第177話 小さな太陽
前回のあらすじ
うわ! 地面から何か出て来た! UFO?
巨大な円盤型の飛行物体である雷の方舟は、厚い雲を切って浮遊上昇する。早朝のとんでもない出来事に、モドナの市民達は何が起きたのか分からないようだった。無事だった人々は空を見上げ、この禍々しい円盤の出現に恐怖している。
操縦席に乗り込んだ2人はご満悦である。
「ホント、坊やさまさまね。あの子のおかげでやっと見つかったし。おまけに起動もしてくれて、私達が勝てそうなんだから。あの時アースドラゴンを殺ってくれた時と良い、あの子には感謝しなきゃ。ねえ? ジクリード?」
「そうですな。見つけ出せず面目ない」
「まあ、そんなものよ。あの子の運命がそうさせてるんでしょ。ホントいるのよねえ。正義感ぶって頑張ったら逆の結果しか出ない子って」
恐縮する大男をシェスカは咎めず、むしろからかっていた。
複雑なパネルを見て、レバーやボタンを操作し始める。
書かれている文字は読めないが、絵や記号で感覚的に操作が可能だ。
試しに旋回して飛んでいるキャフ達の方に向かう。
キャフ達は蜂のように周辺を飛び回り雷の方舟に向けて攻撃を繰り出すが、全くダメージを与えられない。
「しかし武人でも空を飛べるとは。足元が揺れて、気分良いものではないですな」
不安そうな顔をしているのは、シェスカに咎められただけではないらしい。ジクリードにとって、初めての空だった。雲が下に見えるのも不思議な感覚だ。冒険で鳥系モンスターに乗る経験があったシェスカは、全く怖がってない。
「じき慣れるわよ。それよりあの子達を殺さなきゃ」
シェスカは、ボタンの一つを押した。
すると魔法とは違ったタイプの光の矢が、キャフ達を目掛けて撃ち放たれた。
ピッ、ドガーーーン!!
防御魔法をかけているので直撃は避けられたものの、防御力が著しく低下した。かなりの威力である。あと二、三発撃ち込まれたら破られそうだ。
「こりゃ、ヤベえな」
キャフは焦っていた。ミリナやラドルも魔法で応戦するものの、方舟が纏う金属は全く無傷でノーダメージである。魔法の世界と異なる機械の登場に7人は戦慄していた。
「なんか弱点はないのか?」
「こんなの初めて見たんだ。知らねえよ」
「師匠、何とかするニャ!」
「こんな時のイキり師匠なんじゃないですか?」
ミリナにそう言われても、圧倒的な差にキャフもどうすれば良いか分からなかった。
(逃げた方が良いのか?)
だが眼下にはモドナ市民が取り残されている。無下に出来ない。
それに遠くでは、マドレー達の待機する森やギムのいる南方で軍が動き始めたようだ。この舟の出現は彼らにも見えている。今ここで逃げるわけにはいかない。
「物理攻撃の方が効くんじゃないのか?」
マスターがキャフに聞いた。
「あの舟に飛び乗るから、近づいてくれないか。カロンと2人でやるぜ!」
「はい!」
2人の決意を聞き、キャフやキアナも参加すると言い始める。
「いや、お嬢ちゃん達は怪我すると危ねえ。ここでじっとしてな」
「カロンさん、怪我は大丈夫ですか?」
「ミリナさん、ありがとう。おかげですっかり元どおりです」
そうこうするうちに、光線銃をかい潜りながらキャフ達は舟の上部に接近する。
「じゃあな!」
「皆さん、お元気で!」
まるで今生の別れの如く、2人は舟の上に跳び移った。
風圧で飛ばされそうになるも、うまく指を引っ掛けて進んでいく。
「カロン、大丈夫か?」
「はい、マスター」
飛ばされないように匍匐前進で慎重に進む。中に入れるハッチも鍵がかけられて入れない。苦労しながら、やっとエンジン部らしい箇所まで進んで来た。ここなら破壊出来るかもしれない。
だがその動きは、内部の2人に気付かれてしまった。
「何だか、虫がついたようですな。始末してきます」
「大丈夫かい?」
「武人は、地に足つけて動く方が戦いやすいですからな。円盤の上など造作もない」
鬼武将軍ジクリードはハッチを開けて、上部に出た。彼のような巨躯にとっては、これしきの風はそよ風でしかない。しっかりした足取りで2人に近づく。
「カロン、来たぞ! さっきの大男だ」
「分かりました!」
ジクリードの登場で、2人はエンジン部よりも彼の方を向いた。
ジクリードは投擲用の斧を装備している。彼らに狙いを定めると、片手で大きく斧を振り投げた。すると鎖のついた斧の刃だけが外れ、2人目掛けて勢いよく飛んでいく。
ガキーン!
風圧で動きが鈍ったおかげで2人は何とか回避し、斧の刃は舟の表面にぶつかる。ジクリードは鎖を引っ張り回収すると、再び柄を振って刃を投げつけた。かわす2人を嘲笑うかのように、ジクリードが繰り出す斧刃が何度も襲いかかる。直撃は避けるものの、何度か斬られダメージを負う。
「これじゃ、あの動力部まで行けねえな。とにかくこいつを壊して、落とさにゃならん」
「はい、マスター」
ジクリードの妨害で動力部の破壊は無理と悟った2人は、足元を斧やハンマーを使って壊し始める。だがこんな至近距離で力を込めて振り切っても、ヒビも入らない。本当に頑丈だ。
「無駄だ、お前達。そんな力でこの舟は壊れん。諦めろ」
ジクリードは勝ち誇った顔で、2人に近づいてくる。
圧倒的に不利な状況だ。打つ手がない。
「参ったな、連れてきてすまねえ」
「マスター、気にしないで下さい。あの船から救って貰った時から、俺はマスターと一蓮托生です」
「言うようになったな、あのガキが」
2人が死を意識したその時、通魔石からキャフの声が聞こえた。
『2人とも戻ってこい!! あいつの反対側、右方向に走り切れ!!』
2人は指示を受け、円盤の端まで一気に走り出した。
スピードを上げすぎだ。このままでは確実に落ちる。
「死ぬ気か?」
ジクリードは疑問に思ったが、彼ら2人はそのまま空中にダイブした。
ヒュー〜
ドスン!
ドン!
予測通り下にはキャフ達の雲が構えていて、無事飛び乗る。
「ふっ、仕留め損ねたか」
ジクリードは再びハッチを開け、中に戻った。
「大丈夫ですか?」
「すまねえ、やっつけられなかった……」
「良いんですよ。未来少年コ○ンのギ○ントじゃあるまいし、一話で墜落したら面白くないじゃないですか」
「……そうだな」
だが《雷の方舟》の真の力は、これだけではなかった。
「すいませんん、逃しました」
「ああ、良いよ。しかしホント、うるさいハエだね。これが良いのかな?」
ドクロマークが描かれたいかにも危なそうなボタンを、シェスカが躊躇いもなく押す。すると下部の扉が開き、禍々しい黒い爆弾が投下された。
「あら、何か落ちていくね」
無邪気に、シェスカは笑っていた。
「何か出てきたぞ。落ちていく。爆弾か?」
「あんなの、見たことねえ」
「何が起きるんですかニャ?」
「壊しますか?」
だがミリナやラドルの攻撃を嘲笑うかのように、その黒い爆弾はモドナへと落下する。
そして……
ピカッッッ!!!
それは小さな太陽のようで、目が眩むほどの光を放った。
人々は数秒後の自身の運命を知らず、何も出来ることはなかった。
ドッドーーーーーーンンンン!!!!!
小さな太陽はモドナを全て包み込み、さっきまで街だった場所が、爆風で何もかも吹き飛ばされ、炎と煙で見えなくなった。まるでおもちゃの街が壊れたかのようだ。
その凄まじい威力を受け、雷の方舟やキャフ達は更にぶわんと浮き上がる。
もくもくと立ち上るキノコ雲が、巨大な悪魔のごとくキャフ達を見ていた。
「これが古代世界を滅した《小さな太陽》なんだ! すごいすごい! これで私たちの勝ちね♡」
雷の方舟の圧倒的な技術に、シェスカは恐るどころか完全に魅了されていた。




