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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第十二章 魔導師キャフ、雷の方舟に遭う
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第173話 酒場『自由の扉』

前回のあらすじ


やっぱり、占領された街って感じだな……

 昨日と違って午後から曇り始め、夜は月も見えなかった。

 5人は夕食をとった後、出発する。

 キアナの勧めでサングラスをかけ、帽子を被った。


「その酒場って、どんな奴らなんだ?」

「店の名前は『自由の扉』って言うんだけどな。マスターは歳くってるけど、元海賊って噂さ。あとは店員が一人。イケメンだぜ」

「本当ですか?」「まじニャ??」

 

 すぐにミリナとラドルが反応するのが分かりやすい。


「お前軍人だろ? 海賊と付き合ってて大丈夫なのか?」


 キャフは別な心配をした。


「問題ねえよ。知ってのとおり第七師団は緩いからな。それに冒険者ギルド勤務で、あの爺さんだったし。『わしも若い時はヤクザとしょっちゅう飲んで喧嘩してたわ』って、お咎めなしよ。だから暇な時ちょくちょく飲みに行ってたんだ」


 確かにと、キャフも妙に納得する。


「じゃあ、今日も飲むニャ〜」

「わ、私も飲んでお持ち帰りされたいです!」

「今日ぐらいは私も良いか」

「おい、大事な任務なんだからちょっと止めてくれ」


 キャフの心配をよそに、4人のテンションは上がり始めた。だが予想した飲み屋街には向かわず、キアナは迷路のように複雑な路地を進んで行く。


「こっちで良いのか?」

「ああ、そうだ。隠れ家みたいなとこさ。飲み屋街も行ってみるかい?」

「いや、この5人だと何か起きそうだからな。酔っ払いに絡まれて派手な立ち回りはしたくない。行かずに済むならちょうど良い」

「自分もそう思うよ。とりあえず昔と同じ場所だったら、こっちだ」


 そう言って更に何度も路地を曲がり、何の変哲もない一軒家の前に来た。

 キアナが扉を開けると、直ぐ地下へと続く階段がある。


「階段があるから、やってるみたいだね」

「非合法か?」

「まあ、そんなとこ。変な薬は扱ってないよ」


 そう言ってキアナは下りて行った。4人も後に続く。


 下りた先には、もう一つ重厚な扉があった。

 建物にそぐわないこの扉は、どこからか持ってきたようだ。


 力を込めてキアナが開けると、ムッとするタバコの匂いが広がり、ミリナやラドルは思わず咳き込む。


 薄暗く狭い部屋の中で、正面にあるカウンターには初老の男がいた。その後ろには様々な酒瓶がアクセサリーのように並べられており、世界地図が貼られている。その他にも外国の物と思われる品々が飾られていた。


「『自由の扉に集いし者共、ここでは身分の上下なし』」


 合言葉らしい。それを聞いてマスターはこちらを向く。

 キアナは、サングラスを外した。


「キアナか?」

「ああ、マスター。久しぶり!」


 キアナがマスターと呼ぶその男は、立派な口髭も白髪混じりで頭は禿げている。だが体格はがっしりしており眼光鋭く、海賊だったと言われても違和感はない。

 

 いつもの席なのか、キアナはカウンターに座る。見渡すと、テーブル席も含め客は誰もいない。しばらくしてキッチンの奥から二十代の男が現れた。キアナがイケメンと言うのも良く分かる好青年だ。ラドルとミリナは、ソワソワし始める。


「お久しぶりです、キアナさん」

「やあ、カロン。元気だった?」


 物腰は柔らかく細身だが、半袖なので見える腕の筋肉がたくましい。

 きっと体を鍛え上げているのだろう。彼も海賊業ができそうだ。


 だがカロンがつまみを持って5人の側にきた時、表情が一変した。


「ま、まさか…… キアナさんも《人畜》なのですか?」


 その言葉に、マスターの表情も緊張で凍りつく。


「本当か? おい、いくら馴染みでも帰ってもらうぞ」

「? 何だそれ?」


 キアナも他の4人も、何を言われているのか分からなかった。

 キョトンとして、お互いを見渡す。

 その様子を見て、マスターもカロンも何か違うと思ったようだ。


「これ、この首筋の刺青ですよ」

「ああ、これか。こいつが偵察してきて、みんなやってるって言うから付けたんだけど」


 その言葉を聞いて、マスターもカロンも安堵する。


「なんだ、そういうことか。この刺青は今、モドナの全住民につけられている。どんな仕組みか知らんが居場所も筒抜けなんだ。当然ながら俺達は逃げて、付けておらん。このご時世だからな、自由でいるのも大変よ」

「そうだったのか、不安を与えて済まなかった」

「良いってことよ。それだったら、わざと付けておいた方が何かと良いぞ」


 やはり、まだモドナの事情には慣れていない。


「カロン、今日は店仕舞いだ」

「分かりました」


 マスターは察したのか、カロンに閉店を命じる。カロンは外に出ていった。

 地下へ続く階段に、蓋をする音が聞こえる。


「久しぶりだからな、お互いの無事を祝って乾杯といこうか」

「ありがとう、マスター。じゃあいつもの、ロックで」

「分かった。他の方は? メニューは壁に書いてある通りだ」

「あ、はい」


 良く分からない銘柄が多いが、キャフも含め軽めの酒を頼む。

 カロンも含め全員に酒が行き渡ったところで、乾杯をした。


「ふぁー、やっぱうめえな」


 キアナはあっという間に一杯飲み干し、もう一つ頼む。

 リラックスした表情は、他では見せないものだった。


「相変わらずの飲みっぷりだな」


 マスターは、軽く微笑んでした。


「マスター、最近はどうだい?」

「どうもこうも、あいつらが来てからこんなもんよ。まだ目を付けられてないから営業も出来るがな。あんた《人畜》に会ったのなら、食料の配給場も見たのかい?」

「ああ」

「あれは食べちゃいけねえ。あの食事を食べてから、おかしくなった知り合いもいる。ありゃきっと、何かヤバいのが入ってるな」

「マジか……」


 マスターの言葉に驚く5人である。

 言われてみると、あの広場にいた人間は動きがどこかおかしかった。


「あの刺青はアルジェオン人全員に入ってるのか?」

「ああ、多分。身分の高い奴らは軒並み殺されたさ。クムール兵があの家が欲しいって言うだけで、子供含め全員惨殺された家族もある」

「ひどい……」

「勝てば何やっても許されるんだ。戦争なんてそんなもんよ。俺も修羅場を何度もくぐってきたから、その辺は分かっているがな。モンスターもいるし、あいつらを相手にするのは中々大変だ」


 マスターは、しみじみと酒を飲む。


「店は繁盛してんのかい?」


 キアナが聞く。


「いや、店を開けているが殆ど客なんて来ねえよ」


「マスター、あの壁に近づく方法はないか?」

 

 キャフは、試しに聞いてみた。


「ああ、あの忌々しい壁か。残念ながらクムール兵が常に見張ってるぜ。《人畜》の刺青も併せて完璧な管理で、脱走すら出来ねえってわけよ」

「そうか……」


「どこか、泊まるところって無いですか?」


 ミリナが、率直な質問をした。


「そうだな…… 幸い、この周辺の家はクムール兵もあまり欲しがらなかった。両隣の家も空いているから、使うか?」

「良いのか?」

「ああ、どっちも住民は行方知れずだ。俺達も時々使ってるから、明かりがついても不自然に思われないだろう」

「マスター、ありがとう」

「良いってことよ」


 詳しい事情も聞かずに受け入れてくれたマスターに、5人は感謝した。

 翌日荷物を持って来て、ここを拠点に活動を開始する。

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