第156話 別れ
前回のあらすじ
弟子が、モンスターになっちまった!!
4人は一か所に集まり、グタフの攻撃を防御した。
無数の剣が飛んできたり炎の嵐に囲まれたり凍てつくブリザードの猛攻受けたりと、多彩な技を繰り出してくる。彼の精神空間だけあってやりたい放題だ。
だがこの空間では反魔法の術が使えないらしい。ミリナやラドルの攻撃もグタフに届き、微々たるものだがグタフを消耗させる。しかしキャフ達は防御魔法だけで魔素がどんどん消費され、このままではジリ貧になる結果が見えていた。
「これ、ヤバいニャ……」
「キャフ師、もっとイキって頑張ってくださいよ」
「ちょっと待ってくれ」
そうは言ったもののキャフ自身、打開策を見出せない。
グタフは得意げに、これでもかと言うほど攻撃を繰り出す。
「キャフ先生、これでお別れだ。これでお前を抜けるんだ!」
グタフが最後の決め技を出そうと詠唱し始めた時、キャフが聞いた。
「グタフ、オレはずっと疑問に思っていたんだが、その、お前はなんでオレを抜きたいんだ?」
——
意外な質問にグタフは戸惑い、詠唱を止めた。
「なんでって、俺がキャフ先生より上にいけるからだろ!」
「なんで、人と較べるんだ? お前はお前じゃないのか?」
「うるせえ!!」
怒りで放ったグタフのファイアボールは目測が甘かったのか、キャフに脇をすり抜ける。キャフは冷静に話を続けた。
「オレにも師匠はいた。お前も知っての通り大聖人グラファだ。オレも師匠に憧れた。グラファ聖は素晴らしかった。オレもまだまだ学びたかった。でもな、オレはオレだ。お前みたいに自分がグラファ聖より上とか下とか、考えた事すらなかった。自分が何を出来るかを、上を向いてひたすら努力したんだ」
劣勢のキャフが思わず叫んだとき、グタフの攻撃が止んだ。
「なんで人と較べるんだ? お前、これで満足か? これでオレを殺したら抜いたことになって満足なのか?」
「うるせぇえええ!!! 黙れぇえええ!!!」
グタフは、更に一層巨大化する。
「師匠、これ、マジでヤバいニャ?」
「ああ、そうかも知れん」
「キャフ師、策があって煽ったんですよね? 今の炎上率1000%ぐらいありそうな煽り文句ですよ?」
「いや、策は何もない」
「はニャ〜」
「お前、大丈夫か?」
「本当に私たち死んじゃいますよ?」
不安になる3人を前にキャフは無心だった。
魔法を初めて使えた時、冒険者として低ランクモンスターを倒して初めて報酬をもらった時、ランクアップして皆から認められた時、そして勇者サムエル達とパーティーを組んで恐いもの知らずだった時……
魔法と関わり合った過去を、キャフは思い出していた。
(そうだな…… いつだって、やってきた)
キャフは、得体の知れぬ化物となったグタフに向かって言った。
「グタフ、お前には世話になった。それは感謝している。他の魔導師や賢者達がするように、オレの後継にさせようかと思った時もあった」
「グググ……」
グタフは、今更言われてもという表情だ。
「だがな、お前にはオレを超えられない。越えようと思った時点で負けだ。分かるか?」
「知らねえよ、偉そうな事言ってんじゃねえよ!」
「お前はお前なんだ。魔法使いであれば、他人との勝ち負けを気にするよりも魔法道を究めるべきだった。発明品や倒したモンスターの数なんて副次的なもんだ。今なら分かる。お前を弟子にしたのは間違いだった」
「うるさい!!」
「だからな…… こんなに醜くなったお前をオレが倒す!!」
「うるせえぇえーー!!」
キャフの体から今までにない光が発せられ、魔法が発動する。
「超雷撃!!」
異空間の中でもその威力は凄まじく、醜悪な化け物となったグタフの右腕を吹き飛ばす。
「え、これキャフ師の本気の本気ですか? まじヤバいんですけど?」
「わ、私もこんなの初めて見るニャ……」
「人間じゃないな、これ」
「ちくしょおぉお!! くらえぇえ!!」
グタフも反撃する。
今度は3人が傍観者となり、化け物とキャフの闘いを見守った。グタフの空間というハンデを背負っても、キャフの魔素はみなぎり精神力はたくましく、見えないほどの速さで次々と魔法を繰り出していく。それは若かりし頃よりも経験を積み、更にパワーアップしたキャフの本気だった。
グタフの劣勢が、見ている側からも明らかになる。
「俺は未だやれるんだ!!」
グタフが吐き出す炎を、キャフは真正面から受け止める。
完全に横綱相撲だ。
「もっと前に本気の闘いをしたかったな。《反射》!!」
グタフが放った炎はキャフが跳ね返し、そのままグタフに直撃する。
「爆超雷撃!!」
よろめいたグタフに与えた更なる一撃で、異空間は破られた。
* * *
ヒュー ドスン!!
「いたっ!」
現実空間に戻ったキャフは、地面に叩きつけられる。
ドン!
「キャっ!」
「ぐえっ!」
ドン!
「ふニャ!」
「ぐわっ!」
ドン!
「うわっ!」
「ぐほっ!」
地面から起き上がろうとするキャフの上に、3人も落ちてきた。
「キャフ師、すいません」
「ごめんですニャ」
「いや、悪いな」
「良いから早く降りろ」
3人は流石に重い。やっと立ち上がると、側には元の姿に戻ったグタフが虫の息で横たわっている。キャフは、グタフの元に行く。グタフも気づいたように、最後の力でキャフの方を向いた。
「大丈夫ですか?」
マドレーが、心配そうに聞く。
「ああ、もうこいつに力は無い」
最後を看取るのは、どんな時でも悲しいものだ。
「き、キャフ先生、す、いま、せん、でした……」
グタフはそれっきり、動かなくなった。




