表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第十二章 魔導師キャフ、雷の方舟に遭う
170/231

第170話 作戦決行

前回のあらすじ


モドナ潜入は、いつものメンバーで!

 早朝キャフ達は舟を大きな荷台に乗せ、壁から南に離れた浜まで森づたいに遠回りで運んで行く。運搬役は別の兵士達と馬である。


 少数行動だから、敵に見つかると作戦遂行に支障が出る。

 そのため森の中でも細心の注意を払って進んだ。


 船は押送船のような形で櫓を備えている。

 これなら風がなくても問題ない。


「おい、タバコ吸うな。敵がいたらどうする」

「いいじゃねえかよ〜 特攻兵が出撃前に吸う最後の一服みたいなもんよ」


 フィカが咎めてもキアナは聞く耳を持たない。

 キアナの言葉で、フィカもそれ以上何も言わなかった。


 無事グリフォン達モンスターにも見つからず、夜には浜に到着した。モドナから少し離れており、『ぴちぴちビーチ』の案内板が虚しく立っている。


「マドレーには夜中まで待てと言われたんだが」

「満月が綺麗ですニャ〜」


 食事をとり、船を海に浮かばせるために浜に木の棒を並べ準備をする。向こうで一ヶ月程度暮らせるよう、スーツケースに衣服や日曜雑貨なども最小限詰め込んだ。


 ふとミリナが空を見上げると、変化に気が付く。


「月が欠けて来ました!」

「あいつが言っていたのは、これか?」

「確かに、これなら見つかりづらいニャ」


 それは月食だった。みるみるうちに月に影が差す。

 薄赤くなった月で辺りが暗くなる。

 星明かりで、かろうじて見える程度だ。


「灰色狼みたいに、夜行性のモンスターは満月でエネルギーが最大になるんだ。だからそのエネルギーが急に切れると反動で動きが鈍ると聞く。あいつ、占星術にも詳しいんだな。よし、早く出よう」


 キャフの命令で、兵士達が一所懸命に舟を押して海へと下ろしてく。その間に、5人は舟へと乗り込んだ。ゴロゴロと激しい揺れに耐えながら舟は海に無事浮かび、出航となる。振り返ると兵士達はまだ見えたが、直ぐに浜は遠くなって定かでは無くなった。


「ほいじゃ、自分が櫓を漕ぎますか」


 キアナが立ち上がり、器用に漕ぎ始める。


「済まんな、色々と助かる」

「良いってことですよ。自分もアルジェオン軍人の端くれですから。それに、友達も沢山モドナに取り残されていて、どうなってるか早く知りたいんだ」


「大丈夫かニャ〜」

「いざとなったら魔法も使いますから大丈夫ですよ」

「ミリナちゃん、頼りにしてるニャ」

「おい、オレもいるぞ。そもそもお前も魔法使いだろ」

「あ、そうでしたニャ」


 決死の侵入隊とは思えない、のんびりした会話である。


「沖に出ますか?」

「いや、海岸伝いで行く。離れすぎない方が良いだろう」


 しばらくは、波と櫓を漕ぐ音だけが聞こえる静かな景色になった。岸辺に灯りがポツポツと見える。だがモドナにあるはずの灯台の明かりは点いていない。


「しっかし、あのパーティーがここまで出世するとは思わなかったよ。最初に見た時、他とは少し違うと思ったけどな」


 キアナは感心したように4人を見て言った。

 モドナに来て少し感傷的になったようだ。


「あの美少年もドラゴンだったんだろ? 最強パーティーだね〜 そりゃ強いわ」

「キアナさんも沢山の武勲を立てて、中隊長になったじゃないですか」

「まあな。でもあんたらに比べりゃ全然よ」


 キアナはそう言いながら、タバコをふかして櫓を漕ぐ。だが上空を見上げた途端、思わず口からタバコを落とした。タバコはそのまま海の中へ消える。キアナは櫓を漕ぐのも止めた。


「マドレー大佐、これも見越してたのかな……」

「どうした?」

「死兆星だよ、あれ」


 キアナの指差す先にあるのは、双子の星だった。

 片割れが、普段よりも不吉に赤く輝いている。


「迷信だろ? そんなの」


 キャフは、信じるそぶりを見せなかった。


「まあ、そうだけどさ。大きな戦で死人が出る時に現れるって言われてんだよ。オレ達は軍人だからよ、縁起担ぐんだ。だからあんま見たくねえのよ」


 キアナはそれだけ言うと、黙って再び櫓を漕ぎ始める。


「このまま、上手く上陸できますかね?」

「どうだろうな」


 フィカとミリナがそんな話をしていた時、キアナは櫓の手応えに違和感を感じていた。少し焦っている。


「キャフ少将、どうも、潮の流れが強くなってる。逆らえねえ」

「本当か? 岸辺に近づけないのか?」

「何というか…… 渦を巻いているみてえだ」

「それ、ヤバくニャい?」


 皆が不安になり始めたのを嘲笑うかのように、舟はキアナの意思を裏切り一方的な流れに乗せられていく。そしてそのスピードはだんだん速くなって円を描き始め、ここに至って一同は渦潮に巻き込まれたことを知った。


「お前、魔法で何とかできないか?」

「魔法が発する光で見つからないか、不安だがやってみるか」


 キャフは右手に力を込め、『雷撃弾(サンダーボム)!!』と、光の爆弾を渦潮の中心に投げ込んだ。暗闇の中に激しい光が取り込まれ、爆発する。


 サーペントがいたようだ。敵は死んだらしく、それ以上の攻撃はない。魔法の効力は切れ渦潮の流れは穏やかになり、キアナが再び櫓を漕ぎ始めて浜へと近づいていく。


「今の攻撃でバレたかな?」

「分からん。なるようになるさ」


 音を立てないように、ひっそりと陸地に近づける。

 幸い兵士達や人は居ないようだ。

 目立たない入江を見つけ、そこに舟をつけた。上陸に無事成功だ。


「私達が泊まってたホテルの近くかニャ?」

「おそらく、そうだな」

「今からどうする?」

「まずは夜明けまでこの辺で身を隠す。6時起床だ」


 キャフの命令に従ってそれぞれ寝場所を確保し、侵入一日目が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] どきどきします。キアナさん回ですね! と、興奮しました(なんという) 天体の運行や船の様子ですとか、キャフさんの容貌で雷魔法ですとか、とことんツボです。ありがとうございます。 絵的には、暗闇…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ