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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第十二章 魔導師キャフ、雷の方舟に遭う
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第167話 図書館にて

前回のあらすじ


マドレー、何か難しいこと言ってんな〜

「お知り合いでしたか。では、私はこれで。あと一時間ほどで閉館です」


 そう言い残し、司書は戻っていった。


「マドレー大佐、なぜここに?」

「君こそ。どうしたんだい?」


 この部屋は質素な作りだが壁は厚く、会話程度なら他に聞こえない。

 だが図書館の雰囲気もあり、2人ともヒソヒソ声で話をした。


「スーツ姿だと、いつもと雰囲気違いますね」

「ミリナさんも、今日は魔導服じゃないんですね」

「ええ、イデュワでは魔法を使いませんから」


 軍服姿や魔導服姿が多い2人だが、今日は違っていた。マドレーは紺色のスーツに赤いネクタイ姿。ミリナも長めの黒スカートと白いシャツに、ベージュのジャケットを羽織っている。見た目は若い会社員と女子大生だ。


「やはり皇子の言葉が?」

「そうですね。それもありますが、古代エルペシュト語を最近勉強したので読んでみたくなったんです。マドレー大佐も読めるのですか?」

「ええ。僕も語学は好きなので、一通り勉強しました。喋るのは下手ですけどね。面白い話ありましたか?」

「はい。どのお話も当時を想像するだけで楽しいです」

「そうですか。じゃあ僕はもう少し資料が欲しいので、とって来ます」

「どうぞ」


 残りも史料を机に積み上げ、マドレーも読書の準備にかかった。

 時間もそれほどないので、速読で読み進める。


 ミリナも真剣な顔で集中して読み、紙をめくる音だけの静かな時間が流れた。


 ミリナが読み終えた本をマドレーも読んでいると閉館を告げる厳かな鐘が鳴り、史料を片付け2人は外に出る。


「あっという間でしたね」

「ええ。マドレー大佐は、気になったお話ありましたか?」

「やはり『(いかずち)方舟(はこぶね)』が出ている箇所ですね。確かにその言葉はありましたね」

「そうですね。私も読みました」


 2人が読んだ本に、『(いかずち)方舟(はこぶね)』は記載されていた。

 皇子の言っていたことは真実のようだ。


「クムール帝国建国より昔に起きた世界大戦の時なんですね。でも、『『(いかずち)方舟(はこぶね)』現れ、五日間で世界を焼き尽くす』の言葉だけで、絵も無いし、何だか良く分かりません」

「そうですね。最近はここに通って関連本を読んだのですが、あれくらいです。モドナとの関係もあれじゃ分かんないですね」

「ええ。幾らモドナの歴史が古いと言っても伝説の世界大戦よりずっと後に出来た街だから、接点が見出せませんね。皇子に聞けたら良いのですが」

「きっと今頃寝てますよ」

「たしかに」


 2人が得た知識は、それだけであった。


「でも本当にそんな怖い兵器、あったんですかね? 世界を焼き尽くすなんて」

「伝承ですよ。誇大表現が普通です。恐らく国が滅ぼされた史実を、こう書いたのでしょう。伝承が事実だったら昔は化け物ばっかりの世界ですよ」

「そうですよね……」


 2人は、もやもや感だけが残った。


「それより、今からどうするのですか? キャフ邸に戻るのですか?」

「はい」

「それなら僕もキャフ少将に会おうかな。今日はいますか?」

「多分いますよ。夕飯も出してくれます。一緒に行きましょう」


 2人は、近くにあった公共馬車の停留所で馬車を待つ。

 直ぐに馬車がやってきて、空いていた2人席に座った。


 夕暮れ時で仕事終わりの人達が多い。

 一時期に比べ、人々の表情は明るく見えた。


 戦時中だけあり、街中には戦争を鼓舞するポスターがあちこちに貼られている。女王の趣味なのか、キャフに加えミリナやマドレー達のポスターもあった。幸い実物と違う描き方なので、馬車に乗り合わせた人達は誰も2人に気付かない。


「ちょっと恥ずかしいですね」


 勇敢な魔法少女として悪の大王らしき敵に挑む自分のポスターを見て、ミリナは照れていた。派手な魔法を繰り出すのは似ているけれど、ちょっとデフォルメされ過ぎている。


「悪いことじゃないですよ。今は国の一体感が重要です」

「そうですね」



 馬車を下り、キャフ邸に到着する。

 一階のリビングでは、いつものメンバーが夕食を待っていた。


 ラドルやフィカも休暇だったらしい。ラドルはいつものピンクを基調にしたギャル系ファッションで、フィカは長袖Tシャツにジーパンのラフな格好だ。キャフは仕事帰りだったのか、魔導服姿だった。


「あ、マドレーさん、こんばんわニャ」

「どうも、ちょうどミリナさんと図書館で会ったので」


「そうだったのか。何か良い情報はあったか?」

「はい、キャフ少将。少なくとも『雷の方舟』と記された古文書を見つけました。そのような物が認知されていたのは事実のようです。ただ実体が何であるかは全く分かりませんでした」

「そうか。皇子(アースドラゴン)自体が古代文明社会の産物だと言う説もあるからな。本当なのだろう。モドナとの関連は?」

「いえ、全く手がかりなしです」

「仕方ない、まあ食っていけ」

「ありがとうございます」


「食事の用意ができました」


 シーマ執事の呼びかけに応じ、皆で食堂に行く。

 マドレーがいてもシーマ執事は慌てることなく、1人分の席を用意した。


「そう言えば、サムエルってかなり強かったのか?」


 前菜を食べメインディッシュが来る前、フィカがキャフに聞く。


「ああ、剣の腕前は誰にも負けなかった。あのドラゴンスレイヤーを持った時は正に無敵だったよ」

「あのシェスカでも、ドラゴンスレイヤーの本当の力を発揮できてないのか?」

「そうだ。きっと彼にしか無理だろう」

「私でも駄目なのか?」


 突然の質問に、キャフは意外な顔をした。

 今まで、サムエルとフィカを比較することすら思いつかなかった。

 だがフィカの顔は真剣で冗談では言ってない。

 彼女も今や相当な腕前だ。

 この前ギムと一緒に戦えたし、能力には遜色ない。


 少し考えた後、キャフは答えた。


「どうだろうな。絶対に駄目ではないがタイプが違う。お前なりのやり方があるんじゃないのか。別の武器でも、サムエルを超えることは出来るだろう」

「そうか」


 フィカは、それ以上聞くことはなかった。


「こちらが本日のメインです」


 メインディッシュが運ばれてくる。今日はサランダ産豚のロースステーキと、モジャナ産の野菜の盛り合わせだ。戦争の混乱で例年より収穫が減った分、キャフや女王達は高値で買い取っていた。


「軍の様子はどうですか?」


 マドレーが、話を変える。


「ああ、今日も訓練と作戦会議に明け暮れたよ。マドレーも今度来てもらえるか? モドナの壁をどうぶち破るか、まだ決めかねているんだ。特殊部隊や攻城兵器が必要だろう。だが具体的な作戦がまとまらず、喫緊の課題になっている」

「偵察隊とか、避難民からの情報はないんですか?」


「外見の情報はある。だがずっとだだっ広い壁に覆われているだけで、それ以上の情報はない。隙間なく埋められ、どこにも穴はないようだ。高さも50m以上あるらしい。それに壁ができてから、逃げてきた民はいないそうだ」

「そうですか…… 幾つか案があるので、今度、議会を休んで行きましょうか」

「すまん、助かる」


 酒蔵に残してあったお酒を飲んで、会話も弾んだ。

 幸い誰も酔い潰れることもなく、マドレーは帰って行った。



 それから数週間経ち収穫も一通り終えた秋の日、ようやくモドナ出征部隊が編成される。今までの功績から当然キャフが隊長に任命された。副隊長もマドレーで、いつものコンビだ。


「お前ら、今まで良くやってくれた。だがこれからは失敗が許されない。どんな手を使っても良い、モドナを奪還してこい!」

「はい!」


 今や第七師団団長に加え副総司令官に昇進したナゴタ大将に檄を飛ばされ、キャフ達はモドナへの進軍を開始した。

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