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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第十二章 魔導師キャフ、雷の方舟に遭う
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第171話 モドナ内部

無事、潜入に成功!!

 朝、波音と日の出に自然と目が覚めて起床する。


 設置した簡易レーダーを確認するも、幸いに人やモンスターが来た形跡はない。

 万が一を考え5人は別々に寝床を確保しているので、キャフは通魔石で連絡を取った。彼女達と過ごした期間が長すぎて、昔みたいにあわよくば覗こうなんて色欲はすっかり消えている。


『起きてるか?』

『ああ』

『はい』

『もちろん』

『ハイですニャ』

『じゃあ、浜辺の方に、集まってくれ』


 数分後、問題なく4人が集まった。

 軍服ではないが万が一を考え、動きやすいアウトドアスタイルである。


 キャフ達は魔法を使えるように特別な材質を服の一部に仕込んであった。フィカやキアナもナイフや携帯武器をジャケットの内ポケットに潜ませている。それぞれ違うが、ラドルも含めシンプルな装いだ。


 周囲を確認するとちょうどいい洞穴を見つけたので、軍服など余分なものはスーツケースに入れて隠した。この洞穴も最近人が訪れた気配はない。


「で、どうやって潜入するんだ? 旅の楽隊か?」


 冒険していた頃と同じ、ざっくばらんな態度でキアナが聞く。


「いや、壁で遮断されているんだ、無理だろう」


「仕方ない、私がお前の妻になるからあとは親戚でどうだ?」

「え〜 キャフ師が先生で私達が教え子はどうですか? 裏設定で私と禁断の愛を育んでるとか」

「それなら、私がペット役で売られに行くのはどうかニャ?」

「ダメだな、どれも怪し過ぎる」


 キャフは3人の案を却下した。今は市街地の状況が何も分からない。クムール人だけなのか、モンスターもいるのか、それにアルジェオン人は生きているのか、それすらも分からない。なので極力目立つことはしたくない。


 クムール人とアルジェオン人は元々は同じ国だけあって、他の国からは見分けがつかないと言われている。だが当人同士は問題なく判別できた。アルジェオン人の中に紛れ込んでいても、どれくらいクムール人が居るかは分かるだろう。


「とりあえず、透明化の魔法を使って偵察してみるか?」


 キャフが提案する。下手な芝居をするよりも無難な選択だ。


「ミリナは使った経験あるか?」

「練習で発動させたことはありますが、実戦では未使用です」

「そうか。ラドルは?」

「私はできないニャ」


「分かった。じゃあミリナと2人で行こう。透明化といっても透明人間になるわけじゃないからな、ぶつかったり音を立てると不自然になってバレる。とにかく音と足跡に気を付けろ。街中では軽い浮遊魔法で移動しろ。偵察だから上昇し過ぎると意味ないが、砂を巻き上げないようにゆっくり飛べ」

「分かりました」


「お前ら3人はこの入江で待機してもらえるか? 簡単に街中を回るだけだから、昼前には戻る」


 キャフの提案に、4人とも同意する。


「ちなみに通魔石電話で壁の向こうに連絡できるのか?」


 フィカに尋ねられたので、スーツケースに収納していた通魔石電話を取り出してかけてみる。だが雑音が聞こえるばかりで繋がらなかった。


 やはり壁に遮断されているようだ。状況を知らせる発煙筒を持ってきたので、何かの時はこれを使うしかない。


「そうだ、キアナにもこれ渡しておくぞ」


 キャフは通魔石をキアナに手渡した。


「ああ、ありがと。自分はモドナの地理に詳しいから、あんたやミリナとデータ共有できないっすか?」

「そうですね、私の魔法を使えば可能だと思います。あとで連絡しますので教えてください」

「OK。何かあったら自分に聞いてくれ」


 2人は入江を後にして、透明化の魔法をかけた。

 見る限り、ミリナも問題なく使いこなせそうだ。


「じゃ、私は皇子のいた家の方に行ってきます」  

「オレは海岸沿いに行ってみる。とにかく気を付けろ」

「はい」


 こうして2人は、別行動でモドナの街の探索を始める。


 夏のシーズンも過ぎ、暑さもやわらいでいた。誰もいない海は、打ち寄せる波の音だけが静かにこだまする。


 この辺りには民家もなく、人も見当たらない。モドナはすり鉢状の構造なので、ここから皇子の住んでいた家のある最上部の方もよく見える。そして更にその向こうにそびえ立つ巨大な壁は不気味な姿を晒し、街を圧迫していた。華やかな色合いだった家も心なしかくすんで見える。


(透明化魔法、トラウマあんだよな〜)


 キャフは昔を思い出し慎重に進んでいた。透明化といっても、特殊な膜で全体を覆い反射度合いを変える仕組みを使った擬態に近い。当然そこに肉体はあるわけで、バレて攻撃を受けたら普通にダメージも負う。


(ま、健全に道を歩く分には、大丈夫だろう……)


 海岸沿いの道は砂が多く、ゆっくりと浮遊しながら移動する。

 上空にはグリフォン達が飛んでいるが、気づかれてない。


 しばらく進むと以前キャフ達が泊まったホテルが現れた。

 前と変わらぬ姿だが、どの部屋もカーテンが閉められ人影はない。

 営業しているのかどうか、ここからでは判別できなかった。


 誰かいないのかと浜辺の道を歩いていると、やっと1人の男に遭遇する。


 前を歩くその男はキャフの存在に全く気付いておらず、気ままに歩いていた。服装と体格からアルジェオン人と分かる。齢は中年だろう。日焼けで真っ黒な肌のがっしりとした体格で、顔に太い皺が何本もある。漁師だろうか。まだ夏場のような服装をして、夢遊病者のように覚束ない足取りだ。


(あまり幸せそうではないな)


 彼の背中を見てそう感じた。首筋にある小さな刺青が余計に侘しい。追い越さないようにキャフもゆっくりと移動して付いて行った。男は時折立ち止まりながらフラフラと前に進む。やがて男は細い階段を登り、中心部の方へと向かって行く。キャフも後をつけると小さな広場に出た。


(な、何だ?)


 そこには、男以外にも沢山の人がいた。

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