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第184話 逢瀬

前回のあらすじ


魔導師キャフ、豹柄のおばちゃん達に阻まれ、特売会場を後にする。

「キャフ師、お帰りなさい。いっぱい買ってきたです〜」

「酒もタバコもあるし、これでしばらくしのげるぞ」


 夜、寒さに震えながらキャフがアジトに戻ると、暖かい部屋には沢山の買い物袋が置かれていた。買って来た食材をふんだんに使った夕食も豪華で美味しそうだ。4人はテーブルを囲んで既に食べておりお酒も入り楽しげで、イデュワを満喫したようである。


「で、何か情報あったか?」


 キャフの言葉に4人ともハッとし、気まずそうに下をむく。


「……すいません、買い物に夢中で……」


 予想通りだったので、キャフは気にもしていない。


「まあ良いさ。オレの分もあるか?」

「もちろんですニャ!」


 キャフもテーブルにつき、一緒に夕食をとる。ラドルが釣ったのか、川魚の唐揚げが沢山あった。加えて牛ヒレステーキ。こんな厚い肉を食べるのは久しぶりだ。お酒も入り体が熱くなる。久しぶりに白米を堪能できるのもありがたい。


「それよりお前ら、指名手配の似顔絵は見てねえのか?」

「あー、あったニャ! あまりに違い過ぎて笑ったニャ!」

「私もです。声かけられた時ヒヤッとしましたが、ナンパでした」

「おい、ミリナ、気を付けろよ」

「大丈夫ですよ、もうなれました」

「私には誰もこなかったな」


 不満そうなフィカの顔に3人は爆笑する。

 キャフが予想した反応とは違うが、まあ良いだろう。


「キアナは指名手配されてないから偵察を頼む」

「あいよ。やっぱり戦争終わったせいか、軍関係は静かなもんだな。誰もいなかったぜ。あいつら、またあこぎな商売に戻ってるんじゃねえか」

「そうか。オレはマドレーに会ったよ」

「お、どうでした?」


 先ほどの反省も何処へやら、キャフに注目が集まった。


「やはり城内は権力争いで大変らしい。ルーラ女王が退位するとか揉めてるんだ」

「マジかよ!」

「ルーラ様、大変ですね」

「こっち来たら良いのにニャ」

「無理言うな。冒険に連れて行くわけにもいかないだろう」

「……それもそうだな」


 4人とも、やはりルーラ女王の行末が気になるようだ。クムールの狙いを思うと、穏便に済まされるとは思えない。退位してもこっそり暗殺されるか軟禁生活だろう。その後も話が弾み、夜が更けていった。


 翌日も、イデュワを中心に活動する。



 数日後、マドレーから通魔石を介して連絡が来た。『武器の調達できました』と言うので、アジトまで持って来させる為に、キャフは場所を連絡する。都合のついた翌々日、軍用馬車でやって来たマドレーは以前と変わらない姿で4人も喜んでいた。


「皆さん、思ったよりお元気そうですね」

「マドレーさんも無事で安心しました」

「お城を守れるのはマドレーさんしかいないから、頼みますニャ!」

「お前だけが頼りだ、頼むぞ」

「ええ、皆さんのお帰りをお待ちしていますよ。それで武器ですが、フィカさんにはこれです」


 そう言って差し出された剣は、フィカにちょうど良い大きさの白金の剣だった。近くにあった大木を試し斬りすると、一撃でザッと真っ二つになる。


 木が自分たちのほうに倒れてきたので、5人は慌てて逃げた。

 これなら、Aランク以上のモンスターも相手にできそうだ。


「軽いが丈夫だな」

「はい、《ガラクタ置き場》で取れた特殊合金製です。丈夫なので刃こぼれしませんよ。キアナさんにはこれを持って来ました」


 マドレーがキアナに渡した物は、奇妙な筒だった。

 引き金が下に取り付けられ、後部にも何か入れる場所がある。


「僕の発明品なんですけどね、《銃》って呼んでます。こうやって使うんです」


 そう言って、マドレーは筒を肩にかけ、後ろから小さい鉄の玉を入れると、少し離れた木に狙いを定め引き金を引いた。


 すると、ドォーーン!! と大音響がして火花が飛び散り、狙った木には大きな穴が開く。木は反動で揺れ、鳥達がギャーギャー鳴きながら飛び立っていった。


「何、今の?」


 キャフも含め、5人は目を丸くして驚いた。


 大砲は見たことがあるがとても重くて大きく、このパーティーでは持って行けない。魔法ではない、こんな威力のある小型の武器は初めて見た。


「火薬の力で、物凄い速く弾を飛ばすんですよ。これをここに入れて、火薬を詰めるんです。そして狙いを定めて、引き金を引いてください」


 撃ち方を教えると、キアナは銃の反動によろめきながらも直ぐに覚えた。


「弾もここに沢山あります。畜魔石入りですから、キャフ少将やミリナさんラドルさんが魔素を込めれば、魔法の威力も加わります」


「かっこいいな、助かるぜ」

「へえ〜 凄いですニャ」


 ラドルは弾を取って、まじまじと見つめた。他の3人も興味深そうに触ってみる。

 マドレーは更に、防寒服などの冒険に役立つ道具や保存食なども持って来た。


「世界樹の上まで登るんですよね? とても寒いと聞いたので」

「そうなんだ。助かる」


「喜んでくれて何よりです。じゃあそろそろ帰ります。それで実はルーラ女王ですが…… キャフさん1人で来て欲しいそうです」

「そうなのか?」


 誘いがあれば5人で行こうと思っていたから、意外な申し出であった。


「やはり今は、あまり人に会いたくないそうです」

「そうか、悪いな」


「師匠、よろしく伝えてニャ」

「キャフ師、ここは見せ所ですよ」

「まあ、期待しないで待ってるぞ」

「お菓子、もらって来てくれ」


 4人に見送られながらキャフはマドレーの馬車に乗り、レスタノイア城へと向かった。


「世界樹、無事に帰って来れるんですか?」


 馬を操りながら、マドレーは隣に座るキャフに尋ねる。


「……正直、分からん。あの時は勇者サムエルがいたからな。オレやギムは付いて行っただけで大した役割はなかった。エルフの言う五合目までしか行ってない。頂上に辿り着き、ドラゴンスレイヤーを貰って来たのはサムエルだ。何を見たかは最後まで話をしてくれなかった」


 キャフは不安であった。行き方はある程度覚えている。だがエルフとのコンタクトも賭けであるし、《雷の方舟》に対抗できる武器が手に入るのかは、キャフにも分からなかった。


「そうですか」

「まあ、やるしか無いだろう」


 夜のレスタノイア城は以前と変わり無かった。

 馬車をいつもの入り口前に止めると、マドレーは降りて入り口の鍵を開ける。


「お疲れ様です。今日は僕も行きません。ここから先は1人でお願いします」

「わ、分かった」


 マドレーの馬車が離れていく。1人で行くとなると少し心許ない。

 場所は覚えているので、キャフは女王の部屋へと向かった。

 わずか数日だが、冷んやりした廊下は前よりも埃っぽく感じる。


 見慣れた扉をノックをして入ると、ルーラ女王が椅子に座って待っていた。

 ネグリジェでもドレスでもなく、普段着だ。

 テーブルには、いつものように紅茶のセットとお菓子が用意されている。

 暖炉には火がくべられ、ちょうど良い暖かさだ。


 キャフはコートを脱ぎ、椅子に座る。


 改めて部屋を見渡すと、以前は大勢いたメイドも2人しかいない。


 その彼女達も「ご苦労。もう下がって良い」と女王が命じ、部屋を出て行った。調度品の数は少し減ったようだ。


 2人だけになった。考えてみると、初めてかもしれない。

 キャフは緊張する。


「今日はありがとうございます。お茶をどうぞ。私が入れるのは久しぶりなのですが」


 ルーラ女王は立ち上がってお湯の入ったティーケトルを暖炉から持ってくると、ポットにお湯を通し茶葉を加え紅茶の用意を始める。


 手際よく茶漉しを使い別のポットに紅茶を入れ、2人分をカップに注ぎ一方をキャフに渡した。女王から直接手渡されるとは思わず、キャフはオドオドしながら温かいカップを受け取った。相変わらず良質な茶葉で香りも良い。


 少し緊張気味であったキャフも、リラックスする。


「紅茶どうですか?」

「あ、美味しいです」


 キャフが素直に言うと、ルーラ女王は微笑んだ。


「作法は一通り習ったのですけどね。普段はメイドまかせだから不安でした」

「メイドのより美味しいぞ」

「ありがとうございます」


 それ以上言葉を交わすこともなく、お茶を飲みお菓子を食べる。

 みんなと食べる時とは、違う味がした。


「お菓子、彼女達にも持って行きますか?」

「え? 良いのか?」

「ええ。本当は会いたかったのですけど、やはり今はちょっと……」


 そう言うとルーラは寂しげな顔になる。


「ありがとう。あいつらも喜ぶよ」

「そうですか。よろしくお伝えください。今日はありがとうございます」


 改めてキャフの顔を見て礼を言うルーラ女王の顔は、先ほどより温和だった。急にヒステリックになったらと内心怯えていたキャフは、その顔で一安心する。


「すいません、私の力が足りずに。私の預かり知らないところで指名手配されていました」

「いや、そんなもんだ。慣れてるよ」


 苦笑いするキャフに、ルーラの気分も少し落ち着いたようだ。

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