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魔法を使えない魔導師に代わって、弟子が大活躍するかも知れない  作者: 森月麗文 (Az)
第十二章 魔導師キャフ、雷の方舟に遭う
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第166話 改革

前回のあらすじ


サプライズ演出にびっくり! 怒ってなくて、良かった……

「マドレー君、いやマドレー大佐、今回もご苦労だった。良くやってくれた。君のおかげでアルジェオンも安泰だな。キャフ少将と共に二階級特進、おめでとう」


 ここはスカイカフェ。議会の休み時間、

 タージェ評議員長に誘われたマドレーは2人でお茶をしている。


 イデュワに帰還後、再び女王の補佐官に任命されたマドレーは大忙しだ。

 タージェ評議員長としては労う意味合いもあったのだろう。

 マドレーも彼のことを嫌ではなかった。


 夏も既に終わり、秋の日差しがやわらかい。


「ありがとうございます、“君”で結構です。最悪は脱しましたが、未だ戦況は分かりません。クムール軍がこのままで終わるとは思えません。講和の大使や密使は来てないんですよね?」

「……その通りだ。終結への道のりはまだ見えていない」


 カフェは長閑な空気だが、2人の顔つきは険しい。


 モンスター生息域まで追い詰めたものの、クムールは降参の“こ”の字も出さず、壁に覆われたモドナ奪還の目処はまだ立っていない。


 そしてムナ皇子(アースドラゴン)が残した最後の言葉が、キャフ同様マドレーも引っかかっていた。


「キャフ少将も交えて話をしたかったが、彼も忙しいかね?」

「ええ。誘ったのですが『訓練でそれどころじゃない』と、つれない返事でした。もともとキャフ少将は、このような(まつりごと)に興味が無いのです。今はモドナ奪還作戦の準備で多忙ですし」


 タージェ評議員長は、残念な顔をした。


「そうか。彼もいずれ第七師団の団長かそれ以上になるだろう。また別の機会にでも、ゆっくり話をしたいものだな」


 キャフやマドレーの活躍もあり、軍の空気も変わりつつあった。


 カジャーリー総司令官はその空気に抗えず、議会はかつての平時より風通しが良い。それにタージェ評議員長も、相手の弱みにつけ込んで我を通すような悪行はしない。だからルーラ女王の悩みも軽減し、以前より元気そうだ。


 まだアルジェオンにも、結束力は残っている。


「物流関係は助かりました。今までの割高な軍の物資より、質や値段や速度のいずれも向上しました。軍もやり方を参考にして改善するようです」

「それは良かった。公平な競争は必要ですからな」

「ええ、その通りです」


 頼んでいたお茶が来たので、2人とも飲み始める。

 マドレーが飲むお茶の葉は、タージェ評議員長が治めるサランダ自治州産だ。


「美味しいですね。今年の収穫はいかがですか?」

「ありがとう。おかげ様で豊作だよ。我が領地がある限り飢餓は起きないから、安心してくれ。西方のナジェ国とも不可侵条約を締結しているし、我が自治軍もしっかり国境を見張っている。君達はモドナへ集中してくれたまえ」

「ありがとうございます。この戦争が順調なのも、タージェ評議員長のおかげです」


 マドレーは深々とお辞儀し、礼を言う。実際アルジェオンがここまで安定した戦いを続けられるのも、内政を担当するタージェ評議員長のおかげだ。彼が睨みをきかせているお陰で、リル皇子一派もうかつに手を出せない。


「いやいや、実際に戦う君達のお陰だよ。それより改革は進むかな?」

「どうですかね。やはり利益構造は強固ですよ。王族はともかく、アルジェオン建国に貢献した一族が裏で支配層として君臨し、利権を貪っているのは事実です。そうなると人間本来の能力ではなく、血と伝手が全てとなる。学歴社会も含めて行き着いた先が今ですから」


 完全な実力でここにいるマドレーとしては、忸怩たる思いであった。自分と同じくらい優秀な同僚もいたが、様々な理由で既に活躍の場を失っている。もう少しなんとか出来ないかいつも考えていた。


「そうだな。我が一族もその系譜に連なっている。それも事実だ」

「もちろん、それが悪いとは一概に言えません。幼少から現場を見ているので能力が高い人も多い。ですが本当の意味で能力主義にするには、相当な努力が必要でしょう。キャフ少将のように大きな後ろ盾が無い人は足を引っ張られ、出世の道を閉ざされます」


 マドレー自身はずっと王道ど真ん中にいた身だから、その下らなさを誰よりも良く理解していた。不自然に話が進む大規模事業の背景を調べると、大抵は王族か貴族、あるいは軍上層部の顔が見えてくる。アルジェオンの弱体化も必然だ。


「どうすれば良いと思う?」

「人の能力本位で役割を選別できれば良いのですが、時間も手間もかかるから簡単では無いですね」

「まあ、そうだな。それに人間は、やらせてみないと分からない事もある」


 タージェ評議員長も相当な苦労をしてきたから、マドレーが言わんとしている事を理解していた。


「そうです。役職につけてみないとその人本来の能力は分かりません。それに今の制度では不相応だった時、別の人に変えるのも簡単では無い。皆安定した生活が欲しいですからね。無能と言われようが必死になって職を守りますよ。それに無能と自覚した人間は無能同士で集まり、醜悪でしつこい力を生み出します。それが一番たちが悪い」

「そうだな。それに私も今の時代の若者だったら、同じようにやれていたかは分からんよ」

「確かに、時の運もありますね」

 

 世の中、1人ではどうにもならない事も沢山ある。様々な偶然に巡り合わなければ大掛かりな改革は不可能だろう。この国難がアルジェオンの繁栄に繋がる可能性はマドレー達にかかっていた。


「やはり有能な人材を、純粋にすくい上げるシステムが必要です。試験とか内申書みたいな怪しい判断基準ではなく、王立学校みたいにどこか特定の学校に頼る事もなく、子供たち個々の能力を最大限に発揮できる場を用意するのが大人の務めです。例えば能力ある先生たちに権限を与え、国がお金を出して全国を巡回させて有望な子供達を見つけてくるとか、能力無関係に優秀な教師の講義を聴かせるとか。刺激を与えれば予想外の化学反応が起きます。人の可能性は簡単に図れるものじゃありません」


「面白い考えですな」

「他にも考えている事はあるんですけどね、単なるアイディア止まりです」

「いやいや、是非その力をアルジェオンで発揮してください」


 その後も雑談し、また議会へと戻る。今日の会議は思ったより早く終了した。まだ夕暮れより早い時間なので、マドレーは王立図書館へと向かう。


 大理石の大きな柱に囲まれた入り口から、足音を響かせないようにそっと入る。広い空間は人を厳粛な気分にさせ、多くの人達が静かに読書していた。


 この王立図書館はアルジェオン建国以前も含めた歴史書など様々な書物が保管されている、王国一の図書館だ。俗世間を離れ歴代の知に出会えるこの場所が、マドレーは好きだった。棚にある本は全て読破している。


(記録庁も、しっかりして欲しいよな……)


 図書館などは記録庁の所管になるが、閑職と揶揄される小さな組織だ。

 マドレーは、常々記録の重要性を痛感していた。


 政治は常に決断が求められる。

 そしてすべての決断がうまくいく訳ではない。


 だから決断と至った経緯の議論を両論併記し当時の記録を詳細に残す事が、後世への礎になると思っていた。


(でも、嫌がるだろうな……)


 問題は当然ながら、時の為政者に都合よく改竄される可能性が常にある事だ。そのため独立性と中立性を保って欲しいものの、現実はそうならない。


 女王の補佐官になり議会に出入りし始めた頃、非常事態だから書記官に全ての議事録を記録するよう命じた。幸い遠征中もそれは守られていた。戦争終結の暁には全記録がここに保管されるだろう。


 今日の目的は、古代史だ。予想通りだが書棚はない。


 マドレーは受付の司書に問い合わせ、普段は閲覧不許可の古文書の閲覧を申し出る。


 クムール建国前のここレガス大陸に伝わる古文書関連の保管目録を見せてもらい、幾つかの閲覧を願い出た。司書は今日の閲覧状況を調べると、意外そうな顔をする。


「一日で2人がこれを閲覧するのは、珍しいです」

「もう1人、いるのですか?」


 こんな本に興味を持つ人がアルジェオンにいるとは、意外であった。


「はい、今貸し出し中ですね。地下の部屋になるので行きましょうか」


 司書に案内されてその部屋に行くと、そこにはミリナがいた。熱心に古文書を読みふけり、扉を開けた音やマドレー達の姿に全く気付いてない。


「こんにちは、ミリナさん」

「あ、はい? マドレーさん?」


 ようやく気づき、ミリナはこちらを向いた。

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