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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第十二章 魔導師キャフ、雷の方舟に遭う
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第178話 焼け跡

前回のあらすじ


核兵器!? マジかよ!!

 一瞬で、何もかもが消えた。

 この壮絶で悲惨な状況を、キャフ達は上空から眺めるしかなかった。


 粉塵が少しおさまり風で土煙が飛ばされて、ようやく街の様子が分かる。


 それは絶望の風景でしかない。

 昨日まであった明るく陽気なモドナは、地獄になった。


 今まで様々な修羅場をくぐり抜けて来た7人もこんな死の姿を見るのは初めてで、終始無言となる。


 この凄惨な風景を尻目に、雷の方舟は悠々とクムール方向へ飛んで行く。追いかけたいが、倒せる力もない。それより生存者を助けるべきだ。


 キャフ達は防御魔法をかけつつ、高度を下げた。

 マドレーとギムが率いる軍隊も見える。

 混乱しつつも、二、三部隊がモドナに来るようだ。

 

 強固だった壁も吹き飛び、瓦礫の山となっていた。

 だから、侵入は容易だ。


 ここが以前どこであったのか見当もつかないほど、変容した地に降り立つ。主だった建物は、残酷に吹き飛び見たこともない形に変容している。至る所が燃えており砂埃や真っ黒な煙が酷く、防御魔法を解除するのは危険であった。


 先ほどまで人であった物達が、あちこちに横たわっている。

 火傷や衝撃で、五体満足の遺体を探す方が難しい。

 アトンでの戦闘が可愛く思えるほど、悲劇的なな光景であった。


「あれ、凄え威力だったな……」


 今見ている風景が現実は思えないキャフが、ボソっと呟く。


「まだ、生存者がいるはずだ。助けよう」


 マスターの言葉にハッと気を取り直し、救護活動を開始する。


 だが爆心地周辺は死体ばかりで、被害が激しい。かなり離れてようやく見つかる。それでも男女の区別もつかないほど火傷が酷く、キャフとミリナの治癒魔法でしか改善できなかった。


 今までの戦闘で魔素をかなり消費したので、1人1人に使える量は応急処置レベルだ。それに瓦礫で道が埋まり、歩くだけでも疲労が溜まる。7人の活動にも限界があった。


 道具や薬がないから、あとから来る救護兵に任せるしかないだろう。

 とにかくできる限り、クムール兵もモンスターも、命が残っている者達を等しく救助した。圧倒的な死の前には、敵味方の別など意味がない。みなキャフ達に感謝し涙する。


「キャフ少将、ご無事でしたか」

「おお、マドレー大佐。大丈夫だったのか」


 マドレーも、モドナへとやって来た。兵士たちは粉塵を避けるためマスク姿だ。余っているマスクを譲ってもらい7人も着用する。雲は黒く、まだ視界は悪い。


「ええ。あの飛行物体を見て進軍をかけましたが、幸いまだ距離が遠かったので、被害は少なくて済みました。あの壁が衝撃を和らげてくれたようです。とにかく救護兵と工作兵を派遣して、最小限の復旧を試みます。しかし、あれは何だったのですか?」

「あれが、《(いかずち)方舟(はこぶね)》だ」


 その言葉に、マドレーは驚いた。


「あれが? 彼らが見つけたのですか?」

「いや、正確にはオレ達が見つけて、あいつらに奪われたようなもんだ。あれが何かを知っていれば、もう少し違った対応もできたのだが」

「そうでしたか…… 仕方ないですね。最善を尽くしましょう」

「そうだな」


 ここで休むわけにはいかない。


 その後はギムも合流し、とにかく生存者の保護と病院や仮説住宅の建設を最優先に活動を続ける。マドレーが全体を管理してくれるが、やる事は多い。


「俺達は、軍隊には馴染めん。別でやらしてもらうぜ」

「ああ、そうか。あんたらのおかげで助かったよ。軍に言っておくから、何かあったら何時でも来てくれ」

「ありがとう」

「マスターもカロンさんも、元気でニャ」

「また店に行くから待っててくれよ」

「私もまた行きますね」

「私もだ」

「皆さんありがとう。お元気で」


 こうしてマスターとカロンは、去って行った。

 彼女達も、中隊長としての持ち場につく。


      *    *    *


 一方、ここは帝都シュトロバル。

 事前の通知もあって、帝都民が大勢広場に集まっていた。

 アルジェオン国民達より、身なりは貧しく体も細い。


「あ、何か来るぞ!」

「あれが、そうなのか?」

「すげえ、でけえ!!」


 初めは小さな点であった《(いかずち)方舟(はこぶね)》が近づいて来て全容を現した時、その大きさに人々は驚いた。


 人は誰でも、自分を超えた存在に憧れる。

 あれが自分達のものである事実に狂喜乱舞していた。


 予めしつらえていた壇上に皇帝ラインリッヒ三世が上がると、演説が始まった。スピーカーは無いが、よく通る声だ。イケボの部類に入るだろう。容姿も端麗で、皆が皇帝に忠誠を誓うのも良く分かる。背後で『《(いかずち)方舟(はこぶね)》が上空で待機する様は、まさに今のクムールの勢いを体現していた。


「帝国民の諸君! 喜ぶがいい。我々は古代の偉大な兵器を手に入れた。これであのモドナの街が一瞬にして灰になったぞ」


 ウワーー!!

 皇帝陛下、ばんざーーい!!!!


 歓喜の声で、広場が一体となる。


「今少しの辛抱だ。そうすればあの豊なアルジェオンは再び我が領土となり、我々はあの愚民を奴隷として皆が何一つ不自由しない生活を送れることを、ここに約束する」


 バンザーーイ、バンザーーイ!!!!!


 狂気にも似た歓声がこだまする中、《(いかずち)方舟(はこぶね)》が下降し、広場に着陸する。ハッチが開くとシェスカとジクリードが現れ、帝都民の声が一層大きくなる。


 やはりジクリードは一回り以上大きく、自然と道ができる。

 2人は壇上に上がり、ラインリッヒ三世にひざまづいた。


「良くやってくれた。これでこの戦争も終わるだろう。もう少し頑張ってくれ」

「御意」

「皇帝陛下の仰せのままに」


      *    *    *


 モドナの復旧作業は、冬になるまで続いた。

 幸い、クムール軍からの反撃はなかった。


 王都へも連絡をし女王からの帰還要請もあったが、現場の仕事は終わらない。女王も実情を理解しているのだろう。何も言ってこなかった。

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