「それって、エンドレスエ○トですか? ヤバいんじゃないですか? 毎回『キョンくんで○わー』とかこの小説でやったら、ポイントやpvだだ下がりですよ?」
ミリナの言葉はもっともだ。
「そう言われてもな。とりあえず辿り着くまで、まだまだってこった」
キャフの説明に4人は全く同意できないが、今はこれ以上聞いても無駄なようだ。
道無き道を踏破し、数日が過ぎる。
森を抜けた時、目的地である世界樹がくっきりと見えた。今日は晴空だから遠くまで視認できる。森の中でも一際巨大な樹木の世界樹は、威風を放っていた。馬車を止めて5人は外に出て、世界樹を眺める。
「こんなに大きく見えるなら、もう少しですね」
ミリナが、ホッとしたように言う。
「甘いぞ。オレ達の時もここまで見えてからが長かった。それより、もう少しで《ガラクタ置き場》だ」
「なんですか? その《ガラクタ置き場》って?」
聴き慣れない言葉に、ミリナがキャフに尋ねた。
すると代わりに、ラドルが答えた。
「ミリナちゃん、知らないのかニャ? 魔法使いの基本、術式の宝庫ニャ!」
「宝庫? 行ったことあるの?」
「……無いニャ。先輩の受け売りニャ」
ラドルは先輩魔法使いとして、見栄をはりたかったらしい。
「まあ、ラドルの言うことはあってる。術式をカスタムメイドする為の石が沢山あるんだ。上位の魔法使いはここに来て魔法のアップグレードをするのが普通だ。お前の魔法力もアップ出来るぞ」
キャフがフォローして、説明を加えた。
「そうなんですか」
「ただ、かなりの知識が無いと駄目だ。オレもアドバイスしてやる」
「ありがとうございます」
再び馬車を走らせると、森から不毛な沼地に入った。植物も苔ぐらいしか生えていない。
それよりも鼻をつく異臭が際立つ。5人ともマスクをつけた。
「何だか、嫌な匂いがするな」
「《ガラクタ置き場》だから仕方ない。毒ガスもあるらしい。場所によっては命を落とした魔法使いもいる。あと青白く光る石には気を付けろ。あれに触って気が触れた魔法使いが何人もいる」
「遠回りできないのか?」
「残念ながら世界樹の周りは全部こんなだ。飛行魔法も発動できない。方位磁石も狂うから何かあるんだ」
「仕方ないな」
止むを得ず馬車は、不快な沼地を抜けていく。
すると、幾つもの丘が見えてきた。
「ふわ〜、やっと着いたニャ」
近づくとそれは、巨大なゴミの山であった。
更に近寄ると見たことのない魔法石が沢山埋れている。
何に使っていたのか分からない、加工された金属も沢山あった。
今の人間には作れない物ばかりだ。
「ホントだ。術式に組み込めそうな面白い石がいっぱいありますね」
馬車から降りたミリナは、興味深そうにガラクタの中に入っていった。変わった石を見つけては、魔法杖に組み込んで使えるか試している。
元々魔法が好きなミリナだから、ここは遊び場にもってこいの場所であった。気付くと1人で勝手に奥へと消えていた。キアナとフィカが馬車を守り、他の2人もガラクタの山へと入って行った。
しばらくは魔法石の採取で時間が過ぎる。だが、
「キャーー!!」
と突如、遠くでミリナの悲鳴がする。ガラクタの山に囲まれて見えないから何事かと思い、キャフとラドルが声の方向に行ってみる。
すると、魔法石を全身に纏ったスライムのような塊の化け物がミリナに襲い掛かろうとしていた。
ミリナは地震系の魔法で応戦するが、相手は動じていない。
「師匠。これ何ニャ?」
「《ガラクタ置き場》の守護兵だ。手強いぞ」
キャフはそう言うと術式を唱え始めた。




