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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第十二章 魔導師キャフ、雷の方舟に遭う
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第168話 収穫祭

前回のあらすじ


図書館デート。

『もう収穫期も終ってますニャ。今年の冬は一安心ですニャ〜』

『ああ、そうだな』


 旧道沿いに広がるモジャン地方の農園地帯を見て、キャフ達は感慨にふける。もう秋も半ばを過ぎて色付く木々も多い並木道は、平時なら行楽シーズン真っ盛りの光景になるはずだ。


 前回同様、ラドル達は中隊長としてそれぞれの部隊を率いていた。

 だから側にいるマドレー以外とは通魔石を介した会話になる。


 例年通りではないのだろうが、村人達が喜ぶぐらいは収穫があったらしい。

 村を見ると、偶然にも今日は収穫祭のようで花火が上がった。


 去年の今頃は、あの妖狐達に占領されクムール軍に略奪されていた。その事実を思うと村人達の笑顔がまぶしかった。


 今回の行軍では攻城兵器などの大型兵器を多く携えている。

 攻城戦をメインとするため歩兵や工作兵が多い。

 そのため、随分と進軍の速度が遅くなっていた。


 この辺りはまだ壁は未完成で柵の防御だが、レーダー探知のおかげでクムール兵やモンスターが接近する気配が無いのは確認済みだ。


 祭りの賑やかな様子を見ながら進んでいる最中(さなか)に、後方から馬に乗ったフィカがやって来た。老人を、後ろに乗せている。キャフも何事かと思い、馬の歩を緩めた。


「どうした?」

「村人から、祭りに参加して欲しいと言われたんだが」

「モーラ村の村長です。お世話になった御礼と皆様の勝利を祈願するため、是非来て頂きたい。村総出で歓迎いたします」


 モーラ村と言われ、以前霧の中でモンスターに騙された出来事を思い出す。だが村長だという立派な白い髭を蓄えたその老人は、その時に会った村長とは似ても似つかない。こっちが本物のようだ。


「どうする?」


 キャフは、マドレーに聞いた。


「宿泊が予定より手前になりますが、まあ良いでしょう」


 マドレーも認めるので、キャフは進軍を止める。旧道は閉鎖中で一般人は通行不可だから、装備をこのまま道端に置き捨てても良いが、幸い少し行った先に以前フィカが勤めていた警備隊の施設が残っていた。敷地も広くクムール軍も使っていたようで、宿舎代りにちょうど良さそうである。


「これから、村の歓待を受けるため、一時解散とする。出発は明朝八時だ。良いかお前ら、くれぐれも変な気は起こすな。民あっての我々であることを常に忘れるな」


 キャフの訓示が終わると同時に兵隊達は列を崩し、村へと向かった。 


「みんな、楽しそうですね」

「まあ今は良いだろう。お前は参加しないのか?」

「ええ。行きません。少し作戦を考えたいので」


 マドレーはそう言い残し、テントの中に引き篭もった。

 こんな時のマドレーは集中しているので、邪魔しない方が良い。


 一方のキャフは、立場上行かねばならない。

 馬を繋ぎ、フィカや村長と共に歩いて村へと向かった。

 道中、ラドルやミリナとも出会う。


「キャフ師、魔法を使った方が村の人達は喜びませんかね?」

「そうだな。じゃあ、浮遊魔法を使うか。お前らも乗るか?」

「はいニャ。村長さんも一緒にどうぞニャ」

「良いんですか? ワシは乗るの初めてじゃ」

「じゃあ、フィカさんは私の方にどうぞ」


 ミリナのアドバイスに従い、キャフも浮遊魔法を発動する。


 村長は恐る恐る乗ったが、浮遊の一瞬に驚いただけで、それからは年甲斐もなく子供みたいにはしゃいでいた。顔が見えるよう、低空飛行で祭りの広場に飛んで行く。


 うわーすごい!!

 キャフ様だ!

 村長様も飛んでるぞ!


 子供達の歓声や、大人達の歓迎の声があちこちでする。

 付近の村々から来ているようで、思ったより規模が大きい祭りだ。


 広場で音楽を奏でるバグパイプやアコーディオン等からなる楽隊は、キャフ達を見て勇ましい音楽に変えた。大歓声の中、キャフ達が乗る雲が広場中央に降り立つ。


「村の者、キャフ殿が我々のために来て下さったぞ! お礼に勝利を願い、古に伝わる舞を踊ろうではないか!」


 村長の言葉で、楽隊は更に音楽を変えると、広場では踊りが始まった。


 きらびやかな刺繍が施された村の伝統服を着た娘達の踊りや、屈強な若者達の剣舞、大きな人形を振り回しての伝統芸能などが立て続けに催され、初めて見るものばかりのキャフや兵士達はとても喜んでいた。


 キャフ達は広場の中央で観ていたが、椅子も用意され、ひっきりなしに食べ物や飲み物が捧げられる。「お腹一杯ニャ〜」と、ラドルのお腹はあっという間に膨れてたわんだ。


 一頻り余興が終わりさらに酒が進む。浴びるように飲む豪傑もおり、村人達と飲み比べをし始めた。あちこちで歓声が上がり、大きな歌声が響く。まだ戦時ではあるが温かな宴に、村人も軍人達もこの一時ばかりは戦争を忘れて楽しんだ。



 そして翌朝、村人達に見送られながらモドナへの行軍を進める。


『あ〜、この辺、フィカさんと会ったあたりニャね』

『そうだな、この前はあっという間に通り抜けたから忘れてた』

『変な遭難者だったお前らと一緒にこんな事するとはな』

『全くだ』


 あのゴブリンや灰色狼(グレーウルフ)に襲われた場所だ。


 思えばあれが冒険の最初であった。二年ほど経ち今は壁が築かれモンスターも入って来れず、安心して通れる。この戦争が終われば、きっとここを通る高速馬車も復活するだろう。


 そんな昔を思い出しながら、サローヌ地域まで進むキャフ達であった。


 今回、ギム達は新道の高速道路からモドナへと向かっている。

 モンスター生息域も取り立てて問題はないらしい。


 ここまでの歩みは順調だ。

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