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第164話 共闘

前回のあらすじ


やべえと思ったが、皇子が来てくれた!

「しかし全く、わしが何故、お前ら下等な人間ごときの低俗な争いに巻き込まれなくてはいかんのじゃ? 龍の咆哮(ドラゴン・ブレス)もただでは無いのだぞ?」


 ふと我に返ったのか、宙に浮く皇子は不機嫌になった。昔のアースドラゴンでいた時と口調も似てくる。確かに皇子の言う通りだ。人間より遥かに高位に位置するドラゴンが、こんな人間のエゴ剥き出しの戦争に加担する必要なんて無い。


「その通りだ、すまねえな」


 キャフは皇子に向かって謝る。イシュトの魔法効力が薄れたらしく、キャフを縛る地面からの手は消滅した。キャフも術式を作動させ、皇子の援護準備に取りかかる。


「お間に言われても、な」


 キャフの謝罪に皇子は苦笑いしていた。


「ど、龍の咆哮(ドラゴン・ブレス)、だ……と? お、お前はドラゴンなのか?」


 イシュトは目を見開き、恐れ慄いた。ここに来てようやく、自分の形勢が不利であると理解したようだ。攻撃魔法を諦め防御魔法に振り、イシュトの前に光の盾が築かれた。


「やっと分かったか。お前の力はキャフくんより上だ。アルジェオン最高の魔法使いであるキャフくんと弟子2人をあわせても、今じゃお前に勝てない。だがな、此処にはわしがいるのじゃ」


 皇子の右腕から、どす黒い炎が現れる。全てを滅する炎だ。

 それは先ほどのイシュトが発した炎より、遥かに邪悪であった。


「喰らえ!! 死の炎(デス・ファイア)!!」


 振りかざした右腕から、龍の形をした真っ黒な炎がイシュト目掛けて飛びかかった。

 光の盾も簡単に砕かれる。


「くそっ!」


 イシュトは直撃を覚悟し、全身を防御魔法で覆う。


 グサッ!!


 だが真っ白な光が、黒龍の炎を切り裂いた。予想外の事態に皇子も驚く。

 キャフも思わず術式の作動を止め、イシュトの方を見た。

 そこには、もう1人の姿があった。


「お前は!」

「正義の味方、参上よ!」


 皇子(アースドラゴン)の炎を切り裂いたのは、シェスカのドラゴンスレイヤーだった。


 今のシェスカは、昔みたいにフル装備をしている。昔の冒険時と衣装は違うけれど、『アサシン(暗殺者)』の称号を持ち瞬間移動(テレポート)が得意技とする彼女だけあって、軽装でも丈夫だ。切られない自信があるのか、相変わらず露出も多い。歳の割に肌は相変わらず綺麗だった。


「おお、シャルロッタ様。面目ない」


 本名を知るイシュトがシェスカに礼を言う。


「しょうがないね。でっかいトカゲめ、私が串刺しにしてやる!」


 シェスカはドラゴンスレイヤーを振りかざし、アースドラゴンへと向かって駆けて行った。天敵の武器の登場で、皇子の顔からは先ほどまであった余裕が薄れる。ドラゴンスレイヤーから発するビームに対し、皇子は防御に専念するしかない。すると回復したイシュトが更なる魔法攻撃を仕掛け、さすがの皇子も苦戦し始めた。


「し、シェスカさん……」


 魔法を忘れ、キャフは茫然としていた。皇子を援助するのが当然だが、シェスカさんの姿を見ると闘争意欲が減退する。攻撃魔法を出そうにも3人の闘いは高速で繰り広げられていた。シェスカとイシュトだけに的を絞るのは、いかにキャフでも難しい。


(や、やんなきゃ……)


 頭では分かっているが、体が動かない。その間もシェスカとイシュトが、激しい攻撃で皇子にダメージを与える。キャフだけ蚊帳の外だ。千載一遇のチャンスであるのに、キャフ自身がそのチャンスをみすみす逃していた。


「おい、キャフくん、ちょっと手伝ってよ!」


 皇子も援助を請う。はっとして我に返ったキャフは、詠唱を始めた。


「坊や、私を殺せるの?」


 すると瞬間移動(テレポート)で、キャフの間近に来たシェスカが、妖艶な笑みを浮かべて問う。大人の色気というか、キスできそうな距離に迫るシェスカに、キャフは魔法を繰り出せない。それが恐怖であるのか、シェスカに対する想いであるのか、キャフには分からなかった。


「私も、坊やを殺すのは辛いから、おねんねしてね」


 グホッ!!


 シェスカの一撃はキャフのみぞおちを直撃し、苦悶の表情でキャフは倒れ込む。


(シ、シェスカさん……)


 苦しみながら、キャフは現状を悟る。ドラゴンスレイヤーの威力は、皇子へのダメージを確実に蓄積させていた。とにかく皇子を助けねばならない。キャフは決心し、3人の闘いを窺いながら気づかれぬように、魔法杖の術式を作動する。


 3人の激闘は、しばらく続く。

 だがちょうど2人の攻撃に間が空いた、その時だった。


雷撃剣(サンダー・ソード)!!」


 狭い空間なので、少ないが大きな雷の剣を2人に向けて放つ。

 キャフに続けて、皇子が攻撃を畳み掛ける。


龍の咆哮(ドラゴン・ブレス)!!」


 皇子の格好にも関わらず、口から物凄い炎が、2人目がけて放たれた。

 2人の合わせ技は威力十分だ。


「ウワァア!!」

「キャァーー!!」


 激しい爆発で砂煙が巻き上がり、視界が遮られる。

 そして晴れた後には、全てが消滅していた。


「やった……のか?」


 キャフは手応えがなく、戸惑う。


「彼らが簡単にやられると思う?」


 皇子は、あくまで冷静である。

 

「そうだな、空間魔法で逃げたか……」

「まあ、厄介だね。とにかく4人を助けよう」

「あ、そうだった」


 キャフは石化した4人に駆け寄ると、イシュトがこの場から消えたおかげで魔法の効力が消えつつある。白い石像が見る見るうちに元に戻り始め、ほっとしたキャフであった。


「お前ら、大丈夫か?」

「あ? ああ。一体どうしたんだ?」

「石化魔法をかけられたんだよ、ギム。あの魔法使いはクムールで一番の使い手だ。油断したな。今も逃げていっただけで倒せてはいない」

「そうだったのか、面目ない」

「お前らも戻るぞ」

「分かった」

「さすがキャフ師、ありがとうございます」

「どうもですニャ」


 6人でそのまま洞窟を進み地上へと出る。そこはチグリット河岸であった。イシュトの気配はどこにも感じられない。やはりイデュワの時と同様、異空間を使ってクムールへ戻ったのだろう。キャフは通魔石を使い、マドレーへ連絡をとる。


『おい、マドレー、聞こえるか?』

『はい、キャフ中佐。今どこですか?』


 直ぐに繋がる。元気そうだ。


『チグリット河岸だ。お前の目標通り、敵の輸送路を叩き潰した』

『そうですか! こちらは皇子が潰した他のピラミッドに入り、ダンジョン攻略中です。そちらにはオーク・コボルト隊の一部を向かわせます』

『ああ、助かる』


 こうしてモンスター生息域での戦いは、アルジェオンの勝利で終わった。

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