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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第十二章 魔導師キャフ、雷の方舟に遭う
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第176話 雷の方舟

前回のあらすじ


本物のベニクラゲも、不老不死で若返るんだって。調べてみてね!

 その神殿は洞窟の岩石を掘り抜いて作られ、正面には大きな扉があった。扉の奥には、恐らく神体が祀られているのだろう。


 海岸洞窟なのか少し空気が湿っぽくなり、潮の香りが強い。


 埃を被った重厚な扉に鍵はかかってないようだ。しかしラドルが開けようと試みるものの、びくともしなかった。かなり重く劣化している。


「ダメですニャ〜」

「俺達で開けてみるか?」

「やるか」


 今度はキャフも交え男3人で開けようとするが、これでも開かない。4人も力を合わせ7人全員で一所懸命に力を振り絞ると、やっと動き始めた。


 ギギギィイイ——


 何百年ぶりかは分からないが、重い音を立ててようやく扉が開く。だがそこにあったのは、地面から伸びる一本の鉄の棒だけであった。もっと素晴らしい彫刻品や石像などを予想していた一同は、呆気にとられる。


「何だ? これ?」

「古代だから、鉄が貴重だったんじゃ無いですかね?」

「そうかもな。でもこれで終わりかよ?」


 キアナが残念がっていた時、何かが疾風の如き速さで7人に襲いかかってきた。


 ガチーン!!


 本能的に出したキアナの剣で、辛くも攻撃は防がれる。


「あら、一発で死んだ方が苦しまないのに」

「シェスカさん!」

「坊や、あなたも大変ね」

「こいつ!!」

 

 フィカが剣を抜きシェスカを斬ろうとするが、相手は目にも止まらぬ速さで暗闇に溶け込む。すぐにラドルが炎を天井に打ち上げ、照明弾のように全体を照らした。


 だが明るくなっても、シェスカのスピードを捉えるのは容易ではない。この洞窟空間はかなり広大で、高速移動術を存分に使えるシェスカには余裕がある。キャフ達には分が悪かった。


雷撃剣(サンダーブレード)!!」


 今は倒すべき敵として想いを断ち切ったキャフも、多数の光の剣を繰り出し攻撃する。だが他の6人を傷つけないようにする為、攻撃は制約せざるを得ない。


「あらマスター、本気を見せてくれて嬉しいわ」


 マスターの振り下ろすハンマーも巧みに避けながら、シェスカは余裕で声をかける。やはりシェスカもあの酒場に出入りしていたようだ。マスターもシェスカの顔に見覚えがあった。


「あんた、やっぱりクムール人か。そうじゃねえかと思ってたけどな」

「残念ね。それを知っても今から死ぬから遅いわね」

「そう言わず、また店に来てくれよ!」


 シェスカが振り下ろす剣はハンマーをすり抜け、マスターの左腕を傷つけた。幸い傷は浅い。すかさずカロンが斧で応戦するが、このレベルのスピードはシェスカにとってスローモーションだ。かすり傷すら負わせられない。


 皆、シェスカの攻撃を食い止めるだけが精一杯であった。

 昔のシェスカを知るキャフは分かっていたが、格が違い過ぎる。

 キャフが一流としても、彼女は超一流だ。


 7人が入り乱れ、シェスカの攻撃に悪戦苦闘している時であった。


 ドスーン、ドスーン!!


 さっきキャフ達がやってきた階段から、何か巨大な生物が降りてくる。

 それが一歩あゆむたびに、地震のように足元がグラグラ揺れる。

 

「遅くなりました。シャルロッタ様」


 それは、モンスターと紛うべき巨大な男であった。

 手に持つ斧はとてつもなく大きい。ミリナやラドルだったら一撃で殺されそうだ。


「遅かったじゃない、ジクリード。鬼武将軍ともあろうものが」

「面目ない。いかんせん道が狭すぎまして」


 口ではそう言うが、シェスカは全く咎める様子はない。この鬼武将軍とやらも、それほど気にしてないようだ。その代わり、挨拶がわりに7人に向けて斧を振り下ろした。


 ブン!!


「うわっ!!」


 風圧だけでも、吹っ飛ばされる威力だ。

 直撃したら、ひとたまりもない。


 「散開しろ!!」


 キャフの指示に従い、7人はバラバラになって的を絞らせなくする。


「良いのかい? 坊や?」

「ぐわっ!!」


 すると1人1人を片付ける戦略に切り替えたらしく、カロンがシェスカの一撃を受ける。脇腹を深くやられ、倒れ込んだ。鮮血がどくどくと地面に広がる。


「うぅ……」

「カロンさん!! 治癒(ヒール)!!」


 ミリナがすかさずカロンに治癒(ヒール)魔法をかける。

 自身は防御(シールド)魔法をかけており、2人の攻撃を減弱していた。


 その後もシェスカは高速移動で各人に攻撃をしては離脱し、的を絞らせない。キャフ達がゆっくり弱るのを、楽しんでいるかのようだ。いたぶり殺す気らしい。鬼武将軍も加わった怒涛の攻撃に、誰も打つ手がない。このままではいずれ全滅は免れないだろう。


「ちくしょお、雷撃砲(サンダーボム)!!」


 動きが重なり、ちょうど神殿の前にいたシェスカとジクリード目がけてキャフは最大限の魔法をぶっ放した。だが2人とも素早く回避し、キャフの雷撃砲(サンダーボム)は神殿に直撃する。


 開けっ放しだったので、あの鉄の棒がキャフの魔法の直撃を受ける。

 するとその棒は、光を帯びて輝き始めた。


 ピカッ!


(ん? 何だ?)


 鉄の棒に帯びた光は、どんどん強くなり始める。そして、ズズズと音がし始め、キャフ達の足元が揺れ始めた。さっきのジクリードとは全然違う。地面全体が小刻みに震動している。


 ゴゴゴゴーー!!


 揺れはどんどん大きくなり、全員が戦闘を止めた。


「これ、やばくないっすか?」

「地震か?」


 ガガガガガァアア!!!!


「うわぁ!!」

「なんか、下から出てくるぞ!!」


 マスターが重傷のカロンを抱き抱え、7人は集合して何が起きるのかと構えた。シェスカと鬼武将軍も、キャフ達と離れて様子を見守っている。


 下から突き上げる揺れは一向に止む気配がない。地震ではないようだ。


 いつの間にか神殿は崩れ、光る棒だけが不気味に輝く。

 振動で天井から岩が落ちてきて、空が見え始めた。


 もう朝になったらしい。


 キャフとミリナは脱出に備えて防御魔法をかけ、いつでも浮遊魔法をかける準備をした。


 グラグラと足元が落ち着かず何かが盛り上がる揺れに耐えていると、地面が崩れて足元の感触が石の上にいるかのように硬くなった。


「下から、何か出てくるぞ!!」

「脱出だ! 飛ぶぞ!」


 ここに至り、キャフは脱出を決意する。


 シェスカとジクリードは遠くにいるので、事態を把握しているのか右往左往しているのか、良く分からない。だが下手にここにいるよりは逃げた方がマシだ。


 キャフは浮遊魔法で7人を乗せて飛んだ。大きな岩も沢山落下してくるので、慎重に上昇する。そして無事洞窟から脱出して上空にでた時、眼下には信じられない光景が広がっていた。


「これは……船? 円盤みたいだが」

「凄い、モドナの街半分ぐらいの大きさがあるよ!」


 地面がら現れたのは、金色に輝く金属でできたひどく大きな円盤型の船であった。周辺の公園や住宅が次々と潰れていくが、その船は上昇を止めない。


「こんなのが街の下にあったのか……」

「それよりおい、キャフ、もっと上昇してくるぞ! 飛べるのか?」

「すげえ……」


 キャフ達が呆然と見つめる中その船はグングン上昇し、空中へと浮かんだ。

 船の周辺を旋回すると、あの2人が中にいるのが確認できた。

 どうやらこの空飛ぶ船がお目当てだったようだ。


「これが《(いかずち)方舟(はこぶね)》か……」

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