第163話 敵わぬ相手
前回のあらすじ
や、やべえ。バレてた!!
「今度は魔法使いか? ショボそうだな」
予想外の敵の姿に4人は虚を突かれた。
魔法使いには陰キャが多いし、体格も貧弱だ。
特にギムは偏見でそう見がちである。
「これなら私達でやれますニャ!」
「そうですね!」
「じゃあ、まずは2人に任せる」
「あ、ちょっと……」
キャフが止めようとする間も無く、勝手に話がまとまったらしい。
まず自信に満ち溢れるラドルとミリナが、魔法の波状攻撃をしかけた。相手の背丈より巨大な火の玉をラドルが投げつけ、ミリナが足元に地震魔法を食らわせる。その背後からフィカとギムが更に攻撃を仕掛けようと突進して行った。
4人の速さについていけないのか、その魔法使いは微動だにしない。
(あいつら、イシュトを知らねえんだ……)
キャフだけが、嫌な予感をしていた。
あのイシュトが、ヘマをするとは思えない。
そしてキャフ以外の4人がイケると思ったその時、魔導将軍から見たことのない紫の光が四方八方に発せられて4人を捉えた。
ピカッ!!!
「うぐぉお!!」
「ふニャ! ニャァ……」
「きゃあぁあーー」
「うわっ!!」
ドスン!! ドン! ドサッ! ドシン!
4人がその邪悪な光に接した瞬間、体が硬直して倒れ込む。
キャフですら、何が起きたのか分からなかった。
だが駆け寄ってみて生きているようにリアルな四つの白い石像を見た時、石化魔法をかけられたと悟る。
「おい!」
叩いてみても反応がない。下手に壊したら命の危険がある。
応急処置として、キャフは四体に防御魔法をかけた。
「これがアルジェオン最強のメンバーですか。相手の技量を計れないとは情けない。冒険が上手くても戦争体験が無ければ、所詮こんなもんですか」
「きさまぁあ!!」
余裕あるイシュトの笑みに、キャフは雷撃で応える。だが無数の雷撃もイシュトの前には全く無意味であった。フルパワーで無いのを見透かされているのか、直撃してもダメージを与えられない。
(ヤベエな……)
この前は、久々に魔法を使える万全の状態で対峙できた。今は魔素も満タンでは無い。あの隕石流星雨並みの魔法を何度も繰り出されたら、いくらキャフと言えども敵わない可能性がある。
相手の様子を見るため、雷系の魔法で攻撃する。だがイシュトは避けようとすらしない。彼のレベルではその必要すら無いらしい。
「あんたも、これぐらいか? この前はもう少しやるかと思ったんだが。さすがにこの軍事拠点まで潰されると、私達も苦しくなるのでね。早めに終わらせよう」
そう言ってイシュトは、何か詠唱を始める。
キャフも相手の攻撃を予測して、防御魔法を唱え始めた。
魔法消費が激しいから、少しでも回復に務める。
敵になんと言われようとも時間稼ぎが必要だ。
(隕石か剣、だろうな……)
恐らくイシュトの得意技はその辺だ。物理攻撃をかわすため、防御魔法を唱える。
キャフが覚悟を決めている時、イシュトが魔法杖を大きく振りかざした。
すると足元がぐらつき始め、地面から無数の手が伸びてきてキャフを捕まえた。
ガガッ!!!
「うわ、なんだ、止めろ!」
土の手は人間で、何度もがいてもキャフは離れられない。
慌てて魔法を発動するものの、効かなかった。
「お前も甘いな。同じ攻撃ばかりすると思ったのか?」
イシュトは興醒めした目で、身動き取れないキャフを見た。
「お前がいなくなれば、アルジェオンの占領も直ぐだ。悪く思うなよ。あ、そうだ、クムールに来るか? 高待遇にしてやるぞ」
キャフを嘲るその顔は、勝利を手に入れたも同然といった風だ。
「誰が、お前の所なんかに。どうせグタフみたいに使い捨てにすんだろ!」
「グタフ? ああ、あの雇われ魔法使いか。融合モンスターの実験台にちょうど良かったな」
「てめぇえ!!」
キャフは魔法杖を強く握り、イシュト目掛けて再び雷撃を繰り出す。
「無駄だよ」
イシュトの言うように、キャフの攻撃は簡単に跳ね返された。
(畜生……)
今のキャフには、打つ手がない。
身動きも取れず、ここままでは体のいい的になるだけだ。
(どうすりゃ、良いんだ……)
「敬意を表してお前の力を見せてもらったが、どうやら買い被りだったな。新大陸でも上位だった私に敵う相手が、アルジェオンごときに居る筈はやはり無かったか」
イシュトの詠唱が始まる。勿体ぶって時間をかけるが、キャフにはなす術が無かった。
「漆黒の雷撃!!!」
どす黒い光の球がキャフ目がけて襲ってくる。
(これで、終わりか……)
キャフは完全に全てを諦め、目を瞑った。
ドスッ!!!
目を閉じて最後の瞬間を待ち構えいた。
だが、何時迄待ってもその瞬間はやってこない。
——恐る恐る目を開けると、キャフの目の前には、宙に浮いてイシュトの魔法攻撃からキャフを護るムナ皇子の姿があった。白く輝いている。
「お、皇子……」
「遅くなってごめん。ピラミッド全部壊したよ」
人間の姿に戻っているものの、魔法の力に問題は無いようだ。
「なんだお前? 邪魔しやがって!」
予期せぬ展開に、イシュトは更なる攻撃魔法を皇子目掛けて放つ。
だがどれも皇子の手前で無力化される。
「相手の技量を計れなきゃダメなんじゃ無いの? 聞いてたよ?」
「うるさい!!」
先ほどとは打って変わり、イシュトの表情には焦りが見えた。
「形勢逆転だね」
皇子は、不適に笑う。




