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第162話 行く手を阻む者

前回のあらすじ


いつものメンバーに加え、今回はギムが一緒だ。心強い。

「ギム様、お尋ねしたい事があるのですが……」

「? どうした? ミリナさん?」


 ミリナからの突然の質問に、ギムは戸惑った。息子シドムのパーティーメンバーだったから、ギムはミリナを覚えている。だが謁見でも直接喋ることは無かったので、唐突に話しかけられ何事かと感じた。


 化け物モグラの後ろにあった通路は広く、貨物用のトロッコ線路が延びている。明らかに重要拠点だが、敵の姿はない。今は5人パーティーとして、先頭は左にフィカと右にギム、その後ろの左がラドルで右がミリナ、そして一番後ろがキャフのフォーメーションを取っている。ちょうどミリナはギムの後ろに位置するから、話しかけやすかったのだろう。


 高い天井が音を反響させ、ミリナの声はよく通る。なので2人っきりとはいかず、残りの3人も自然と耳をそばだてていた。ラドルがかざす魔法の炎で各々の顔は見えるが、通路の先にあるのは真っ暗な闇だ。


「シェスカさんて、どんな人だったんですか?」


「おい!」


 ギムではなく、後方にいるキャフから焦った声がする。


「だってキャフ師、シェスカさんの話をする時だけ挙動不審なんですよね。目が泳いでて、心ここにあらず、ていう感じ? 女の勘ですが、なーんか怪しいんですよ。だって私達、あの女に殺されかけたんですよ? 裏切られてショックで憎んで当然なはずだけど、ちっともそんな気持ちを感じないんです」


 ずっと疑問だったようで、ミリナは一気にまくし立てた。

 よほど言いたかったようだ。


「お、ミリナちゃん、良いこと言うニャ」

「私達が隊の指導で忙しくて寂しいかと思いきや、全然そんなそぶりも無いですし」


(や、ヤベえ。バレてる……)


 図星をつかれ、キャフは内心慌てる。

 とにかく表情を悟られないよう、4人から目を逸らした。


「い、いや、そ、そんな事ないぞ。だいたい、ミリナ、お前はオレの弟子だろ。し、師匠の、変な詮索するんじゃない!」


 キャフは師としての威厳を繕い誤魔化すため、高圧的な口調で話す。

 だが声も震え、明らかに説得力がない。


「いえ、魔法の指導には感謝してますが、プライベートは別です」


 案の定、素っ気なくミリナに返され、二の句を継げないキャフであった。初めて会った頃より、酔わなくてもズケズケと物を言うようになった。魔法の成長は嬉しいがこんな成長は要らないと、心の中でキャフは呟いた。


「私も同感だ。本当は裏切った憎い敵のはずなのに、あいつの話が出ると口元がにやけてるの、分かってたぞ。そもそも、お前が色仕掛けに引っかかってアースドラゴン(皇子)を倒さなきゃ、こうならなかったんじゃないか?」

「そうですニャ、美人な弟子にも、あんな顔見せてなかったニャ!」


 あとの2人もミリナへ援護射撃をし始め、孤立無援のキャフである。


「はっはっは。キャフ、お前、まだ好きなのか?」


 3人の様子を聞いて、ギムは笑っていた。


「い、いや…… もう敵だし……」


 自分に言い聞かすように言う、キャフの声は小さい。


「やっぱり、好きだったんですか?」

「ああ、昔、俺と2人でいると、シェスカの好みをやたら聞いてきたしな。うっとおしいから早く告れと言っても、パーティーを解散した最後まで言わずじまいだった」

「おい! それ言うな!!」


 ギムも、向こう側に回る。まさに四面楚歌と言って良い。

 針の筵で、生きた心地がしないキャフであった。


「今、シェスカさんが誘惑してきたらどうするんですか?」

「え? ど、どうしよう……」


 キャフは、本気で悩んでしまい、無言になる。


「ちょっと、マジですか!? それで悩んでたら、アルジェオン滅びますよ! ルーラ女王のお仕置きですよ!!」

「え、そ、それもヤダな……」


 頭の中で、いろんなイメージがぐるぐると回り、混乱してきた。なんでこんな事を聞かれているのか全く理解不明で、ここに居る目的が分からなくなりそうだ。もう帰りたいキャフである。


「お前、ちょっと優柔不断すぎないか?」

「師匠、情けないニャ」

「だから私達も、イラついてるんですよ。もうちょっと、しっかりして下さい!」

「は、はい……」


 3人に諭され、意気消沈する。


「お前、良い弟子を持ったな」


 ギムはそんな様子を見て、楽しそうだ。




 シャーーー!!!


 一行が下らぬ話に興じている時、暗闇の向こうから蛇の威嚇音がした。

 咄嗟に戦闘態勢に入り、ラドルが天井に向け、照明弾代わりにファイアボールを打ち上げる。


 その姿は、おぞましかった。頭は三匹の悪魔蛇(デビル・スネイク)だが、胴体や背びれは巨大イグアナ、手足は凶悪熊のそれだった。


「うわ、また融合モンスターか……」

「シェスカさんじゃなくて、良かったですね」


 ミリナの憎まれ口に突っ込む間も無く、モンスターが三つの口から火を吹いてきたので、5人は退避する。攻めあぐねる中、後方にいるキャフが空中浮遊で向かっていく。


「ここは、オレがやる!」


 まるでさっきの失点を取り返すような勢いだ。「気をつけろ!」と呼びかけるフィカの声も聞こえないらしく、そのまま魔法杖で術式を唱え始めた。


雷矢(サンダー・アロー)!!」 


 キャフの鬱憤を晴らすかのように、無数の光の矢がモンスター目がけ飛んで行った。


 しかし矢が届く寸前、モンスターが全身から青白い光を放った。するとその矢は鏡に反射するかのように反転し、キャフ目がけて飛んでくる。


「うわ、ヤベ!!」


 自分の魔法で死んだら、情けない。

 キャフは慌てて防御魔法をかけ、なんとか凌ぐ。


「ちょっと、落ち着いたら良いんじゃないですか?」

「キャフ、お前は下がってろ」


 ミリナやギムに言われて、すごすご後方へ戻る。全く情けない。


「じゃあ、やるか」

「おう!」


 フィカとギムのコンビは、相性が良いらしい。以前はキャフがやっていた指示も、ギムであれば同様にできる。ミリナも、大地系の魔法でモンスターの足元をぐらつかせ、相手を不安定にさせた。


 暴れるモンスターを冷静に見極めながら2人は左右に散って、モンスターに的を絞らせないように攻撃を続ける。フィカのアシストでギムが隙を見つつ、三匹の蛇の頭を順に切り落としていく。


「これで最後だ!」


 こうして、無事にモンスターを始末した。


「良い調子ですニャ」

「回復魔法、かけましょうか?」

「ああ、助かる」


「キャフ師は、大丈夫ですね」

「あ〜良いさ、どうせ」


 ミリナの待遇に、不貞腐れるキャフである。

 だが4人はキャフを気にも止めず、先を急ぐ。

 そして曲がりくねった通路を、更に進んだ時だった。


 ヒュッ!! ドスン!!


「危ない!」


 急に隕石が、降ってきた。間一髪で先頭にいる2人が避ける。


「ここまで、来ましたか」


 その声は、キャフだけが覚えていた。魔導将軍イシュトだ。

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