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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第十二章 魔導師キャフ、雷の方舟に遭う
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第177話 小さな太陽

前回のあらすじ


うわ! 地面から何か出て来た! UFO?

 巨大な円盤型の飛行物体である(いかずち)方舟(はこぶね)は、厚い雲を切って浮遊上昇する。早朝のとんでもない出来事に、モドナの市民達は何が起きたのか分からないようだった。無事だった人々は空を見上げ、この禍々しい円盤の出現に恐怖している。


 操縦席に乗り込んだ2人はご満悦である。


「ホント、坊やさまさまね。あの子のおかげでやっと見つかったし。おまけに起動もしてくれて、私達が勝てそうなんだから。あの時アースドラゴンを殺ってくれた時と良い、あの子には感謝しなきゃ。ねえ? ジクリード?」

「そうですな。見つけ出せず面目ない」

「まあ、そんなものよ。あの子の運命がそうさせてるんでしょ。ホントいるのよねえ。正義感ぶって頑張ったら逆の結果しか出ない子って」


 恐縮する大男をシェスカは咎めず、むしろからかっていた。

 複雑なパネルを見て、レバーやボタンを操作し始める。


 書かれている文字は読めないが、絵や記号で感覚的に操作が可能だ。


 試しに旋回して飛んでいるキャフ達の方に向かう。

 キャフ達は蜂のように周辺を飛び回り(いかずち)方舟(はこぶね)に向けて攻撃を繰り出すが、全くダメージを与えられない。


「しかし武人でも空を飛べるとは。足元が揺れて、気分良いものではないですな」


 不安そうな顔をしているのは、シェスカに咎められただけではないらしい。ジクリードにとって、初めての空だった。雲が下に見えるのも不思議な感覚だ。冒険で鳥系モンスターに乗る経験があったシェスカは、全く怖がってない。

 

「じき慣れるわよ。それよりあの子達を殺さなきゃ」


 シェスカは、ボタンの一つを押した。

 すると魔法とは違ったタイプの光の矢が、キャフ達を目掛けて撃ち放たれた。


 ピッ、ドガーーーン!!


 防御魔法をかけているので直撃は避けられたものの、防御力が著しく低下した。かなりの威力である。あと二、三発撃ち込まれたら破られそうだ。


「こりゃ、ヤベえな」


 キャフは焦っていた。ミリナやラドルも魔法で応戦するものの、方舟が纏う金属は全く無傷でノーダメージである。魔法の世界と異なる機械の登場に7人は戦慄していた。


「なんか弱点はないのか?」

「こんなの初めて見たんだ。知らねえよ」

「師匠、何とかするニャ!」

「こんな時のイキり師匠なんじゃないですか?」


 ミリナにそう言われても、圧倒的な差にキャフもどうすれば良いか分からなかった。


(逃げた方が良いのか?)


 だが眼下にはモドナ市民が取り残されている。無下に出来ない。

 それに遠くでは、マドレー達の待機する森やギムのいる南方で軍が動き始めたようだ。この舟の出現は彼らにも見えている。今ここで逃げるわけにはいかない。


「物理攻撃の方が効くんじゃないのか?」


 マスターがキャフに聞いた。


「あの舟に飛び乗るから、近づいてくれないか。カロンと2人でやるぜ!」

「はい!」


 2人の決意を聞き、キャフやキアナも参加すると言い始める。


「いや、お嬢ちゃん達は怪我すると危ねえ。ここでじっとしてな」

「カロンさん、怪我は大丈夫ですか?」

「ミリナさん、ありがとう。おかげですっかり元どおりです」


 そうこうするうちに、光線銃をかい潜りながらキャフ達は舟の上部に接近する。


「じゃあな!」

「皆さん、お元気で!」


 まるで今生の別れの如く、2人は舟の上に跳び移った。

 風圧で飛ばされそうになるも、うまく指を引っ掛けて進んでいく。


「カロン、大丈夫か?」

「はい、マスター」


 飛ばされないように匍匐前進(ほふくぜんしん)で慎重に進む。中に入れるハッチも鍵がかけられて入れない。苦労しながら、やっとエンジン部らしい箇所まで進んで来た。ここなら破壊出来るかもしれない。


 だがその動きは、内部の2人に気付かれてしまった。

 

「何だか、虫がついたようですな。始末してきます」

「大丈夫かい?」

「武人は、地に足つけて動く方が戦いやすいですからな。円盤の上など造作もない」


 鬼武将軍ジクリードはハッチを開けて、上部に出た。彼のような巨躯にとっては、これしきの風はそよ風でしかない。しっかりした足取りで2人に近づく。


「カロン、来たぞ! さっきの大男だ」

「分かりました!」


 ジクリードの登場で、2人はエンジン部よりも彼の方を向いた。


 ジクリードは投擲用の斧を装備している。彼らに狙いを定めると、片手で大きく斧を振り投げた。すると鎖のついた斧の刃だけが外れ、2人目掛けて勢いよく飛んでいく。


 ガキーン!


 風圧で動きが鈍ったおかげで2人は何とか回避し、斧の刃は舟の表面にぶつかる。ジクリードは鎖を引っ張り回収すると、再び柄を振って刃を投げつけた。かわす2人を嘲笑うかのように、ジクリードが繰り出す斧刃が何度も襲いかかる。直撃は避けるものの、何度か斬られダメージを負う。


「これじゃ、あの動力部まで行けねえな。とにかくこいつを壊して、落とさにゃならん」

「はい、マスター」


 ジクリードの妨害で動力部の破壊は無理と悟った2人は、足元を斧やハンマーを使って壊し始める。だがこんな至近距離で力を込めて振り切っても、ヒビも入らない。本当に頑丈だ。


「無駄だ、お前達。そんな力でこの舟は壊れん。諦めろ」


 ジクリードは勝ち誇った顔で、2人に近づいてくる。

 圧倒的に不利な状況だ。打つ手がない。


「参ったな、連れてきてすまねえ」

「マスター、気にしないで下さい。あの船から救って貰った時から、俺はマスターと一蓮托生です」

「言うようになったな、あのガキが」


 2人が死を意識したその時、通魔石からキャフの声が聞こえた。


『2人とも戻ってこい!! あいつの反対側、右方向に走り切れ!!』


 2人は指示を受け、円盤の端まで一気に走り出した。

 スピードを上げすぎだ。このままでは確実に落ちる。


「死ぬ気か?」


 ジクリードは疑問に思ったが、彼ら2人はそのまま空中にダイブした。


 ヒュー〜


 ドスン!

 ドン!


 予測通り下にはキャフ達の雲が構えていて、無事飛び乗る。


「ふっ、仕留め損ねたか」


 ジクリードは再びハッチを開け、中に戻った。


「大丈夫ですか?」

「すまねえ、やっつけられなかった……」

「良いんですよ。未来少年コ○ンのギ○ントじゃあるまいし、一話で墜落したら面白くないじゃないですか」

「……そうだな」


 だが《(いかずち)方舟(はこぶね)》の真の力は、これだけではなかった。


「すいませんん、逃しました」

「ああ、良いよ。しかしホント、うるさいハエだね。これが良いのかな?」


 ドクロマークが描かれたいかにも危なそうなボタンを、シェスカが躊躇いもなく押す。すると下部の扉が開き、禍々しい黒い爆弾が投下された。


「あら、何か落ちていくね」


 無邪気に、シェスカは笑っていた。


「何か出てきたぞ。落ちていく。爆弾か?」

「あんなの、見たことねえ」

「何が起きるんですかニャ?」

「壊しますか?」


 だがミリナやラドルの攻撃を嘲笑うかのように、その黒い爆弾はモドナへと落下する。


 そして……


 ピカッッッ!!!


 それは小さな太陽のようで、目が眩むほどの光を放った。

 人々は数秒後の自身の運命を知らず、何も出来ることはなかった。


 ドッドーーーーーーンンンン!!!!!


 小さな太陽はモドナを全て包み込み、さっきまで街だった場所が、爆風で何もかも吹き飛ばされ、炎と煙で見えなくなった。まるでおもちゃの街が壊れたかのようだ。


 その凄まじい威力を受け、雷の方舟やキャフ達は更にぶわんと浮き上がる。

 もくもくと立ち上るキノコ雲が、巨大な悪魔のごとくキャフ達を見ていた。


「これが古代世界を滅した《小さな太陽》なんだ! すごいすごい! これで私たちの勝ちね♡」


 (いかずち)方舟(はこぶね)の圧倒的な技術に、シェスカは恐るどころか完全に魅了されていた。

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