第160話 ピラミッドの下へ
前回のあらすじ
いや〜 皇子さまさまっすね。
「キャフ、こうしていると、昔を思い出すな!」
「ああ、全くだ、ギム!」
キャフはギムと共に隊の先頭に立って馬を巧みに操りながら、モンスター生息域をさっそうと駆け抜ける。
合流した時、キャフはギムに行く必要はないと伝えた。
だがどうしてもと、半ば強引に押し切られる。
ギムの攻撃力は相変わらずだ。2人の手にかかればAランクのモンスターでさえ瞬殺である。やはりギムは冒険者として暴れる方が性に合っているようだ。
「あまり無理するなよ、齢なんだから」
「お前に言われたくねえよ、キャフ」
怪力で名を馳せたギムはこの齢でも丸太のように大きな薙刀を振りかざし、他より二回りは大きな愛馬に乗って現れるモンスターやクムール兵達を次々となぎ倒していく。
キャフの魔法と組み合わせれば向かうところ敵なし、地元じゃ負け知らずだ。
「やっぱ凄いニャ……」
「これが、アースドラゴンをも倒す勇者パーティーの力か……」
ラドルやフィカも負けじと進撃するが、彼らには敵わない。
このまま行けば、ピラミッドなんて簡単に攻略できるだろう。
だがベテラン2人には、致命的な欠点があった。
ゼエ、ゼエ、……
ハア、ハア……
森を抜け草原に出ると、もう息切れした2人は馬上でぐったりとしている。
引退したJリーガーが、記念試合の前半だけは往年のスピードで素晴らしいオーバーラップを誇るようなものだろう。きっとシドムがこの場にいたら「オヤジ、無理すんな」と、上から目線で言いそうだ。残念なことに、ピラミッドはまだまだ先にあった。
一方フィカ達は安定した運動量でモンスター達を圧倒し、先を進む。
後に続く兵士達も、攻撃力が弱いながらも果敢に戦う。
やはり、若さには勝てないようだ。
「齢には勝てねえな」
「全くだ」
そんな2人に、大きな影が差した。
見上げると、あれがいる。
「しかしお前から聞いてはいたが、久しぶりに見るな」
大きな影の正体は、アースドラゴンであった。
地上軍に歩調を合わせて旋回し、ゆっくりと飛翔している。
「本当に大丈夫だろうな? み、味方なんだよな?」
ギムはいささか緊張しながら、キャフに念を押した。
今の状態であれば不利なことを、ギムは理解しているようだ。
確かにここで龍の咆哮を浴びたら、一瞬で灰になる。
「ああ、大丈夫だ。あいつは裏切らない」
キャフの言葉にギムは安堵するものの、多少は恐れが残っているようだ。時折、警戒するように上空を見ている。
「しかし、サムがこれを見たらどう思うかね?」
ギムは、苦笑いしながら言う。
「またドラゴンスレイヤーで倒すかもな。今はシェスカさんが持ってるけど」
「かもな。そう言えば、おばちゃんがサムを殺したんだったな」
「ああ」
通魔石を介して、経緯はギムに伝えている。
初めて伝えた時、ギムはそれほど驚かなかった。
「この戦争もあれの延長だ。オレ達はクムールにはめられたんだ」
「因果なもんだ。ますます俺達が終わらせないといけねえな」
「違いねえ」
やっと体力も回復した2人は隊の後部につき、モンスター生息域を進む。
「お疲れ様です。大丈夫ですか?」
そこにはマドレーもいた。ピラミッドの大砲があるから、浮遊魔法で上空からの指示はできない。マドレーは攻撃力がないけれど、中央部にいるミリナと共に全体を把握して作戦を立てている。いつの時代にも軍師は必要だ。
「ああ、隊の状態はどうだ?」
キャフがマドレーに尋ねる。
「大勢に影響はありません。被害も軽微です」
「ありがとう」
「結構こいつらもやるな。俺たちが頑張らなくても良いかもな」
ギムはアルジェオン軍の戦いぶりを、感心して眺めていた。
「ああ。指導をちゃんとするし、士気も練度も高い。ようやくまともな軍らしくなったよ」
「これでいければ良いんだけどな」
そうこうしているうちに、ピラミッドが見えてきた。時折ピラミッドが放つ光の大砲が、アースドラゴンに撃ち込まれる。だが防御魔法をはっているので、全くダメージはない。
『じゃあさ、そろそろ攻撃するけど良い? 僕が壊し終わったら突入してね』
通魔石を介して、アースドラゴンの声が聞こえる。
『分かった、頼む』
『全軍、アースドラゴンがピラミッドを攻撃。衝撃波に備え、退避せよ』
『了解』
『分かりましたニャ』
爆風に巻き込まれないように、兵士達は手ごろな場所に身を隠した。
何も知らぬクムール兵とモンスターが襲ってくるが、防御魔法で回避する。
3……
2…
1
『龍の咆哮!!』
ドラゴンの身丈ぐらいある巨大な炎の球が、ピラミッド目がけ撃ち込まれる。
ガッガッーーーンン!!!
直撃し、目が眩むほどの大爆発が起きた。
『衝撃波くるぞ、伏せろ!!』
ドドーーーン!!!
マドレーの言葉と同時に凄まじい爆風が隊を襲う。馬も寝かせてダメージを最小限に抑えた。吹き飛ぶモンスターやクムール兵達がいるが、何もできない。
衝撃波が過ぎ去り立ち上がってあたりを見渡すと、爆風で木々もなぎ倒され、先端部が熱で溶けてひしゃげたピラミッドの姿が現れた。
『光の大砲は壊せたけど、地下までは無理だね。僕は残りのピラミッドも壊してくるよ。君達は、ダンジョンを攻略してくれ』
『分かった。協力に感謝する』
『水臭いよ、キャフくん。あ、ギムくんもいるんだ。久しぶり! 齢とったね。君の怪力にも散々痛めつけられたの、覚えているよ』
『あ、ああ。今回は協力ありがとう』
やはり昔を思い出し、ギムは緊張している。
『まあね。立場によって色々あるのは人間もモンスターも同じだよ。そう言えばキャフくん、融合モンスターは多分ダンジョンにもいると思うから気を付けてね』
『分かった』
こうしてアルジェオン・モンスター連合軍は、クムールの作ったピラミッドダンジョンへと突入した。




