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第183話 偶然の再会 ※

前回のあらすじ


秘密基地を作って、イデュワへ潜入!

「うわっ、ひっでえもんだな」


 たった一日の不在で、イデュワは変わった。


 至るところに、人相悪い4人の似顔絵が貼られている。『一人でも見つけたら、一万ガルデ!!』と、ご丁寧に賞金付きだ。ラドルなんか化け猫みたいで、あまりにも本人と違い過ぎる。親兄弟が裏で手を回したのか正規軍人だからか、キアナは入ってない。


(あいつらも、これ見て発狂してんだろうな……)


挿絵(By みてみん)


 裁判のとき散々やられたキャフは今更という感じで気にならず、じっと見る余裕もでてきた。似顔絵のキャフは悪人らしく顔が引き締まっていて、逆にイケメンに見える。キャフは心の中で笑ってしまった。


 とにかく捕まらずにいれば何とかなる。今は冬だから、帽子をかぶってコートを羽織れば誰か分からないだろう。実際店に入ったりエミュゼ通りを歩いても誰もキャフに気付く様子はない。時折尾行が気になって周辺を見渡すものの、怪しそうな人影はなかった。


挿絵(By みてみん)


 こうして日中のイデュワを歩くのは久しぶりだ。イデュワに来た時は既に魔導師としての地位を確立していたキャフは、ラドル達のように気軽に街中に出歩く習慣はなかった。それに以前のように人生終わりといった状況ではない。なので普通の気分で出歩ける体験は新鮮だった。


 王都と言えども、モンスター生息域から遠く離れたこの地に武器を売っている店は見つからない。馴染みの魔法道具屋はあるが、軍の手が回っている可能性もあるので行かない方が無難だ。せめて日用品を手に入れようかと、商店街であるバナン通りへと向かった。


 近道をするために路地裏に入る。エミュゼ通りなどの大通りは既に修復され活気を取り戻したけれど、一つ路地に入るとあの隕石攻撃を受けて破壊され燃えた建物が未だある。更地も多く、やはり深い爪痕を残していた。


 辿り着いたバナン通りには沢山の店が立ち並び、平日にも関わらず買い物客で賑わっている。早速『戦争講和記念セール実施中!!』と言うのぼりが、デフォルメされたルーラ女王のイラスト付きで至る所に立っていた。売り場にごった返す人々の表情はどれも明るい。やはり戦争が終わった安堵感からなのだろう。キャフはその様子を見て複雑な気持ちになった。


 この時間の買い物客は主婦層が多く、キャフみたいな男は目立つ。

 ジロジロと見られ、これはこれでマズいと気づく。

 キャフは二、三軒のぞいただけで早々に立ち去った。


 レスタノイア城にも行きたいが、流石に身バレしそうで危険だ。

 キャフ邸にも、いつ兵士が来るか分からない。

 こうして見ると、頼れるアテがないと気づくキャフであった。


 当初の目的も忘れてぶらぶらと散策する。

 3人からの連絡は未だない。


 小川を見つけてこんな場所があったんだと思い、川沿いに歩いた。

 小さな子供と母親が、川辺にある公園でボールを使って遊んでいる。


 無邪気な笑顔に癒されながら歩いていると、前方から派手な原色衣装でサングラスをかけ帽子を目深に被ったマスク姿の、怪しい男がやって来た。背丈はキャフより小さい。だがその気配は一般人では無く、油断ならない風貌だ。


(敵か?)


 キャフは身構え、コートの裏に仕込んだ魔法杖を見えないように起動させた。

 周りにいる親子たちを巻き込みたくない。細心の注意を払う。


 相手は、キャフを意識しているのか分からない足取りだ。単にキャフの取り越し苦労かも知れない。逃げるのも不自然なので警戒しつつすれ違ったその時、急にガッと腕を強く掴まれた。咄嗟に魔法発動を試みる。


 が、


「キャフさん? 僕ですよ」


 サングラスとマスクを外したその姿は、マドレーであった。


「何だお前か。今、大丈夫なのか?」


 キャフは今までの緊張が解け、どっと疲れが出る。


「ええ、そこのベンチで話しましょう」


 川縁にあるベンチは見晴らしがよく、誰かいたら気付きやすい。

 だがその格好では逆に目立つじゃないかと、つっこむのをキャフは我慢した。


「お前、こんなとこに来るのか?」

「え? ああ、親の家が近くにあるんです。僕はこの辺で育ったんですよ」

「そうなのか。良い場所だな」

「ありがとうございます」


 偶然とは言え、この川に立ち寄って幸運だった。


「それでどうだ、城の様子は?」

「大変ですよ。一夜にして権力が逆転ですからね。タージェ評議員長が頑張っていますが、やはりリル皇子一派の盛り返しが半端ないです」


 予想された事ではあるものの、マドレーも疲れているようだ。

 身分がない今のキャフでは、城内の政治には手助けできない。

 もどかしいが、今は最善を尽くすしかない。


「クムールの講和使節はどうなった?」

「外相は帰国しましたが、残りの使節団がそのまま止まっています。早速リル皇子の命令で大使館ができました。後は軍隊の停戦処理です。武器の放棄も含まれます。折角作った攻城兵器も破棄しろと言われましたよ」

「そんな条件を受け入れるのか? 負けた訳じゃないだろ?」


 キャフは、驚いた。 


「バカなんですか? 向こうの提案を受けたのですから、こっちの立場は弱いんですよ。それに《雷の方舟》の威力は絶大です。議員達はあの姿を恐れて言われるがままです。ルーラ女王も講和を受諾した手前、何も言えません」

「だから徹底抗戦すべきだったんだ……」


 敗北と共に、今までの努力が全て無意味となる。それに古今東西を問わず戦争は情報戦であり、広告戦だ。戦争せずに勝った勝ったと言い続ける国に、歴史は書き換えられてしまう。このままではアルジェオンの未来も危うい。


「ルーラ女王はどうしている?」


 キャフは、一番気になることを尋ねた。


「……それが……」


 マドレーは、言いづらそうであった。嫌な予感がする。


「責任をとって退位すると言ってます。修道院に籠るとか」

「ちょっと待て、それは本気なのか?」

「……説得しているのですが、気落ちしています。あなたしか頼れる方は居ないのです」

「そうか……」


 キャフも返答に窮した。ちょっとヒステリックなのは怖いけれど国の為に全てをなげうつ様は、尊敬に値する。彼女の心情を思うといたたまれない。何とかしてやりたい。


「まだ会うことは出来るのか?」

「そうですね。リル皇子が早く退位を迫っていますが、未だ大丈夫です。僕も行く用事があるので、聞いておきます。通魔石で連絡すれば良いですね?」

「ああ、助かる。それに武器が必要だ。工面することは出来るか? 可能なら《ガラクタ置き場》の金属で作った武器があると良いんだが」

「《ガラクタ置き場》? ああ、《世界樹》の側にあるあそこですか?」

「そうだ」


 マドレーは、キャフの言葉で全てを察したようだった。


「つまり、《世界樹》の為に必要なんですね? 《世界樹》も《ガラクタ置き場》も同じなんですか?」

「そうだ。これは口外するなとエルフから言われている。《世界樹》の正体も、だ」

「そう言うことか。みな遠くから眺めるだけだから気付いてませんけどね。分かりました。僕が設計した未発表の武器が武器庫に放ったらかしなんで、探して来ます」

「ありがとう、助かる」


 こうして2人はベンチを離れ、別々の方向へと歩いて行った。

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