第161話 地下に潜むもの
前回のあらすじ
いや〜 久々に大暴れしたけど、やっぱ馬に乗って攻撃するの、しんどいわ。
キャフ達後続隊がピラミッドに到着した時、既に工兵達は内部侵入の為に爆弾を仕掛けていた。被弾して爆発したピラミッドは、一部が溶けて焼けただれている。黒煙が上っており、まだ内部のどこかが延焼中らしい。
間近で見るピラミッドは巨大で、高さ60mほどある。レスタノイア城まではいかないが、サローヌ城ぐらいの高さだ。ここからモジャナの砦までかなりの距離なので、光の大砲を届かせる為にはこれくらいの高さが必要なのだろう。クムール帝国の技術力も侮れない。
少数の冒険者達で挑むダンジョン攻略と違い、軍隊は何事にも人数をかけ、組織的に作業する。だからここは工兵達に任せる時だ。
『爆破準備が整った。兵を下がらせてくれ』
しばらく経って工兵隊長がマドレー達に連絡をしてきた。齢五十越えの古参兵である。手慣れているのだろう、作業が早くて助かる。
『今から爆破作業を行う。全員、後方に退避』
マドレーの指示で、兵士達がピラミッドから離れた。
そして『3……2……1、爆破!!』の掛け声と同時に巨大な爆発音が起こり、更なる黒煙がもうもうと立ち上る。しばらく待った後に工兵達は再びピラミッドに入り、瓦礫の撤去作業を始めた。ラドルやフィカ達も手袋をつけ、顔を真っ黒にしながら頑張っている。
「順調かな」
だが急に工兵達の間で怒声が飛び交い、慌しくなった。
『どうした?』
『敵襲です! 動く石像が来ました!』
見ると彼らの背丈より大きな四つ足の動く石像が数体、ピラミッドの瓦礫を乗り越えて這い上がってきた。他の部隊も集まり動く石像に挑むが、あいつらの装甲は頑丈で、オークやコボルト達がまともに切りかかっても太刀打ちできない。
「あれ、どうせ反魔法装置ついてるよな?」
「かなりの確率でそうでしょう」
「じゃあ、任せるしかないか」
「そうですね」
マドレーとキャフの予想通り、ラドル達が放った魔法攻撃は全く効かない。だが足の関節部を重点的に狙う攻撃は、この動く石像相手にも有効だった。経験を積んでいるフィカが一体を倒すと、兵士達も次第にコツを掴み始め、時間をかけながらも撃退に成功する。
「どうだ? 新手は来ないか?」
「大丈夫のようです」
「じゃあ、作戦通り、モンスターと獣人兵から侵入せよ」
「了解!」
いよいよダンジョンへと向かう。オークとコボルト隊が先頭で、ラドル達獣人兵が次に続く。このような場所では、人間の利点は小さい。後方支援として人間のアルジェオン兵がその後に続いて行った。
『ラドル、大丈夫か?』
『暗いけれど大丈夫ですニャ。通路も広いですニャ』
『火には気を付けろ。水系の魔法で消化しながら進め』
『分かりましたニャ』
ドッカーーーンン!!!!
突然、大きな爆発音と振動がする。何事かと思ったら、別のピラミッドが、皇子の手で破壊されていた。向こうでも黒煙が上がる。順調らしい。
『い、今の揺れは、何ですニャ?』
焦った声で、ラドルが連絡をしてきた。
既に内部にいるから、状況が分からず不安なようだ。
『ああ、アースドラゴンの龍の咆哮だ』
『皇子? もうちょっとデリケートにやって欲しいニャ〜』
キャフの話を聞き、ラドルは安心した口調になっていた。
『分かった、ミリナに伝えるよう言っておく』
『あ、キャフ師、すいません。私もマッピング要員としてフィカさん達と一緒にもうダンジョンの中にいます』
ミリナが返答する。
『そうなのか? 分かった。じゃあオレから言っとくわ。とにかく無事を祈る』
『はいですニャ』
『了解だ』
『何かあったら、連絡しますね』
ともあれ、無事で何よりだ。
キャフは、皇子に向けて通魔石を念じた。だが返事はない。
(あいつ、無視してんじゃねえだろうな……)
仕方ないので、皇子への苦言は諦める。
「どこまでやらせる?」
キャフはマドレーに聞く。作戦の目的をはっきりさせたい。
「モンスター達の情報によれば、他のピラミッドにつながる通路があるんですよね。それは恐らく、チグリット河岸まで繋がる輸送通路のはずです。その破壊が今回の作戦目標ですね」
「分かった。今は待とう」
だがこのまま無事では、済まなかった。
『うわ、化け物が出てきたニャ!!!』
ラドルの叫び声が、通魔石から届く。
『おいラドル、大丈夫か?』
キャフが呼びかけるが、直接の返事はない。
代わりに、「魔モグラだ!! 大きいぞ!!」「こんなバケモン、見た事ねえ!!「怯むな、かかれぇ!!」と他の兵士達の声が聞こえ、背後には、ギャァアア!!!!と、兵士達の叫び声が混じっていた。その数は、1人や2人じゃない。
「オレも行ったほうが良さそうだな」
「そうですね。よろしくお願いします」
「ああ、お前はここで全体指揮を取っててくれ。砦にいる軍隊との連絡も頼む」
「了解です」
「俺も行こうか?」
ギムの顔は明らかに”俺も連れて行け”と、言っている。
「どうせ、ダメだと言っても来るんだろ?」
「ふふ、分かってるな」
キャフは、ギムの性格を良く知っていた。
それに体力も回復したから十分戦力になるので、来てくれると心強い。
「じゃあ、行くか」
「ああ」
こうして2人もピラミッド内部へ侵入した。内部では兵士達が慌ただしく作業を行っている。聞いても、ラドル達の状況を知らないようだった。更に地下深く潜る必要があるらしい。
『ラドル! どの辺にいる? ミリナやフィカもいるのか?』
『師匠、かなり奥ですニャ! 十層辺りですニャ!』
『私達も攻撃しています!』
『分かった! とにかく持ち堪えろ!』
兵士達の導きに従い五層を超えたあたりで、兵士達の様子が変わっていく。下から逃げてきた兵士もいた。どんなモンスターなのか聞いてみると、「モグラのでっけえの」と言うばかりで要領を得ない。「頭が三つある」とか、「前足がノコギリになってる」らしい。おそらく融合モンスターだろう。
「急がねえとな」
「ああ、モグラ叩きなら任せとけ」
八層あたりから、振動と叫び声がキャフ達にも聞こえてきた。モンスターの唸り声と共に沢山の悲鳴が上がる。血の匂いも漂ってくる。はやる気持ちを抑えながら下層へと降りていく。
そして十層目。
そこは他の層よりも遥かに天井が高く広大な空間であった。奥の方で攻撃魔法の炎が見えるが、キャフ達の周りはむせ返るほどに血の匂いが充満している。滑りかけたので足元をみると、地面は夥しい血で溢れ、負傷した兵士達があちこちに横たわっていた。
「ギム、動けるか?」
「おうよ! 行くぜ!」
2人は駆け寄り、そのモンスターの正体を知る。確かに見かけはモグラだ。だがモグラと言っても、人よりも三倍は大きな化け物だ。しかも他のモンスターと融合して頭は三つあり、巨大な前足には血に塗れた六つの鋭く長い爪がついていた。これでやられたらひとたまりも無い。
2人が来た時は、ちょうどフィカが懐に飛び込み攻撃していた。
だが分厚い皮膚で、モンスターはダメージを受けていない。
「魔法攻撃は効くのか?」
「少しだけは効くニャ!」
「じゃあお嬢さん達、ちょっと退いてな」
ちょうど後退してきたフィカと代わって、ギムは力の限りこのモグラの化け物に飛びかかっていく。領主の服では分からなかったが、改めて見ると年齢に見合わないほどの腕の太さで、軍服がはち切れんばかりだ。キャフじゃ絶対持ち上げられない薙刀を、軽々と振り回す。薙刀も刃の部分が大きく、青竜刀に近い造りである。
「うぉおお!!!!」
グサッ!!
ギムが振り下ろした薙刀は、化け物モグラの右前足を捉え切り落とした。
ギャァアアア!!!
モグラは痛みで暴れ始め、ギムに向かって口から炎を吐き出す。だがギムも素早く避ける。モグラが暴れる揺れで、時折天井から岩が落下した。援護しようもギムに当たる可能性もあり、キャフ達は後方に退く。
先ほどの疲労は取れて万全のようだ。ギムの薙刀が化け物を捉えるたびに、悲鳴がこだまする。一撃一撃がモンスターの命を削いでいく。悲鳴も弱々しくなり、最後の一撃が心臓を深々と貫いた時、化け物モグラは息絶えた。
「やりましたニャ!」
「ふう、昔なら瞬殺だったけどな」
まだギムには余裕があるようだ。やはり頼りになる。
そしてモグラの死体をどかすと、奥には広い通路が繋がっていた。
『マドレー、聞こえるか?』
『はい、大丈夫です』
『他のピラミッドに繋がる通路を見つけた。そのまま向かうが良いか?』
『分かりました。被害状況はどうですか?』
『かなり負傷者がいるな。ミリナの回復魔法で回復させたら、順次帰還させる。ここからはオレ達だけで行くのが良いだろう』
『分かりました。気を付けてください』
マドレーへの報告も終わり兵士達の救助を終えた後、ラドル、ミリナ、フィカとギムのメンバーで先を急いだ。




