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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第十二章 魔導師キャフ、雷の方舟に遭う
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第169話 到着

前回のあらすじ


村人たちの歓待も受けて、いよいよモドナに行くぞ〜

 それは、遠くからでも良く見えた。


 風光明美を誇り国内外から沢山の観光客が訪れる大都市モドナは今や禍々しい壁に覆われ、その姿を隠されている。歴史あるアペア街道もモドナに行く手前の壁で寸断されていた。


 モドナへの入り口はどこにもない。


 キャフ達の軍は万全を期して、そのモドナの壁が見える手前の森の中に陣地を広げた。畜魔石(チャージ・ストーン)を四方に設置し、目眩しの防御魔法をかける。攻撃を開始するにはまだ準備不足だから、これである程度の時間は稼げるだろう。


 ギムの部隊はもう少し南方の旧第七師団駐屯地近くに待機中だと、連絡が入っている。通魔石(コミュ・ストーン)電話で到着を知らせ、翌日ギムが到着したところで中隊長以上をまじえ作戦会議を開いた。


 椅子やテーブルはないので、車座で囲む形で揃う。

 中央にはモドナ周辺の地図が広げられている。

 斥候が得た壁の位置情報などを元に、様々な記号が書き込まれていた。


「そっちの様子はどうだ?」


 一番奥に座るキャフが、左隣にいるギムに聞く。


「ああ、全く何もない。クムール軍は防御に自信があるのか、グリフォンやハービーといった鳥系のモンスターが威嚇飛行するくらいで攻撃してこない。逆にこっちも、守りが硬過ぎて手を出せない状態だ」


「マドレー、何か案は思い浮かんだか?」


 キャフは、右隣にいるマドレーに聞いた。


「まあ、あの兵器が使えるかどうかですね。もう一つの問題は、どうやってモドナへ入るかです。この黒い線が壁です。ご覧の通り旧第七師団駐屯地から冒険者ギルドまで、広範囲に壁が築かれています。モンスター生息域もこの川まで壁が続き、チグリット河まで繋がっているようです」

「思ったより長いな。恐らくその川は畜魔石(チャージ・ストーン)を採取するためだ。そう言えば、川から潜り込めないのか?」


 キャフは、冒険時の地形を思い浮かべながら説明する。


「そうなんですか。じゃあ重要拠点ですね。川からの侵入も試みたそうですが頑丈な柵が幾重にもあり、魔ピラニアなどの魚系モンスターが放されていると報告を受けました」


「海はどうなんですか?」


 ミリナが、質問した。


「そうですね、そこが一つの鍵です。第七師団の情報では南部から船で侵入を試みた作戦もあったそうです。けれども船で侵入を試みたらクラーケンやサーペントがいて、簡単にひっくり返されたとの報告があります」


「地下道はどうですかニャ?」


 ラドルが聞く。


「それもやっぱり考えたのですが、岩盤が硬く短時間では不可能ですね。前に一度モンスターの攻撃を受けない距離から投石機を使ったものの、びくともしなかったそうです。投げた石の大きさから逆算して、壁の厚さは最低でも10メートル以上あります。予想以上に分厚い」


「一体どうすりゃ良いんだ?」


 大隊長の1人が、マドレーに詰め寄った。

 彼の説明を聞くと、モドナ奪回が不可能に思われる。

 会議に出席している幹部達の多くは暗い顔になった。


 だがマドレーの顔には全く焦りがない。

 何か策があるようだ。


「だから、今回の攻城兵器は単なる投石機ではありません。ただ今から組み立て作業が必要です。敵にバレないように、この陣地内でやらせます。設計者は僕なので僕が指揮をとりますが、良いですか?」

「ああ良いぞ。みんな、問題はないな?」


 キャフの呼びかけに、異論を唱える者はいなかった。


「ありがとうございます」

「しかし、どうやって内部に侵入するんだ? さっきの話じゃどこも打つ手なしだろ?」


「そうですね。やっぱり誰かが内部に侵入して状況を把握して撹乱する必要があります。僕もこの作戦にあたって、ずっと考えてきました。その結論がこれです」


 そう言って、マドレーは、海を指差した。


「正気か? さっきクラーケンやサーペントがいて全滅したと言ってなかったか?」


 キャフが、マドレーの意見に反対する。


「はい、過去の報告はそうです。でも僕の計算によれば、明日あたり良い条件が揃いそうなんです」

「条件?」

「はい、天気とか星や月の位置とかですね」


 マドレーの言葉に、キャフは半信半疑であった。


「ただ、やはり手段が難しい。今回の装備に舟があるのはご存知ですか?」

「ああ、小さなやつだろ?」

「はい。それで侵入してもらいます。ですが人選が問題です。モドナの地理を熟知して、柔軟に対処できる能力が必要です」


「オレが行く」


 キャフは、即答した。


「え、バカなんですか? あなたはこの軍の指揮官ですよ?」

「いや、マドレー、お前が指揮をとっても何ら問題はない。幾ら優秀な兵士でもこの侵入は難しいだろう。それにこの前バカンスと冒険で来たから、最新のモドナの地理は把握している」

「それは、そうですが……」

「私も行くニャ」

「私も行きます」

「私も行こう」


 ラドルにミリナ、フィカも続けて志願した。


「俺も行くぞ」

「いや、ギム、お前は歳だしモドナの地理に疎いだろう。お前こそサローヌ軍の指揮に必要だ」

「そうか……」


 キャフに諭されたギムは不満そうだが、それ以上反論はしなかった。


「自分も志願します。モドナの地理はキャフ少将達よりも詳しいです」


 中隊長となっていたキアナ少佐も加わる。


「どうしますかね……」


 マドレーは、考えあぐねていた。


 作戦が失敗すればキャフ達を死なせる可能性もある。しかし米軍海兵隊のような組織がアルジェオン軍にあるわけでも無く、これといった人材もいない。成功するためにはキャフ達が適任とも言える。


 しばらく会議はざわつき、意見がまとまらなかった。他に志願する幹部はいない。この不毛な時間にじれったくなったのか、キアナが立ち上がってマドレーの前まで来た。


「じゃあ、コイントスで決めませんか?」


 キアナは、マドレーに提案した。

 既にキアナの手には、アール神が刻まれた1ガルテ硬貨がある。


「神頼みですか、まあ良いでしょう。キャフ少将も構いませんか?」

「ああ」

「んじゃ、やります。よいしょっと」


 キアナは慣れた手付きでコインを右親指の爪で引っかけ、はじき飛ばす。

 回転しながら真上に飛んだコインが落ちてくると、さっと左手を被せた。


「マドレー大佐はどっちで?」

「アール神のある表で」

「じゃあ、裏が出たらキャフ少将で。はいっ!」


 キアナがかぶせていた手を退けると、裏面だった。


「決まりだな」

「分かりましたよ、アール神の御加護があることを。決行は明日の夜です」

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